大嘗祭で使う米決める「斎田点定の儀」影で支えた荒川区の職人の技

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11月14、15日に天皇陛下即位に伴う重要な行事「大嘗祭(だいじょうさい)」が行われました。
五穀豊穣と国民の安寧を祈って行われる宮中祭祀「新嘗祭(にいなめさい)」を、即位後に一世に1回限り大規模に行うのが大嘗祭で皇位継承に伴う重要な行事です。

この大嘗祭で使うお米の産地は亀卜という亀の甲羅を炙ってヒビの入り具合で物事を決める宮中に伝わる占いで決められます。この儀式で使った亀の甲羅を作ったのは東尾久のべっ甲職人、森田孝雄(69)さん。

「頭の中がスッキリしたというか、プレッシャーがなくなったというか」
5月13日、皇居にある宮中三殿で行われた「斎田点定(さいでんてんてい)の儀」の成功を聞き安堵の表情を浮かべる森田さん。普段はメガネのフレームやかんざし、ブローチなどの工芸品を作る荒川区指定の伝統工芸職人です。

去年の3月ごろ宮内庁から「亀の甲羅の加工をしてほしい」と電話がありました。前回の儀式は平成元年、すでに前回作った職人さんは廃業しており、占いのやり方の記録は残っているが亀の甲羅の加工方法の記録はないとのこと。写真と資料から手探りで製作に取り掛かりました。

「べっ甲細工はタイマイという亀の甲羅を使うんですけど、アオウミガメの甲羅の加工は初めてでした。タイマイより甲羅がとても薄いんですよね」
べっ甲職人として40年、写真を見て製作方法はなんとなく想像はついていたそうです。

「今まで0.7mmぐらいの厚さまで削ったことはありますから。宮内庁の依頼は2~3mm。アドバイスすると言ってくれた人もいましたけど、俺のやり方でやると。そこはプライドかな。」

「去年の4月に1頭分の甲羅が届いて作りました。2、3回かな試作を宮内庁の職員とやりとりして、もっと薄くということで最終的には1.5mmぐらいに加工したものを10枚ぐらい納品しました。」

実際儀式で使われたアオウミガメの甲羅の破片

亀卜という占いの実験ができないので本当にうまくいくのかな、というプレッシャーはありましたが作業は意外にも試行錯誤なくすんなり進んだそうです。具合を見ながら、半分手探りで削るので1枚作るのに1日半ほど。
「苦労はないですね。ただ慎重にやらないと割れてしまうので。そこだけは気を使いました。べっ甲職人として特別な作業はなかったのですが、この作業のために特別な工具を作りました。」

伝統工芸職人というと電動工具を使わないってイメージですが電動工具で作ったことは意外でした。

「電動工具を使ったと言っていいのか迷いますが、お米だってトラクターとか使ってるだろうから、ま、いいかなって」

電動工具を使わないとしたらどうやって作るんですか?

「表面を砥石で削ったという記録はあるのですが裏面はわかりません。彫刻刀みたいなので地道に削るんだろうけど1個つくるのに数日かかると思います。」

森田さんは江戸派べっ甲細工の技術を受け継ぐ森田商店の六代目。18歳の時にべっ甲の仕事を始め50年。おじさんとお父さんがべっ甲職人だったため自然に職人の世界に入っていったそうです。
「今なら電車の製造会社に入りたいかなぁ。新幹線とか作りたい。」
べっ甲のよさは自然素材であるということ、合成樹脂と違って肌触りの良さが違います。

べっ甲職人になるのは難しいですか?
「1年も頑張れば職人になれるんじゃないかな。でもならないほうがいいよ。そんなお金にならないから(笑)」(注、たぶん1年ではなれないと思います)
べっ甲は薄い半透明の亀の甲羅なので厚みを出すために数枚のべっ甲を貼り合わせていくことにより深みのある独特な模様がうまれます。模様や色の組み合わせをみながら水と熱だけ貼り合わせていく作業には熟練が必要です。
職人のなり手不足の大きな壁となっているのがべっ甲の素材を集めるのにお金がかかること。べっ甲細工の原料であるタイマイの甲羅はワシントン条約により輸入が禁止されています。過去に輸入された職人がもっている在庫を使って作っている状況にあり、あらたに職人として独り立ちするには高価な材料を一から集めなくてはならないのです。

80歳までできるかできないか、伝統のある技術でありながら今でも新しい技術、方法を実験してみたり失敗してみたり、まだまだ勉強中という森田さん。今後の活躍を期待しています。
森田さんの工房は荒川区モノづくり見学・体験スポットガイドに登録されています。


<店舗情報>

  • 店名:森田商店(べっ甲細工)
  • 住所:東京都荒川区東尾久1-16-10
  • 電話番号:03-3892-3641
  • 見学には事前連絡、予約が必要です。

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