<特集>南千住仲通り商店街 〜 大将が商品!自家製中華そば「光月軒」

私がお店の暖簾をくぐると丁度お客さんが出てくるところだった。

「おぉ、来たね!ちょうどお客さんと102さんのこと話してたところ。さぁ入って入って。今日はちょっとテンパッててね。やっと今片付いたとこだよ。」

光月軒の店主の小林さんはとっても明るい。顔をくしゃくしゃにして満面の笑顔で迎えいれてくれた。こうしてくれるとこちらもやりやすい。 カウンター1列のお店は新築のようにピカピカだ。カウンターを挟んで小林さんの顔がよく見える。このお店は自家製麺を使った中華そばがうりのお店だ。

– ここの商店街は仲が良いですよね?

私は他の商店街を知りませんからわかりませんけど、少なくともね、今商店街もこういう(お店も少ない)状況ですから、これで仲が良くなければ話しにならないですからね(笑)。

– この柱に飾ってある開店祝いは?

これはね、当時の総理の菅直人じゃなくて、洒落で菅直入ってことで、犬竹のお兄ちゃん(注:同じ商店街にある犬竹魚店)が作ってくれたの。お嬢さんとの合作なのよ。
だからもう開店して5年にもなるんだけど、ずっとこういう状態で置かしてもらってんの。素晴らしいでしょ?手作りなんだから。そういったところは、仲が良い、という商店街ではありますよね。

– この写真はリニューアル前のお店ですか?

それ、一軒目。ここにあった店よ。今回写真の展示でも1軒目と2軒目を出しますけどね。今のお店は3軒目。
こういうお店って建物が痛むんですよ。うちは我慢して我慢して立て直し、っていうね、そういうスタイル(笑)。

丁度お昼ご飯をまだ食べていなかった私は、まずはお店のオススメをいただくことにする。
「もやしそばかな」ということなので即決でそれに決める。

黙々と調理を始める小林さん。手際よくさっささっさと調理していく。調理に向き合っている姿はとても真剣だ。すぐにもやしそばが出てきた。お腹が空いていたのですぐにいただく。

自家製麺はつるっつるで、喉ごしがとても良い。するりと胃に入っていく。
昔ながらの、といえばありきたりで小林さんに叱られそうだが、醤油味のスープは、あぁこれが昔からあるラーメンだよね、と安心できる味だ。最近油っこいものが苦手な私は、むしろこういうラーメンのほうが気持ちが落ち着く。

小林さんの小気味よい調理、話しの口調、飾り気のないそれでいてこざっぱりした店内。そういうものが合わさって肩ひじを張らずにさっさと食べることができる。気持ちがよいお店、という印象だ。

– ご自身の経歴と、お店の歴史について教えてください。

2010年にこの3軒目にリニューアルしたんだよね。11月かな。正確には10月の末ですけど。
生まれも育ちもここ。ここしか知らないんだよ。
お店は昭和27年の秋。9月10月ごろにお店をここに開いたわけなんですけどね。

私の場合はぶっちゃけ他人の飯食ってないんですよ。つまりね、他所のお店で働いたことが無い。かといって親からあれこれ教えてもらったわけでもない。要するに、親のやっている姿を見て、自然に身についた、ということでここまでやってきたんです。

– 作り方も全然教えてもらわず?

ぜんぜん(笑)。
昔の人ですから、父親なんてどこの商売屋もそうだと思いますけど、父親と跡継ぎの息子ってのは一つ壁というか、難しい人間関係ってものがあるわけで息子のほうはなかなかいろんなことを聞きづらい雰囲気ありますでしょ。聞いたところで父親もちゃんと答えられないケースもあるっていうか。
うちなんか、”こんなもんだろ”、”大体そんなもんだよ”、”勘だよ”、とか「あっちむいてホイ」の答えしか帰ってこなかったですからね、、だから、諦めました(笑)。

うちの本家は北千住の大川町ってところにあるんですよ。今は店舗なくなって製麺の卸だけやってるんだけど、うちの父親も手とり足とり教えてもらったりしたわけではないんですよ。だから上手に表現できない。あんなもん、こんなもん、大体ね、それで終わっちゃうんです(笑)。

ですから親の働いてる姿を見て、親の作ったものを食べて、それから親の働いてる姿を見て、自然と染み付いちゃってるんですよ。そういう形で体に染み付いたものを、こういう形で表現させていただいて、商売させていただいているんです。

ちなみにわたしの誕生日って実は8月25日でラーメンの日なんですよ。なんでラーメンの日っていうと日清食品がチキンラーメンを売りだした日なんですよ。

– 小さいころからやっぱりお店は手伝いをされてたんですか?

いや、ぜんぜん(笑)。だってラーメン屋だけはなるまい、って思ってましたから。

私が大学出たときはオイルショックで就職が難しくてね。つまんないところに就職してこき使われるんだったら、ま、いっか、みたいな感じで不純な動機ですよ(笑)。 お店入ってもね、両親ともバリバリやってますから、隅っこからその姿をじっと見ながら覚えていった感じですよね。

体力的にはうちは機械製麺ですからそれほどきつくはないんですが、ぼーっとしてれば怪我しますから緊張感はあります。体力よりは集中力と気力。どんなに忙しくても製麺機を動かすときは違うアドレナリンが出ますね、今でも。

– お店の特徴はありますか?

こういう場所ですから、やっぱりおなじみさんに気に入っていただく、ということが常に意識にあります。
おじいちゃおばあちゃん、その息子さん娘さん、お孫さん、とか、親子3世代で来店されることもあるんですよ。

よく「昔と同じ味だね」って言われるんです。
何十年ぶりかに来られるお客さんなんかもいるんですけど、そういったときに「昔と同じ味だね」って言っていただけるように考えてます。
でもね、ほんとに昔と同じだったら、そのお客さんもいろんなものを召し上がって舌も肥えているわけで、そんな中で「昔と同じ味だね」って言っていただけるのは、うちもそういう意味で多少進化してるのかなって。そういう嬉しさっていうのはありますよね。

長く商売してると、おなじみさんっていうのは本当にありがたいなっていうのを何度も経験させてもらってますんで、だから逆に何かあればいつでも(役に立ちたい)っていうのはあります。

– これまでに苦労したことがあれば教えてください。

建物を立て直したときに製麺機が変わったんですよ。昔に比べると建物を小さくせざるを得なかったんで、スペースの問題もあるので製麺機を買い換えたんです。

昔の製麺機は今の製麺機の3倍ぐらいあって、親父が中古で買ったやつをずっと使ってきたんですけど、あちこち手入れや面倒見ながら使ってたんで、ロートルなんですけど、何十年も一緒にやっていたからツボが分かってたんですよ。

それに比べると、新しくいれたやつはガンガン動くわけですけどさじ加減がわからない。馴染むのに半年はかかったかな。。

– 失敗もありましたか?

1回だけ乾水を入れるのを忘れたことがあるんですよ。全然気づいてなかったんだけど、最終的に茹でてからこれは絶対忘れてるなと(笑)。

お客さんに聞いたんですよ「なんか変じゃないですか?」って。そしたら、「うん、なんか普段より柔らかいけど、まぁ味は大丈夫よ」なんて言っていただいて、、お金は半分だけいただきました。常連さんだから助かった(笑)。汐入から来ていただいているご夫婦の方だったんですけどね。たまたまその方にあたちゃって。人間関係があるから助かったなぁ。

でもその時、この失敗のおかげで乾水が如何に大事なものかがわかったわけ。 廃棄して無駄になるから、わざわざ乾水入れない麺なんか作らないじゃない?失敗のおかげで、乾水にはこういう効果があるんだ、ってのが実感できたんですよ。 だからその経験は役に立ちました。

– お店をやっていて今まで記憶に残った出来事はありますか?

うちのラーメンが「最後の晩餐」になったことがあります。文字通りの最後の晩餐です。

ご近所のお馴染みさんが体調を崩されてね。食事を飲み込むのも厳しい状況になられて。そのときに何を食べたいの、って周りに聞かれて、光月軒のラーメンが食べたい、って言っていただいたんですよ。

うちもすぐにはお届けはできないんだけど、状況を聞いて「分かりました、お店終わった後の夜でよろしければお持ちします」ってことで、お持ちしました。誤嚥が起きると肺炎を起こすリスクもあるので場合によってはスープだけでも、ということでお願いしました。
結果的にそれが口から入れた食事の最後になって数日後にお亡くなりになられました。

それから、もう1人、出身が福島で東京で働いてたお客さんがいました。ご両親は福島で残られていたのですが、地震があって福島のご両親も厳しい状況にあったので、息子さんも非常に心配しながら東京で働いておられました。

若い方なんですけど、ある時お付き合いをされていた女性とうちに来てくださった。で、後で知った話しなんだけど、その時実はガンを患ってらっしゃったんです。お友達が後で来られて、実はそれが最後の晩餐になってしまったんだということでした。

うちで食事を食べた後に急に容態が悪化してしまって、食事も取れなくなってしまってお亡くなりになられたらしいんです。福島でご両親も厳しい生活をされている中で息子さんがそういう状況になって非常に苦しんでおられたらしいんです。

そういうことを聞いてね、うちのラーメンが場合によっては最後の晩餐になることがあるんだなと。だから、心して商売しないとな、って。そう改めて思わされました。

ずっと記憶に残ってます。

– オススメ商品について教えてください。
あんかけのもやしそば、塩味のタンメン、醤油味のラーメン、チャーシュー麺。これが定番です。最近はカタヤキソバもご注文いただくことが増えてきましたね。

みなさんも、光月軒行ったらこれだよね、っていうのを2つ3つ持っててね、それをローテーションで回していらっしゃる感じはありますね。

– 日ごろこだわっているポイントはなんですか?

面倒くさがらないでマメに仕込みをするってことですかね。

例えばカタヤキソバなんかもね、面倒だからたくさん仕込んでおけ、ってやるとやっぱり湿気ちゃうわけですよ。それは衛生上の観点もありますし、もちろん美味しいものを食べていただきたいですからね。

それから、うちは昼の時間に麺は打ってます。通常、中華麺は売ってから3-4日寝かせて水分飛ばしてから出すんですが、できるだけ一番いいタイミングで出せるように測って出してます。

– 「だっちゃん」についての昔の記憶はどんなものがありますか?

やっぱりメンコだねぇ。メンコは相当のめり込みましたねぇ。もちろんダッチャンありましよ。
わたしらが小さいときってのはガキ大将って存在がありましたからね。横関係だけじゃなくて、上下関係もあってね。それがメンコというものでつながってた、ってところもありましたね。
ガキ大将ってのは自分のところの若い衆を守るわけですよ。かわいがるんですよ。いじめとかとは違う関係ですよ。

– 今回出品する予定のだっちゃんについて教えてください

うちはラーメン屋だという意識はあるもんでラーメンは出したいんですけど、やっぱり外で出すとなると設備の問題もあってなかなか難しいんです。ただ、麺は是非食べていただきたい。
昨年は、時期的に寒いということもあってあんかけのカタヤキソバにしました。それで湯煎した餡をキープしておいて、お客さんの注文があったらその餡を掛けて温かい状態で食べてもらえると、そういう思いで出したんですよ。
ただ、去年カタヤキソバをやったときに「ソース焼きそばは?」というお声を何人かいただいたんで、原点回帰でソース焼きそばにします。

うちはいわゆる露店で使う蒸し麺ではなく、自家製の中華麺を使いますので、それを活かすために固めに茹で、水にさらして締めて焼きそばを作りますので、麺にコシがあるのが特徴です。量はおおよそ2人前を3つに分けまして、300円の予定です。

味は素朴であっさり。普通の焼きそばは麺が柔らかいが、小林さんが言うように麺にコシがあって食べごたえがある。また食べに来たいときっと思ってしまう味だ。

– 「南千住」「中通り商店街」はあなたにとってどんな存在ですか?

ここ以外での生活、ここ以外での商売ってのは考えられないですよ。まあ、帰属意識だよね。
高い家賃を払って競合の店と生き残りをかけて、ってのとはちょっと違いますけど、それに甘えることなく、ここで、この商売を長くやりたい、そう思ってる町です。

お客さんにはオススメ商品がどうこう、とか説明することもありますけど、そうすると、ここは大将が商品だろ、大将のキャラクターで客呼んでんだろ!みたいなね(笑)。そんなこと言われることあってそれも嬉しいですよね。

気さくで飾り気のない素朴な人柄がお店にも料理にも表れている光月軒さん。ホッとする味が食べたいときにさくっと立ち寄りたいラーメン屋さんです。
自慢の自家製麺で作られる「原点回帰のソース焼きそば」。ぜひ、だっちゃん市でお試しを。

<店舗情報>

店名:光月軒
住所:荒川区南千住5-31-3
電話:03-3801-5669
営業時間:11:00-14:00、16:30-20:00(金曜定休)

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