在任2780日を超え、歴代最長となった盤石の安倍政権。
その直後、突然の安倍首相の辞意表明に伴い、慌ただしく政局が動いた8月末。
3人の候補者の中から菅さんが総裁に選出され、9月16日に菅首相が誕生するまでわずか3週間弱。
この日本中が注目した政変劇の舞台裏で、日暮里のある会社のプロジェクトチームが慌ただしく動いていた。
全国の観光土産品お菓子の企画販売を手がける株式会社大藤だ。
大藤は菅さんが首相に就任した当日の16日に「スガちゃん瓦割りせんべい」を発売。
議員会館で販売された初回ロットはわずか2時間で完売し、メディアの話題をさらった。
菅総裁が決定。出荷まで2日しかない!
実はこの瓦割りせんべい、事実上2日で完成している。
自民党総裁選が決着したのは9月14日のこと。
就任当日に間髪入れずに発売を開始したい社長の焦りがじりじりと増す中、菅さんが総裁に決定。
16日に販売所に商品を並べるためには、パッケージを15日には印刷しなければならない。
14日の夜から15日朝まで、社長とデザイナーの間で何十回ものメールのやり取りが交わされ、一気にデザインを仕上げた。
16日の販売に向け、間一髪で印刷が間に合い、見事に総理就任当日の発売に成功する。
大藤が商品企画を行うとき、こだわるのは、味、色合い、パッケージの3つ。
「スガちゃんまんじゅう」の味については岸田さんなら瀬戸内レモン、石破さんなら二十世紀梨で確定していたが、菅さんについては当初は秋田の比内地鶏を使った黄身餡を検討するも「美味しく仕上げることができなかった」。
商品開発担当者が菅さんの好物だという「パンケーキ味」を提案し、それに落ち着いた。
パッケージについては菅さんが「安倍さん路線でいく」と明言したことから、国会から伸びる「晋ちゃんロードを進んでいる」というイメージでデザイン。
菅さんが総裁に決定すると、すぐに印刷会社に電話し、社長の作ったラフデザインをもとに詳細デザイン作業が開始。
「それでも間違えがありました。印刷間際に送られてきた校正紙を見た社員が気づいたんです。『これ、横須賀でいいんでしたっけ?』」
菅首相のゆかりの土地は横浜。誰もがわかっていた事実だが、なぜか図案は横須賀に。
致命的なミスとなるところを社員の一言で回避。
「連日ほぼ徹夜のような作業でした。あまりにも申し訳なくて、あとでデザイナーにお礼のスイーツを差し入れに行きました(笑)。」
「スガちゃんまんじゅう」は22日に発売開始。
8年ぶりの政変は、企画力とスピードを武器にする大藤の力を改めて証明する場となった。
義理を重んじる大藤。実は退陣する安倍前首相への感謝もお菓子にしていた。
大藤は戦後の混乱の中、蒸し羊羹を卸売りすることからスタート。創業は1954年の会社である。
小泉首相の登場以来、自民党出身の総理をモチーフにしたお菓子を商品化するのが伝統となっている同社。
しかし、今年はコロナウイルス禍により、大藤が主力とする観光土産用の菓子は販売数が大幅に減少。
生き残りに向けて必死の経営努力を続けている最中の突然のニュースだった。
「今年政変が起きるとは全く予想していませんでした。これまで毎年一年に一回『晋ちゃんまんじゅう』を作っていたのですが、今年はコロナウイルスの影響で何もできず、気分が乗らなかったんです。安倍首相が退陣されるとニュースが入ってきて、雷に打たれたようにスイッチが入りました。」
安倍首相が退陣を発表した当日、なにか発表があるから一緒にテレビを見させてほしいとテレビ局の方が来社。
一緒に見ていたところ、安倍首相退陣の速報がテロップで突然流れ、事務所内に「えええ!」と衝撃が走ります。
その時、とっさに大久保社長が考えたのは「ありがとう晋ちゃんまんじゅう」を出そう、ということでした。
「それまでは『負けるな晋ちゃんまんじゅう』を考えてたんです。体調がすぐれない状態が続いていらっしゃったので応援する気持ちで。ニュースを聞いて『ありがとう晋ちゃんまんじゅう』を出さねば、と思い、すぐに絵面を考えました。」
政治家という毀誉褒貶の激しい世界を扱うお菓子だからこそ、物事の順番を大藤は重んじます。
退陣する首相をテーマにした「ありがとう晋ちゃんまんじゅう」が販売できるのはわずか数週間のこと。
それでも、それまでのお礼と、重責に当たる首相職への尊敬の気持ちも込めて、必ず「ありがとう」をお菓子にして贈る。
完成した「ありがとう晋ちゃんまんじゅう」のパッケージデザインでは、8年在職した総理大臣への大きな感謝の表現として「富士山」をバックに選び、一つの物語が完結したというイメージを表現。
「桜を入れるかどうかは迷いました。でも日本ですから外すわけにはいかなかったですね(笑)。」
小泉フィーバーが総理まんじゅうの始まり
総理まんじゅうを作り始めたのは日本全国が沸いた純ちゃんフィーバーのとき。
このフィーバーに乗っかろう!と、現会長(当時社長)が自民党本部に小泉さんのお菓子を作りたいと頼みに行ったが、門前払いに。
「ところが会長はすでに作っちゃったんですね(笑)。」
商品は、販売してよいか確認してから作るもの。
ですが先代の社長は、作っちゃってから確認しにいったため、すでに商品はできており、「困ったなあ」となったそうです。
仕方ないから靖国神社の売店で細々と売り始めた大藤さんですが、その噂は風に乗って首相官邸まで届き、秘書官から呼び出しを受けます。
これは怒られるに違いないと恐縮しながら官邸に赴くと「面白いねー。」などと言われ、お茶を振る舞っていただいたのだとか。これが総理まんじゅうのスタートです。
その後、小泉さんが退陣することとなり、安倍さん谷垣さん麻生さん福田さんの後継首相を決めるポスト純ちゃんまんじゅうを企画。
退任するらしい、という情報が入ってきてから1-2週間で一気に考えたという饅頭は白い薄皮饅頭と黒糖饅頭の2種類。
総裁選にかけて「白黒つける」という意味を込めたものでした。
「デザインは、よく見ると安倍さんが若干リードしていたり、安倍さんだけが少し余裕のある顔をしていたり。わかる人にはわかるんですが、わからない人には敢えて説明しない(笑)。」
総裁が決まるまでのわずか数週間のために作られた饅頭ですが、お菓子屋さんらしく、そんな遊び心満載のパッケージに仕上げました。
社内も大いに活性化!続々と新作も発表
今回の総理交代劇では、大藤の社内も大いに沸いたと言います。
「コロナ禍で観光業界が厳しい経営環境が続く中、この商品の発売を通じて社内に活気が戻り、地方の取引先からも刺激を受けたとの声がありました。売上以外にいろいろなものを得ることができました。」
10月には“スゴロク付き”の「スガちゃんラングドシャ」を発売しました。
サイコロ模様の入ったラングドシャで、おまけのすごろくも楽しみながら菅総理の経歴を知ることもできるお菓子です。
このすごろくのポイントは「ゴール」を作っていないこと。
「総理大臣はゴールではないと思います。『ここからが第2章』ということで表現しました。すごろくをやってスガさんに詳しくなってもらって、お菓子を通じて自然と興味をもってもらえるといいなと思ってます。」
大藤の遊び心満載のお菓子作り。
ただ面白いだけでなく、世の中が平和に、楽しく、豊かになるように。
そんな繊細な心づかいも感じるインタビューでした。
これからもどんどん、楽しく美味しいお菓子を日暮里から発信して、世間を楽しませてほしいですね!
*本記事に掲載された商品はすでに製造が終了している場合もございます。販売場所等の最新情報については大藤までお問い合わせください。
<企業情報>
- 社名:株式会社大藤
- 住所:東京都荒川区西日暮里2丁目28−10
- 電話:03-3891-1246
- HP:http://www.omiyage-daito.com/