松田奈那子「ジョゼが描いた世界」展、東尾久OGU MAGで開催中

この記事は約8分で読めます。

ジョゼが描いた作品に会える企画展


実写映画としても大きな注目を集めた田辺聖子による短編小説『ジョゼと虎と魚たち』。2020年にはアニメ映画が公開され、現代風にアレンジされた世界観やみずみずしい描写で新たに多くのファンを獲得しました。

東尾久のギャラリーOGU MAGでは、主人公のジョゼが描いた劇中画の原画展「松田奈那子『ジョゼが描いた世界』展」を2022年2月27日(日)まで開催中です(入場無料)。画家・絵本作家の松田奈那子さんによる、絵本『にんぎょとかがやきのつばさ』を含む約50点の作品を展示しています。

松田さんご本人に作品に込めた思い、制作のエピソードを伺いました。

関連記事: ものづくりを感じる場所に…東尾久のカルチャー発信地OGU MAG+リニューアル

 

ジョゼならどうする?を問い続けた1年半


―― 映画の劇中画を描くことは、ご自身の作品をつくることとは制作工程が異なるのではと思います。どういった思いを込めて制作されましたか?

(松田奈那子さん 以下同じ)もともと『ジョゼと虎と魚たち』の原作も実写映画も好きで、アニメ映画の脚本も含めてジョゼの人物像は一貫していると感じていました。繊細で臆病でありながらも、好奇心旺盛で芯の強い女性のイメージです。

ジョゼが描く絵はどういったものか、タムラコータロー監督とイメージのすりあわせを行うことから始めました。

最初にお話をいただいたのが2018年の4月頃です。映画公開が2020年12月ですから、そこから1年以上ずっとジョゼのことを考えていました。画材は何を使うかといった絵に直接関わることから、生活環境まで。「車椅子ならこの場所ではどうするか?」と考えることもあり、普段は気を配れていないことに気づくことも多かったですね。自分にとって特別な時間になりました。

舞台となる大阪にも足を運びました。いただいていた資料をもとに作品制作の検討を進めたのですが、やはり実際の空気を感じたくて。

この絵はアメリカ村の街灯です。こんな人の形をした街灯があるなんて、現場を訪れてみて初めて気づきました。ジョゼと恒夫が一緒に歩いた風景を車椅子の高さで観察し、ジョゼなら何に心が躍るのかなと問いかけながら制作を進めました。

―― 劇中で初めて登場するジョゼの作品は、印象的なクジラの絵ですね。

この絵はジョゼが理想とする「窓から見える風景」です。実際の風景が気に入らなくて、窓からの風景に代わるものとしてジョゼが描いた絵というテーマを受けて制作しました。劇中画の中で最初にできた作品で、もっとも時間を要した作品でもあります。

―― タムラ監督からはどのようなオーダーがあったのでしょうか?

冒頭の絵と後半の絵の変化をどうつけるか話し合いを重ねたのですが、監督のお話で印象的だったものがあります。

最初の絵を暗く描いて後半の絵を明るくすると、恒夫と会う前のジョゼは不幸だったというイメージになってしまう。そういうふうには絶対したくない。外に出かけるようになる前もジョゼは自分の世界の中で楽しみを見つけていたはずだ、とおっしゃって。はっとさせられました。

クジラの絵を描き上げたことで制作の方向性が固まりました。画材の幅の広がり、絵のモチーフや、生き物が多くなり賑やかになっていく様子で変化を見せています。

たとえばクジラの絵は、A3の紙を3枚つないでいます。映画の冒頭で登場するときには2枚なんですが(上の写真、上部の青い絵)、ストーリーの後半で左側の光が差し込んでいる部分が追加されています(下の写真、右上)。

きっとジョゼが絵を描き始めたとき、紙は1枚だったのだと思います。描いているうちにもっと描きたくなって、2枚目を追加したと想像しました。

パステルから水彩へ……画材の変化で読み解くジョゼの成長


―― 恒夫との出会いでジョゼが描く作品にも変化が生まれています。心象風景や想像の世界から、より現実的なものに移り変わっている印象を受けました。

外に出るようになってからのジョゼの絵は、本人が見て触れて感動したもの、印象に残ったものを題材にしました。ジョゼなら何を描きたいのかなと思いをめぐらせ、恒夫と歩いた街の風景やカフェのパンケーキ、タピオカといった2人の思い出を描いています。

題材が移り変わっているほか、描きかけだった絵は完成し、描き足した部分には光が差して、海の生き物の数が増えるなど賑やかになりました。

―― 作中に登場する絵には、さまざまな画材が使われています。ジョゼの描く絵としてどのように画材選びをされたのでしょうか?

前半で登場する作品はパステルと色鉛筆を使っています。これらは水を使わない画材です。車椅子生活をしているジョゼにとって、画材のために自分で水をくむのは大変な作業のはず。

私は自宅アトリエで子ども向けの造形教室をしているのですが、ほんの小さな段差でもバケツの水をこぼしてしまうことがあります。水が入ったバケツを使うことはそれだけで難易度が高いと感じていました。

作品の後半、ジョゼは自分でペットボトルに水をくんで絵の具で絵を描いています。恒夫と一緒に歩いた外の世界で水彩絵の具に触れたことがきっかけなのでしょう。

2人が出会った日、のどが渇いたというジョゼに祖母のチヅがコップに入れた麦茶を渡すシーンがあり、このとき恒夫に「甘えすぎなんじゃないの」と言われてジョゼはすねてしまいます。チヅに対する恒夫の「ペットボトルにするとかあるじゃないですか」という発言がヒントになり、提案させていただきました。

絵の具でジョゼが描いた作品は、私も同じようにペットボトルを水入れ代わりに使用して制作しました。

絵本の最後の1ページに込められた思い


―― 映画の後半でジョゼは絵本『にんぎょとかがやきのつばさ』を描きます。それまでの絵は自分のための作品でしたが、この絵本は彼女にとって初めて、人の心を動かすために描いた作品です。松田さんが込めた思い、産みの苦しみを感じた点などあれば教えてください。

絵本に関しては「映画の中の重要な場面」と最初に説明されていたので、「その絵を私が? 大丈夫なのかな」とプレッシャーを感じましたね(笑)。

私も学生の頃は自分のために描いていた部分が多かったと思います。絵を通して人とコミュニケーションを取りたい気持ちに共感できました。多くの人と話し合いをしながら、みんなでつくり上げた絵本になりました。

―― 作中でも司書の花菜ちゃんと相談しながらジョゼが試行錯誤する姿が描かれています。

普段は私も編集者さんと相談を重ねながら絵本の制作をしているため、ジョゼが自分と重なります。これまでの自分自身の絵本制作につながる部分もあれば、映画ならではの違いもありました。

図書館での読み聞かせの場面なので、恒夫や子どもたちなどその場に居合わせた人の様子が映し出されるカットもあれば、回想シーンもある。絵本ならディティールにこだわってじっくり見てもらったり、前のページを見返してもらったりできますが、今作では観客に違和感なく作品の意図を伝える必要があります。

自然にストーリーを進めていけることと、ジョゼが描いた絵として成立させること。そのバランスをどうするか葛藤がありました。劇中画ならではの観られ方だと思います。

絵本のラフ画は映画のチラシに使われました

―― 最後のページがとても印象的です。

監督たちと構図を相談しました。最終的に人魚の尾ひれをクローズアップしたものになりましたが、ラフの段階では人魚の全身を描いたものなど、引きの構図のものもご提案しています。

主人公の2人に重ね合わせると「ジョゼはどうなっちゃうんだろう?」と感じるページです。希望を感じられるものにしたいと考え、水面のきらめき、透明感を強調しました。海の底に戻っていくけれど、そこは悲しい世界ではない。いろいろなものに触れて人魚は成長し、同じ環境に戻ったとしても見えるものが変わっているのです。

彼女の決意が込められているページのため、尾ひれの力強さを意識しています。他のページのふわっとした印象と異なり、自分で泳いでいくという思いを込めました。

街中で「ジョゼ虎」を楽しもう! 尾久の人たちがつないだ縁


―― このような映画にまつわる展覧会が荒川区内のギャラリーで行われるのは珍しいこと。OGU MAG代表の齊藤英子さんに、展覧会の開催にいたった経緯を伺いました。

(齊藤英子さん)近くの天ぷら屋、天ふじのご夫婦が松田奈那子さんを紹介してくださったのが出会いのきっかけです。私がアラカワ・アフリカという荒川とアフリカをつなげるアートプロジェクトのイベントを企画運営していて、松田さんはちょうどモロッコから帰国したところ。天ふじさんがイベントに松田さんを連れてきてくださいました。

「何かやりたいね」と言っていたらアニメーション版「ジョゼと虎と魚たち」の劇中画を担当されることになって。天ふじさんも2020年末に公開された映画をすぐ観て「原画展をOGU MAGでやってほしいなぁ」と言ってくれたんです。その頃から展覧会の構想はありました。松田さんの展覧会の多くは都心の書店で開催されるものでしたし、絵画教室の子どもたちに先生の絵の展覧会を地元で見せてあげたい気持ちもあって。

私が映画の仕事をしていることもあり、近くのミニシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」さんとOGU MAGで何度かコラボイベントを企画してきました。チュプキさんはユニバーサルシアターで、目や耳が不自由な人も、ジョゼのような車椅子の人も映画を楽しめるので「ジョゼと虎と魚たち」の上映はぴったりです。そして展覧会と映画の上映期間を合わせられるこのタイミングでの開催になりました。

2月28日(月)までシネマ・チュプキ・タバタにて、松田奈那子さんの絵が登場する「ジョゼと虎と魚たち」が上映されます。ぜひ、あわせてお楽しみください。

OGU MAGの原画展も車椅子対応をしています。実はこれも荒川区内で介護関連の仕事をされている方々にご協力いただいたものです。段差はありますが仮設スロープが設置可能な展示空間になっているため、すべての作品をご覧いただけます。

『ジョゼと虎と魚たち』の原作小説も一緒に紹介されています。短編なのですぐ読めますよ

また、近くにある尾久図書館でも「あらかわゆかりの人」として松田奈那子さんの絵本を以前から紹介してくださっていたんですが、今回の展示に合わせてコーナーをつくっていただきました。

もちろんOGU MAGでも併設されているカフェで絵本の紹介、販売を行っています。コーヒーと焼き菓子を提供していますから原画展をご覧になったあと、ゆっくりお楽しみください。どれものびのびとした自然、動物への愛や、きょうだい愛の温かみが感じられる作品です。

松田奈那子「ジョゼが描いた世界」展は、2月27日(日)まで。原画の魅力に触れてからもう一度映画を観ると、きっと新しい発見があるはずです。


<イベント情報>

  • イベント名:松田奈那子「ジョゼが描いた世界」展
  • 会期:2022年2月3日(木)〜27日(日)
  • OPENは木曜〜日曜(休廊:月曜〜水曜)、13:00〜19:00 (最終日は17:00まで)
  • 入場料:無料

<会場情報>

荒川102の公式SNSをフォローする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です