荒川区役所6階のデジタル推進課へ

今回取材に訪れたのは、荒川区役所のデジタル推進課。部屋に入って、まず感じたのは「これまで見てきた区役所の景色と違う」ということでした。
とにかく紙がない。
机の上や周囲に書類が積まれている、いわゆる役所の執務室という雰囲気ではありません。席も固定されておらず、フリーアドレスになっています。
実際、この仕事環境を見に、区役所内の他部署から視察に来ることもあるそうです。
ただ、最初にフリーアドレスを導入したと聞いたとき、個人的には少し疑問がありました。
民間の大企業ではフリーアドレスを経験したうえで、固定席へ戻す動きもあります。それなのに、今からフリーアドレスを導入するのは時代に逆行しているのではないか、と。
ところが、話を聞いてみると理由が違いました。
デジタル推進課では、取り組む事業によって外部の人材も活用しています。必要となる人数は常に一定ではなく、事業の規模や時期によって増減します。
固定された人数を前提に席を用意するのではなく、その時々の体制に合わせて柔軟に働けるようにする。そのためのフリーアドレスでした。
単に流行のオフィススタイルを取り入れたわけではなかったのです。
では、そんなデジタル推進課は、荒川区役所の中で何をしている部署なのでしょうか。
今回は、荒川区政策企画部デジタル推進課の池杉課長に、荒川102代表の川村がお話を伺いました。
デジタル推進課は何をする部署?

川村:
まず、デジタル推進課は今年度からできた部署ということですが、これまでデジタルを担当していた部署とは何が変わったのでしょうか?
池杉課長:
デジタル関係の業務自体が今年度から新しく始まったわけではありません。
昨年度までは総務部の中にデジタルを担当する部署がありましたが、今年度から政策企画部に位置付けられています。
総務部の中にあると、どうしても庁内のシステム管理という意味合いが強くなります。もちろんシステム管理も引き続き重要な仕事ですが、それだけではなく、政策的な取り組みと一体になってデジタル化を進めていきたいという背景があります。
川村:
政策企画部に移ったことで、役所内部のシステムだけではなく、区民向けのサービスなども含めて強化するということですか?
池杉課長:
デジタル推進課だけですべての施策を行うわけではありません。
たとえば窓口のデジタル化であれば、実際の窓口業務を担当している所管課があります。産業分野であれば、その業務を担当している所管課があります。
それぞれの業務を担当する所管課と一緒になって、デジタルの面から支援していくのがデジタル推進課の役割です。
政策企画部には、政策を企画したり各部署と調整したりする機能がありますので、そこにデジタル推進課を置くことで、庁内の業務だけではなく、区民向けのサービスも含めて各部署と一体的に取り組んでいきたいと考えています。
区役所の「社内SE」のような役割も
川村:
デジタル推進課は、一般企業でいう「社内SE」のような役割も担っているのでしょうか?
池杉課長:
そういう役割もあります。
日常業務の中で、職員から「パソコンの操作が分からない」「これは故障なのか」といった相談もありますし、「こういうことをデジタルでできないか」といった相談もあります。
ただ、デジタル推進課に相談すること自体を難しく感じる職員もいますし、通常業務が忙しくて、なかなか相談に来られない職員もいます。
そこで昨年度から、職員が気軽に相談できる場を庁舎内の会議室に設け「なんでも相談会」の取組を始めました。
予約をして正式に相談するというより、好きな時間にふらっと立ち寄って、分からないことを聞いてもらうような場です。これまでに3回ほど開催しています。
「ふらっと来てください」と言っても、通常業務をしながら会場まで来るのが難しい職員もいます。
そのため、会場だけではなくオンラインでも参加できるようにして、ハイブリッド形式でも行っています。
デジタル推進課だけで進めるのではなく、各所管課にいるデジタルに詳しい職員にも活躍してもらいたいと考えています。
どうすれば職員に利用してもらえるのか、どうすれば庁内にデジタル活用を広げていけるのか、試行錯誤しながら取り組んでいるところです。
デジタル推進課の職員は専門職?
川村:
デジタル推進課の職員は、もともとデジタル分野に詳しい方が集められているんですか? エンジニアなどの専門職として採用された方が中心なのでしょうか。
池杉課長:
必ずしも、全員がエンジニアやデジタルの専門職として採用された職員というわけではありません。
デジタル推進課の職員も、それまで区役所のさまざまな部署を経験しています。窓口関係や企画、環境部門、産業関係、教育委員会など、いろいろな業務を経験してきた職員がいます。
デジタルの専門知識だけではなく、区役所の業務を理解していることや、各部署との調整も必要になります。
川村:
ただ、システムを導入したり事業者を選定したりするときには、かなり専門的な知識が必要になりますよね。区の職員だけで、提案されたシステムや技術が適切なのか判断するのは難しくないですか?
池杉課長:
重要なシステムを調達するときには、プロポーザルで事業者を選定することがありますが、そうした際には外部の専門家にも入ってもらっています。
システムを導入する前にも専門家の目で確認してもらうなど、専門的な部分を区の職員だけですべて判断しているわけではありません。
また、デジタル化を進める一方で、情報セキュリティも非常に重要です。
荒川区にはCISO(最高情報セキュリティ責任者)を置いていて、副区長が務めているほか、外部の専門人材を情報セキュリティアドバイザーとして委嘱し、情報セキュリティに関する方針や取り扱いについても、専門的な助言を受けられる体制を設けています。
川村:
外部の専門家はアドバイスをする立場で、実際に職員と一緒に業務改善を進めるような人材もいるんですか?
池杉課長:
はい。専門的な助言をする方とは別に、現場で職員を直接支援する外部のデジタル人材にも入ってもらっています。
区の会計年度任用職員として配置し、職員と一緒に業務改善などに取り組んでもらっています。
区の職員だけですべてを行うのではなく、必要に応じて外部の専門的な知識や人材も活用しながら進めています。
行政手続き500件以上のオンライン化へ
川村:
今年度、デジタル推進課として特に力を入れている取り組みは何ですか?
池杉課長:
大きなものの一つが、行政手続きのオンライン化です。今年度の主要事業にも位置付けていて、年度末までに500以上の手続きをオンライン化することを目標にしています。
川村:
500件というと、かなり多いですよね。
池杉課長:
ただ、区の手続き全体では2400以上あります。
川村:
2400以上もあるんですか。その中からオンライン化する500件は、どうやって選んでいるんですか?
池杉課長:
すべてを一度にオンライン化することはできませんので、よく利用される手続きや重要性の高いものなど、優先順位をつけながら進めています。
川村:
利用頻度や重要度を見て、効果の大きいものから優先順位をつけて進めているんですね。
IT企業でサービスを開発するときの進め方に近くて面白いですね。
池杉課長:
オンライン申請のフォームについては、職員自身で作ることができる仕組みがあります。
ただ、初めて使う職員がすぐに作れるかというと、なかなか難しい部分もあります。「オンライン化したいけれど、どうやって作ればいいのか分からない」ということが、これまで進まなかった要因の一つでもありました。
そこで今年度は予算を確保して、職員だけでは作成が難しいものについては、委託事業者にも入ってもらって作成を進めています。
もちろん一度作って終わりではありませんので、その後のメンテナンスが必要になります。
そのため、事業者に作ってもらうだけではなく、職員向けの研修や操作説明会なども行っています。
作成した後は、できるだけ職員自身で修正やメンテナンスができるようにしていきたいと考えています。
川村:
現在はどのくらいまでオンライン化が進んでいるんでしょうか?
池杉課長:
取材時点では380を超える手続きがオンライン化されています。
今年度当初は300件台前半でしたので、8月までで60件程度増えています。
今後予定しているものが計画どおり進めば、年度末の500件という目標に近づいていきます。
ただ、実際にオンライン化を進めてみると、制度上の理由などから難しいものもあります。予定している手続きがすべてそのままオンライン化できるとは限りませんので、現時点では目標に向けて進めているところです。
前編はここまで。
後編では、荒川区役所で実際に進んでいる生成AIの活用について、さらに詳しく聞いていきます。
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