パン好きもうなる本格派の南仏風パンが、下町・町屋に誕生
町屋のスーパー、ココスナカムラの隣に2018年10月にオープンした、おしゃれな南仏風のパン屋さん「スカイプロバンス ベーカリーカフェ」。少しずつ地域に浸透し、親子連れからパン好きのグルメまで多くのお客さんで混雑する人気店になっています。
なぜ下町である町屋に南仏風のパン屋さんが? 町屋に住んでいながらそう感じていた私も、一度その味に触れてからというもの、小麦の甘さと芳醇な香りを味わえるそのパンの虜に。毎週末の朝食には欠かせない存在となっていました。
今回、そのおいしさの秘密に触れるべく、店主の宮崎義仁さんにお話をお伺いしました。
一晩寝かして焼き上げる、絶品バゲット
「当店のパンは小麦の香りを楽しんでいただくため、イーストの分量を極めて少なくしました。そのぶん、生地の熟成時間をたっぷりとっています」
宮崎さんは、開口一番、製法の特徴をこう語りました。通常は3時間ほどであるというパン生地の熟成に、スカイプロバンスでは一晩をかけています。イーストの量を多くすれば早く熟成が進みますが、そうするとイーストの香りが立ってしまい、小麦の香りを邪魔してしまうのだとか。
スカイプロバンスのバゲットの名前は「バゲット・オーバーナイト」。一晩かけて産み出される香りへのこだわりが、ここにも現れています。
南仏のエッセンスを盛り込んだ、パンの数々
「本格的な南仏風のパンや、大好きなフレンチの要素を取り入れたパンを作ることを心がけています。あんパンなど日本独自のものにもチャレンジしましたが、お客様にリピートしていただけるパンは、南仏風でした。町屋のお客様に受け入れられているようで、うれしく思っています」
お年寄りも多い町屋において、バゲットをはじめとした固めで歯ごたえのあるパンは人気が出るのだろうかと気がかりだったのですが、心配する必要はなさそう。南仏の文化を伝えたいと考える宮崎さんは、お客さんの反応から町屋の懐の深さを感じ、自信を得たそうです。
ここでいくつか、スカイプロバンスのパンを紹介していきましょう。
ざっくりとした食感にこだわったクロワッサンは、国産バターを100%使用。パン・オ・ショコラは、ベルギー産のほろ苦いチョコレートを巻き込んだクロワッサンです。
甘さのなかに塩味を感じる、ソルト・バター・ブリオッシュ。セレアル・バターはローストされた雑穀が香ばしく、もっちりとした食感で食べごたえ十分! ラズベリー・ショコラ、オランジュ・ショコラは、チョコレートのコクとやさしい甘みがフルーツの爽やかさを引き立てます。
おやつにもぴったりの、やさしい甘さのパンも充実。
パン生地と一緒にラ・フランスを焼き上げ、シナモンで香りづけしたラ・フランス・シナモン。
カヌレはおいしさを追求し、パティシエ経験のあるスタッフと試行錯誤を続けています。まだまだおいしくできると、宮崎さんは意欲を見せます。
この他にも、さまざまな惣菜パンが並び、飽きさせることがない店内です。
パンだけでなく、コーヒーも用意しています。宮崎さんの奥様が自宅で焙煎しているというコーヒーは、苦味がしっかりと楽しめる濃いめの飲み口。牛乳を入れてカフェラテにすると、甘みのなかにすっきりとした後味が感じられる逸品です。
あまり見かけない珍しい豆を探してきては仕入れ、華やかな香りのフルーティーな豆と、ビターチョコレートのようにしっかりした味わいの豆の2種類を常に用意しているのだとか。パンと同様、テイクアウトのほか店内でも楽しめます。
このように、バリエーションに富み、こだわりが見られるメニューの数々。宮崎さんの創作意欲は、どこから湧いてくるのでしょうか。
「ものを作ることが好きで、大学では建築を専攻し、建築業界でサラリーマンとして働いていました。味はもちろんのこと、見た目にも美しく、人の心を動かすパンを作りたいと考えています。誰も見たことが無いようなパンを作りたいですね」
えっ、脱サラしてパンで独立されたのですか? 詳しくお話を伺うと、宮崎さんから驚きのエピソードが語られました。
趣味がこうじて一念発起。35歳を越えての決断
大学卒業後、宮崎さんは建築業界で営業マンとして働き始めます。約10年で3社ほどの会社でキャリアを積んだある日、奥様がカルチャーセンターのパン作り講座の体験会に興味を示されたそう。近くのパン屋さんに夫婦で通うようになっていた宮崎さんは、この体験でパン作りの楽しさに感銘を受けます。半年単位のコースを次々に受講し、2年半で全ての講座を終了してしまいました。
一通りの学習を終えたとき、宮崎さんは「がんばれば自分でもパンを作れるのではないか」という感触を得たそう。35歳のとき、勤めていた会社を辞めてパン業界への転身を決意し、パンの製造、販売を行うチェーン展開をしている会社に正社員として就職をします。
未経験ながら採用されたという点は驚きであるものの、ここまでは、ままある話だと言えるでしょう。私が驚いたのは、フランスでの修行にいたるエピソードです。
断られてからが勝負! 単身渡仏し、粘り勝ちでパン屋に弟子入り
パン業界への転職を決意したとき、すでに南仏風のパンで独立することを決めて奥様に3カ年計画をプレゼンしたそう。南仏風で勝負をしていく以上、現地での修行は必須と考え、国内で修行を積んでいよいよフランス行きを決意します。しかし、ここまででフランスのパン屋さんとのコネクションはありません。
過去の経験から、パリではなく、海があるリゾート地で、都市でありながらも人の温かみを感じる南仏のプロバンス地方に親しみを持っていた宮崎さん。プロバンス地方でもパン屋の多いニースに目をつけ、Googleマップで「ニース パン屋」と検索して表示された全てのお店をリストアップしました。単身でフランスに渡り、その1軒1軒を訪ね、パンを食べては「修行させてほしい」と頼み込みます。
もちろん、そんな話はすぐに受け入れてもらえません。多いところでは100メートルに1軒ほどパン屋が密集しているというニースでも、2日間でリストを回りきってしまいました。しかし、奥様にはパンで独立すると意気込み、プレゼンまでしています。成果がなかったと帰国することだけは避けようと、リストを1軒目から順に再訪。
「また来た、話が通じなかったのか、と思われたでしょうね」と笑う宮崎さんですが、ここには営業で培った根気強さが発揮されました。「49軒目くらいで、取ってもらえることになったんです。ニースのパン屋のことなら、地元の人より詳しいと思いますよ。全てのお店のオーナーと話をしていますからね」
修行を終えて帰国後、日本の別のお店で修行し、再度フランスでも別のお店で学びました。全ては、自らに足りない経験値を補うため。パンの製法や衛生観念など、あらゆる点で違いがあったこれらのお店からパンにまつわるさまざまなことを吸収し、選択肢を増やすことを考えたと言います。
フランスで修行した2つのお店に共通していたことは、長時間熟成による製法。多くの環境で学び、選び取った手法と、フランスでの経験がスカイプロバンスとして結実しました。
町屋は荒川のプロバンス。もっと南仏風パンを広めたい
冒頭で「どうして町屋に?」という疑問を感じていた私も、インタビューを続けるなかで宮崎さんがおっしゃった「都市でありながら、人の温かみがある」という南仏の特徴は、なんだか荒川区にも通じるところがあるように感じ始めてきました。
「はい、私がフランスの修行先でもパリを選ばなかったように、お店を出すならば下町でと決めていました。店舗の物件を探すなかでいくつかの街を回りましたが、尾久の原公園がすごく気に入ってしまって。春の空気感とあいまって、ワインやチーズ、バゲットでピクニックをしたくなるような雰囲気に、プロバンスに通じるものを感じました。思わず『荒川のプロバンスを見つけました』と、Instagramでも投稿してしまったほどです」
最後に、実際に町屋でお店をオープンされてからの印象と、これからの展望についても伺ってみました。
「町屋は飲食店が元気な街。こういったお店を育てる、食に興味がある人たちが住んでいる環境に魅力を感じています。実際に、南仏風というこの辺りには無かったパンを、地域の方々は受け入れてくださっています。これからも本格的な南仏風パンを提案していきたいですね」
<店舗情報>
- 店名:スカイプロバンス ベーカリーカフェ
- ホームページ:https://sky-provence-bakerycafe.business.site
- Instagram:https://www.instagram.com/skyprovence/
- 営業時間:12:00~19:00
- 定休日:日曜、月曜
- 電話番号:03-6807-6076
- 住所:東京都荒川区町屋3-20-16 ブリリオ町屋 101
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