荒川区を拠点にするパフォーマンスグループ「OM-2」の演出家であり、劇場「d-倉庫」の芸術監督、プロデューサーでもある真壁茂夫氏にお話を伺いました。
■真壁茂夫プロフィール
演出家であり、日暮里の劇場「d-倉庫」の芸術監督、プロデューサーでもある。「舞台芸術学院」卒業後、パフォーマンスグループ「OM-2」を旗揚げ。すべての作、演出、美術を手掛け、その過激な演出が話題となり、様々なメディアに取り上げられる。国内外の多くの演劇フェスティバルに招聘され、日本を代表する前衛演出家の一人となる。
また、日本のダンス界を牽引する「ダンスがみたい!」シリーズやドイツを拠点とする「JAPANNOW」などのフェスティバルの芸術監督を務める。著書に、演劇論集『「核」からの視点』(れんが書房新社)などがある。
-OM-2というパフォーマンスグループの名前の由来は
もともとは黄色舞伎團(おうしょくまいぎだん)という硬い名前だったんです。アジア人の演技の集団という感じの名前だったんです。それが、海外に行くようになって、西洋の人には劇団名を覚えてもらえないんじゃないかということで黄色(おうしょく)の「おー(O)」と舞(まい)の「M」を取って、そして新しく出発するということで2を付け「OM-2」と改名したんです。
2016年9月15日〜17日に開催されるOM-2の舞台に合計7組14名様を無料でご招待します。記事下に記載されている公演情報をお読みの上、チケット発行ページよりお申し込みください。
-結成されて何年くらいですか?
30年くらいになりますね。
演劇学校に通っていた頃、早稲田小劇場という劇団がありましてね。そこに白石加代子さんという方がいまして、その人の演技を見て衝撃を受けたんです。また僕の先生だった人が創始者だった転形劇場というグループ、その二つの劇団の影響を受けてそれに近しいようなことができないかと思い劇団を作ったんです。その頃は西洋的な演劇を目指そうとする劇団ばかりでしたが、その二つの劇団は土着的というか、日本人の身体性を軸に演技をしていたんです。
そして僕も、日本人であるというか農耕民族の身体性というか、その辺のところを探っていくことで表現をしたいというのが元だったんです。そしてそれを始めていくと、表面的な見え方はどうでも良くなってきて、どんどんと身体性と精神性みたいなものが絡み合ってきて、その関係こそが重要だと思うようになっていくんです。
しかし続けていくうちに、その方向は正しいあり方だと思う一方で、「モノマネの延長線上のことでしかないのではないか」と考えが浮かんで、このままでは駄目だと思い、しばらくは試行錯誤を繰り返していました。
-最近の映像も見させていただいたのですが、セリフがほとんどないんですね?
一般的な芝居から比べると全くないって感じですね。
あえて言葉を入れていないという訳ではないんですが、海外で公演する時にやはり言葉の意味が分からないと辛いものもありまして。。。
また、僕たちが海外に行きだした頃はまだ演技に合わせて字幕を出すという技術もありませんでした。なので、パンフレットにあらすじや説明を書いて渡すとかそんなことしかできなかったんです。でも、演劇はライブなのに文章を読まなければならないってどうなんだろうということになり、それを解消するために言葉が少なくなっていったという感じでしょうか。
台詞が少なくなってくると、言葉の意味とかストーリーとかを伝えるだけのために演技をするということが嘘をつくような感じに思えてきてしまって、なおさら徐々に減っていきました。言葉の意味性に重点を置くのではなくて、自分たちの人間としての「在り方」の方が重要に思えてきて、それを主に舞台を創ろうという気持ちの方が勝っていったんです。
-最初からこういう形のお芝居だったんですか?
いろいろ変遷がありました。最初の頃は先ほど言ったような感じだったのですが、その後は根底のあり方は変わらないのですが、見え方としてはだいぶ違うものでしたね。
大雑把に言えば、お客さんを劇に参加させるようなスタイルと言いましょうか。
一般的には、演劇って俳優対大多数のお客さんという構図になりますよね?それを、1対1で向き合うということをやったらどうだろう、ということになり、お客さんを何十分もジーっと見つめるという作品を創りました。
鉄で檻を作り、その檻の中にお客さんを閉じ込めてしまい、そして俳優が檻の外からそのお客さんをジーっと見つめるという演劇でした。
1対1で視線を合わせることで演劇を成立させようと考えた時に、観客を檻に閉じ込めないと避けられてしまうので演劇として成立しないように思ったからです。そして、それが過激になっていってしまったんですね。でも、その作品がその頃に一番ヒットして話題になったんです。
-そのパフォーマンスで賞を取ったんですね?
はい、エジプトのカイロで取りました。それが縁で他の国からも呼ばれるようになりました。
その作品を持って、何年かは海外でしか公演をやらなかったんです。その後、東京に戻ってきて、また少しずつ作風が変わりましたね。
-最初から海外、国内というのを意識していましたか?またその違いは?
最初からということはないですけれど、海外でやってみたいというのはありました。たまたまそういう機会があって海外公演をして賞をいただき、海外だけではなく、国内でも色々なところへ呼ばれるようになりました。
少し違う話になりますが、海外だと稽古のために1ヶ月くらい劇場を貸してくれるところもあるんです。「好きに使っていいよ」みたいな感じで。だから、舞台装置と俳優が密接に関係するような舞台を創ることができるんです。ですけど、東京でそうしようと思うともの凄くお金がかかるんです。稽古場でも舞台装置をすべて置くようになるとやはりお金が。。。ですから、東京ではみんな劇場に入ってから、1日くらいで舞台装置を作るというのが一般的なんです。そこで初めて「あー、こんな舞台装置なんだ」と認識して、その装置に演技を合わせていくんですよ(笑)。
これから東京では公共劇場が増えるようです。それも悪いことではないですが、できれば劇場を作るより、公共の施設として舞台装置が組めて安価で良い稽古場をたくさん作って欲しいんですよね。民間では稽古場なんてなかなか採算取れないので作ることができないんです。
そうすると演劇の質もレベルも変わってくると思うんです。ハードばかりに財源を使うのはもう止めて良いように思うのですが。。。
-だんだん作風が変わってきたということでしたが、どのように変わってきましたか?
最近ではパーカッションをみんなで叩いたりしているのですが、そのドラムの響きと、先ほど精神的なものとか話ししましたけど、そういうものとが呼応するような作用があって面白い試みじゃないかと思っているんです。
音楽はそれ自体どんどんテンション高くなる部分ってありますよね。自分の身体の中にリズムや響きが入ってきて高揚するみたいな感じ。その高揚感と自分との関係というか、それが自分の深層に触れるというか。。。
でも、基本は以前と変わらないんです。ですが、手法というかアプローチの仕方がだいぶ変わってきたという感じです。なかなかうまくいかない部分もありますが、それを何年も続けている感じです。
■OM-2プロフィール
真壁茂夫を中心に87年に結成したパフォーマンスグループ。従来の劇作家や演出家の美意識や考えに従うピラミッド型の演劇の在り方を排し、俳優・演出家・スタッフが同一の地平に立って集団創作を行う。
東京を拠点として活動の他、近年の公演は主にUSA、EU圏、アフリカ、アジアなど世界各国で行っている。「カイロ国際実験演劇祭」では日本人初の「最優秀作品賞」受賞。
-即興の練習を積み重ね、一回性の作品創りだすということは、一字一句間違わないことをするというよりも、その場でのテンションというか、即興による表現を重要視するということですね?
そうですね、でも、曲も演奏するので、アンサンブルを取ってやっているので、それを好き勝手にやるというのはなかなかできないんですけどね。しかしバンドなんかもそうだと思いますけど、その時のノリで少しずつ変わってきたりはしますよね。
また、同時に演技をする場面もありますが、それは演奏とは違って、その日その時で結構変わったりはします。
-荒川区を拠点にしている理由は?
以前,僕たちは北区に拠点を持っていたんです。そのために北区の演劇フェスティバルの芸術監督や台東区の演劇祭でキュレーターをやらさせてもらったりと活動を拡げていくことができました。東京の東側の方に縁があったんでしょうね。
新宿、渋谷のほうはどちらかというと流行を追うというかエンターテインメント的というか、市場経済にのっとって、それを良しとするような演劇が多いんです。できれば、それらとは一線を画した切り口でやっていきたいと思って荒川区でやっているというところですね。それは、本当はとても重要なことだと思っているんです。
ですが、荒川区には劇場がほとんどないんです。あるんですが演劇としてはシステム的に使い辛いんです。本来、劇場は最低でも1週間単位の貸出を前提にするべきなんですが、荒川区の劇場の場合は1日を3区分にしていて、1区分だけでも優先して区民が借りることが出来るんです。例えば、区のアマチュアサークルなどが先にその1区分を押さえてしまうと、もう1週間とかの連続では使えなくなってしまいます。そのため、演劇で使うのは実質的にほぼ不可能です。
劇場とは、「劇の場」であるのに演劇ができないんですよね。そういう意味では事実上、荒川区には劇場はないんです。
-最後に、今後の予定など教えてください。
9月に日暮里サニーホールで公演があります。是非観にいらして頂いて、荒川区にも新宿、渋谷とはちょっと違うこんなグループがあるんだということを知って頂けたらと思います。
公演情報
白い世界。“死”に至るまでの時間の揺れ。
机や身体を使ったパーカッション、ヴォイスパフォーマンス、タップ等の音楽をベースにした9つシーン。
「Opus No.9」の改訂再演。
演劇・ダンス・音楽といった既存のジャンルの壁を飛び越え、OM-2が現代社会に揺さぶりをかける。
会場:
日暮里SUNNY HALL
開演日時:
2016年9月15日(木)7:30PM
16日(金)7:30PM
17日(土)3:30PM
*開演の60分前より受付開始。
*開演時間を過ぎますと、入場できない場合があります。
TICKET<全席自由>:
【 前 売 】¥2800…学生¥2300
【 当 日 】¥3300…学生¥2800
【高校生以下】¥1500 *高校生、学生券は要学生証
お問合せ:
・OM-2 OFFICE info@om-2.com
・d-倉庫 03-5811-5399 (18:00-23:00 月曜休館)
☆☆☆読者特典☆☆☆
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