ギャラリーOGU MAGで開催中:落合由利子 写真展「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」

東尾久のギャラリーOGU MAGにて11月9日(日)まで、写真家・落合由利子氏による写真展「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」が開催されています。

本展は、落合氏が6年間にわたり取材を続けた後藤絹さん(2015年に101歳で逝去)の波乱に満ちた人生を表現したものであり、一人の個人史を通して戦争と平和と、生きるということを深く考えるきっかけとなる展示です。

10月26日(日)に開催されたアーティストトーク「絹さんを語る」の内容を交え、本展の魅力をご紹介します。

 

絹さんの90年を通して考える、戦争と平和


本展は、1913年生まれの後藤絹さんの、日々の暮らしに流れる時間を写し撮った写真で構成されています。

1939年、看護婦をしていた26歳の絹さんは家の事情により、当時の国策であった開拓団として満州(現中国東北部)へ渡りました。

開拓団の青年と結婚し3人の子どもを授かりますが、1945年8月9日のソ連軍侵攻による大混乱の避難生活の中で、3人の子どもを次々と亡くすという過酷な経験をします。

日本の敗戦後も、絹さんは持っていた看護婦免許のため帰国が遠ざけられ、中国共産党の八路軍従軍看護婦として「留用」(国に留めておいて使われること)され、後方衛生部隊として3年間従軍しました。

1949年の中華人民共和国成立後は、ハルピン医大で看護婦養成のために働き、日本敗戦から8年後の1953年、39歳でようやく帰国。

帰国後はシベリア抑留を経て天城山麓に入植していた夫と再会し、再び生活を始め、2人の子どもにも恵まれました。

夫を亡くした後も、絹さんは伊豆半島の中央に位置する天城の山奥で一人畑を耕しながら、「今が一番幸せだよ」と語って日々を暮らしていました。

 





写真家・落合由利子氏と絹さんとの「共同作業」


写真家の落合由利子氏は、ある編集者の紹介で絹さんの存在を知ります。落合氏は当初、戦争や子どもの死といった重いテーマを扱うことに難しさを感じていましたが、絹さんの顔に言葉にしきれない深みを感じ、その仕事を引き受けました。

落合氏が絹さんの取材を行ったのは、絹さんが86歳から92歳頃のおよそ6年間。10月26日(日)に開催されたアーティストトークで落合氏は、その期間を「絹さん大学に入る」という気持ちで臨んだと語っています。

取材は単なる聞き書きに留まらず、落合氏は絹さんの家に泊まらせてもらい、一緒にご飯を食べ、畑仕事をし、温泉にも入りながら日常を共有しました。

このプロセスは、落合氏にとって自分自身が変わるほどの大きな経験であり、人間として多くのことを教わり、「歴史の物差しを一ついただけた」と感じたそう。

インタビュー内容を活字化し、それを絹さんに読んでもらう6年間にわたる作業。落合氏は、この「共同作業」が互いにとって大変濃密な大きな時間であったと振り返っています。

 

肉声とともに、より深く絹さんの人生にふれる写真展


本展は写真とあわせて、インタビュー時にカセットテープに録音された絹さんの肉声、そして絹さんの人生と戦争体験をまとめた小冊子を通じて、その人生を旅する構成です。

落合氏は「写真の中に祈りがある」と考えており、この展示を通して私たちが生きる歴史の大きな流れの中の一人ひとりを感じてほしいと願っています。

作家ステイトメントでは、絹さんの言葉を引用し、「ひとたび国家の戦争が起これば、星の数ほどの『個人の戦争』が始まる」「戦争は終戦で終わるものではない」と強調。

絹さんの「亡くなった子どものことは忘れないよ、これは一生ついてまわるの、死ぬまでね」という言葉は、戦争の悲劇が個人の人生に刻まれ続けることを示し、また「生きてきたこと嘘じゃないんだから、話して何が悪いと思うのよ」という言葉には、生きるということのたくましさを感じずにはいられません。

落合氏にとって、絹さんの話を聞くうちに彼女の人生は「決して『過去の出来事』ではなくなっていった」と言います。本展は、ある一人の個人史を通して歴史にふれ、戦争と平和と、生きるということについて改めて考えるきっかけとなることを願って開催されています。

<イベント情報>

  • 落合由利子 写真展「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」
  • 会期: 2025年10月23日(木)~11月9日(日)
  • 開館時間: 木金土日、13:00〜19:00
  • 会場: ギャラリーOGU MAG (東京都荒川区東尾久4-24-7)
  • ギャラリーOGU MAG SNS
  • 落合由利子 Instagram @yurikoochiaiph

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