フロアで一番広いデジタル推進課デジタル推進課

普段なかなか見えない荒川区のお仕事を直接聞いてくる「リーダーに聞く!荒川区のお仕事」デジタル推進課編の後編です。
前編はこちら
荒川区役所6階の案内板を見ると、デジタル推進課は一番広い部屋でした。
区役所では生成AIをどう使っている?
川村:
生成AIについてもお聞かせください。荒川区役所では実際にどのような業務に使っているんですか?

池杉課長:
荒川区では、業務用の生成AIとして「exaBase 生成AI」を導入していて、職員が業務の中で利用しています。
使い方としては、文章の校正や修正、要約、内容の確認やレビューなどですね。職員によって、いろいろな使い方をしています。
今年度は昨年度と比べても利用がかなり増えています。
とはいえ環境を用意すれば、職員が自然に使うようになるというわけではありません。
「どうやって使えばいいのか分からない」「自分の仕事の何に使えるのか分からない」という職員もいます。
そのため、操作方法の説明だけではなく、具体的な活用例も紹介しています。「こういう業務にも使える」ということを知ってもらうことが大切だと思っています。
先ほどお話しした職員向けの相談会なども活用しながら、実際に使ってもらい、それを庁内に横展開していきたいと考えています。
導入すること自体が目的ではなく、実際の業務の中で活用してもらうことが重要だと考えています。
生成AIで前年度は1万7000時間、今年度はすでに2万2000時間
川村:
生成AIを使うことで、実際にどのくらい業務を効率化できたのかという数字は出ているんですか?
池杉課長:生成AIの利用によって、どのくらい時間を削減できたかという推計値は出しています。
2025年度は、年間で約1万7000時間です。
今年度については、4月から8月までの5か月間ですでに約2万2000時間という推計になっています。
川村:
5か月で2万2000時間ですか。昨年度の1年間をもう超えているんですね。
これは職員の勤務時間を実際に計測して、2万2000時間減ったということではないですよね?
池杉課長:
そうですね。実際の勤務時間を計測した数字ではありません。
生成AIをどの業務に利用したかなどをもとに、システム側で「この作業であればこれくらいの時間が削減できた」と機械的に算出している推計値です。
ですので、実際に職員の勤務時間がそのまま2万2000時間減ったという意味ではありません。
川村:
それでも利用量がかなり増えていることは分かりますね。
効率化というと、人を減らすという話にも結びつきがちですが、荒川区ではどう考えているんでしょうか?
池杉課長:
職員を減らすことを目的にしているわけではありません。
行政の仕事は複雑化していますし、業務そのものも増えています。
生成AIやデジタルを使って効率化できるところは効率化して、そこで生まれた時間を、より丁寧な区民対応や、職員でなければできない仕事に使っていく。
そういう形で、区民サービスの向上につなげていきたいと考えています。
生成AIを安全に使うためのルール
川村:
生成AIを業務で使う上で、セキュリティ面ではどのような対策をしていますか?
池杉課長:
生成AIには、個人情報や機密情報を入力しないというルールを設けています。
職員には利用する際のルールやガイドラインを示して、その中で使ってもらっています。
個人情報と思われるものが入力された場合に、システム側でブロックする仕組みもあります。
例えばマイナンバーのような情報ですね。
ルールだけに頼るのではなく、システム側でも入力を防ぐ対策をしています。
川村:
生成AIの場合、情報漏えいだけではなく、もっともらしい間違った回答をすることもありますよね。
池杉課長:
生成AIが出した回答が必ず正しいとは限りませんので、そのまま使うのではなく、最終的には職員が内容を確認する必要があります。
生成AIに判断を任せるということではなく、あくまで職員の業務を支援するツールとして活用しています。
窓口でも進むデジタル化「書かない窓口」
川村:
ここまでは職員の業務効率化の話が中心でしたが、区民が直接実感できるデジタル化としては、どんなものがありますか?
池杉課長:
例えば「書かない窓口」があります。
窓口で手続きをするときには、これまで申請書に住所や氏名などを何度も書いていただく必要がありました。
書かない窓口では、マイナンバーカードや運転免許証などから情報を読み取って申請書に反映することで、区民の方が書く負担を減らしています。
デジタル化というと、すべてをオンラインにするイメージもあると思いますが、窓口に来られた方の手続きを便利にすることもデジタル化の一つです。
先ほどお話ししたオンライン申請で、そもそも区役所に来なくてもできる手続きを増やすこととあわせて、実際に窓口に来られた方の負担も減らしていきたいと考えています。
荒川区公式LINEもリニューアル
荒川区の公式LINEを7月下旬にリニューアルしました。
これまでは区からのお知らせを配信するという使い方が中心でしたが、リニューアル後は、リッチメニュー(LINEトーク画面に表示されるメニューボタン)をイラスト入りで見やすくすることで利用者が興味のある分野を選びやすく、必要な情報を受け取れるようにしています。
子育てやイベントなど、自分が関心のある情報を選んで受け取ることができます。
また、区のホームページの情報を探す機能にもAIを活用しています。
キーワードでページを探すだけではなく、知りたいことを入力してもらい、必要な情報にたどり着きやすくする仕組みを取り入れています。
デジタルを活用して、区民の方が必要な情報をより探しやすく、受け取りやすくしていきたいと考えています。
デジタル化を進めても、対面の窓口は残す
川村:
オンライン手続きやLINEなどが便利になる一方で、スマートフォンやデジタル機器が苦手な方もいますよね。
池杉課長:
そうですね。デジタル化を進める中では、そうした方への支援も必要だと考えています。
ふれあい館などで、スマートフォンの使い方を相談できる取り組みも行っています。
基本的な操作だけではなく、アプリの使い方や、区が提供しているアプリ、防災関係のアプリなどについても相談していただけます。
川村:
デジタル化するから、これからは全部自分でスマートフォンからやってください、ということではないんですね。
池杉課長:
もちろん、そうではありません。
オンラインでできる手続きは増やしていきますが、対面での対応が必要な方もいらっしゃいます。
デジタルを使える方には便利に使っていただきながら、必要な方にはこれまでどおり対面でも対応する。どちらか一方にするのではなく、それぞれに合った方法を選べるようにしていくことが大切だと考えています。
町会・自治会にもLINEを活用
川村:
区役所の中だけではなく、地域のデジタル化についても支援しているんですか?
池杉課長:
町会・自治会のデジタル化についても支援しています。
取り組みの一つが、町会・自治会でのLINEの活用です。
これまで町会・自治会からのお知らせは、回覧板や掲示板など紙を中心に行われてきましたが、LINEを使って情報を発信できるよう、導入を支援しています。
川村:
どのくらいの町会・自治会が導入しているんですか?
池杉課長:
すでに導入しているところだけではなく、これから導入しようと考えているところも含めると、半数程度がLINEの活用に向けて動いています。
まずは町会・自治会からのお知らせを配信するところから始めています。
川村:
将来的には、回覧板そのものをLINEに置き換えるようなことも考えられますか?
池杉課長:
そうした活用も考えられると思います。
ただ、LINEを使わない方もいらっしゃいますので、すぐに紙をなくすということではありません。
デジタルを使える方にはLINEなどで情報を届けながら、必要な方には紙でも届ける。地域の状況に合わせながら進めていくことが必要だと考えています。
行政のデータをAIから使えるようにできないか
川村:
行政が持っている情報をAPI、MCPなどで外部から使えるようにすることは考えられないでしょうか。
例えば「明日のゴミは何?」とAIに聞いたときに、荒川区が持っている正確な収集日のデータをAIが取得して、そのまま答えてくれるような仕組みです。
区が一つひとつサービスを作らなくても、正しいデータを使いやすい形で提供すれば、民間のサービスや生成AI側でいろいろな使い方ができると思うんです。
池杉課長:
なるほど。区が持っている情報を、外部のサービスから利用できるようにするということですね。
川村:
最近ではMCPという、生成AIと外部のデータやツールをつなぐ仕組みも出てきています。
行政がすべてのAIサービスを自分たちで作る必要はなくて、荒川区が正確な情報を提供するところまでを担い、それをどう見せるか、どう使うかは民間に任せるという考え方もできると思います。
そうすればChatGPTのような生成AIからも、荒川区の公式情報を直接参照して答えられるようになるかもしれません。
池杉課長:
そういう考え方もありますね。
区が持っているデータをどのように活用していくかということは、今後考えていく必要があると思います。
川村:
行政が新しいサービスを全部作ろうとすると、どうしても時間も費用もかかります。
データを使えるようにするところを行政が担って、その先は民間に作ってもらう。そういう役割分担ができると面白いと思います。
DXを進める上での課題は?
川村:
ここまでいろいろな取り組みを聞いてきましたが、区役所全体でDXを進めていく上で、課題になっていることはありますか?
池杉課長:
職員全員が同じようにデジタル化に取り組めているわけではない、というところは課題だと思っています。
ただ、それはデジタル化に関心がないとか、やりたくないということではありません。
それぞれの職員には通常の業務がありますので、日々の仕事が忙しい中で、新しいツールを覚えたり、今の仕事のやり方を変えたりするところまで手が回らないこともあります。
川村:
便利になると分かっていても、そのための時間を最初に作れないということですね。
池杉課長:
「こういうツールがありますので使ってください」と用意するだけでは、なかなか進みません。
デジタル推進課の方から各部署に働きかけたり、相談を受けたりしながら、実際の業務にどう取り入れられるのか一緒に考えていく必要があります。
デジタルを得意とする職員だけが進めるのではなく、職員が取り組みやすい環境をどう作っていくかも、デジタル推進課の役割だと考えています。
デジタル化そのものが目的ではない
川村:
最後に、今後デジタル推進課として、荒川区をどうしていきたいと考えていますか?
池杉課長:
区民サービスのデジタル化と、庁内業務の効率化の両方を引き続き進めていきたいと考えています。
生成AIについても、ただ利用を増やすだけではなく、実際にどのような効果が出ているのかを見ながら活用していく必要があります。
職員の数にも限りがありますので、デジタルを活用することで、一人ひとりの職員が持っている力を最大限発揮できるような環境を作っていきたいと思っています。
新しいシステムを導入したとか、オンラインでできるようになったということだけではなく、最終的には区民の方に「便利になった」「よくなった」と感じてもらうことが大切です。
デジタルはそのための手段ですので、区民サービスの向上につながる形で進めていきたいと考えています。
取材を終えて
今回取材して印象に残ったのは、デジタル推進課が単に新しいシステムを導入するだけの部署ではなかったことです。
2400以上ある行政手続きの中から優先順位をつけてオンライン化を進め、生成AIについても導入して終わりではなく、どうすれば職員に使ってもらえるのかを考える。必要に応じて外部の専門人材も活用しながら、各部署と一緒になって業務を変えていく。
取材前に想像していた以上に、民間のIT企業に近い考え方で仕事を進めていると感じました。
また、荒川区だけで取り組んでいるわけではありません。
荒川区はGovTech東京に参加し、東京都や他の自治体ともデジタル化に関する知見や事例を共有しています。自治体ごとに同じようなシステムや仕組みを一から考えるのではなく、うまくいった事例やノウハウを共有していくことも、行政のDXを進める上では重要なのでしょう。
一方で、デジタルが苦手な人にすべてオンラインでの手続きを求めるわけではありません。オンラインで済ませたい人はオンラインで、対面で相談したい人には窓口を残す。それぞれが使いやすい方法を選べるようにすることもDXの一つです。
今回、荒川102からは、行政が持つデータをAPIやMCPなどを通じてAIや民間サービスから利用しやすくすることも提案しました。
数年後、「荒川区、便利になったよね」と感じたとき、その裏側にはデジタル推進課の仕事があるのかもしれません。
池杉課長、お忙しい中ありがとうございました。