生徒と走り、学んだ日々。荒川商業高校に野村頼和先生を訪ねた(前編)

「コロナで世の中変わりました。今までのような学校は不要になっていきますよ。」

そう淡々と話すのは今日のインタビューの相手である高校教師、野村頼和先生。

ここは小台橋を渡った隅田川の向こう側にある荒川商業高校。
正確には足立区の学校でありながら、校名に「荒川」とあることもあって荒川区民にも馴染みの深い学校であり、実際に荒川区で様々な活動を行ってきました。
親しみを込めて「荒商」と呼ばれてきた学校が今年、コロナ禍の中でひっそりと最後の年を迎えています。
来年には、都立小台橋高校という朝・昼・夜三部制のチャレンジスクールとして生まれ変わるのです。

2022年、荒商は小台橋高校として生まれ変わります。

この高校の現役の先生で最も長くこの学校とともに歩んできた経歴をもつのが野村先生。
生徒たちと数多くのプロジェクトを実現してきた先生です。
ご自身も足立区にお住まいでありながら、学校という枠を大きく超えて荒川区のさまざまな大人を巻き込み、また、ときには北海道や東北などあらゆる地域に足を運び、生徒の成長を促す機会作りをしてきました。

都電ハロウィン号の飾り付けも毎年担当。

(参考)荒商生徒が飾り付けしたハロウィン号が2020年も元気に出発!

そんな先生が愛してきた荒川商業高校の歴史が終わるとあって、今何を考えているのか、生徒たちや学校への思い、原動力、などを記録しておきたいと思い、インタビューの時間をいただきました。

8月下旬の真夏日。
朝10時に校門前に到着すると、野村先生はいつもと同じラフな姿で迎えてくれました。

 

閉校について聞いたのは6年前。
未だに気持ちを言語化できない。


学校を案内してくれる先生が指を指した先にはテニスコートが。

「見てください。芝が剥がされちゃって。。」

テニスコート

解体工事が始まったテニスコートの人工芝があちこちめくれているのがみえます。

「学校の校庭に重機が入ってきて杭を打ち始めたときも、ああ、、やめて、って思いましたね。。」

グラウンドには重機が。

先生が荒商で勤務を始めたのは1995年。当時新任の教師として定時制に入りました。
その後、2008年に他の高校に異動となりますが3年後の2011年にはまた荒商の全日制に戻り、今年で11年目。
定時制での勤務と合わせるとのべ24年、荒商で勤めていることになります。

24年に渡り勤務されてきました

学校ではイラストレーターやPhotoshopなどを授業で教え、柔道家でもあります。
また子どもたちに商業活動の実践を通じて社会を学んでもらう模擬会社レガロ工房の担当を長年務めてきました。

(参考)高校生だけど社員です!高校の中にある広告企画会社「株式会社レガロ工房」に行ってきた

「閉校について最初に聞いたのは6年前でした。今でも覚えていますがショックでしたね。」

閉校が決まったのは6年前。来年からは都立小台橋高校に。

未だにその気持を上手く言語化できないんだという先生。
今年は新学期が始まったり夏休みが始まったりする都度、ああこれが最後なんだな、、となんとも言えない気持ちになるんだと教えてくれました。

「長いことこの学校に勤務しているので学校内のあちこちに私の荷物が置いてあるんですけどそれも片付けさせられますし。。(笑)」

長年いるからあちこちに私物があって、、(笑)

 

商業高校は生きていくのに必要な知識を教えている。
学校側が自らをアップデートしないといけない。


実は、荒商が無くなる前にお隣にあった赤羽商業も閉校になっています。
長年入試の倍率も1倍を切っており、ニーズが減少していたのは事実です。

「僕は商業高校が教えていることはめちゃ大事だと思っていて。生きていくのに使える重要な教科を教えていると思っています。でも倍率が示しているのは中学校3年生に求められていないということ。商業高校の意味が子どもたちに伝わっていない。学校側も正しく自分たちがやっていることの価値を理解しきれていなくて価値を伝えられていない。本当は、こちらも変わらないといけないんです。」

都内随一の就職数を誇る荒商。毎年多くの生徒を企業に送り出してきました。

商業高校で教える基礎的な学科が簿記。全生徒が全商簿記3級を教わります。
昔はそろばんも教えていました。

「僕は損益計算書と貸借対照表が分かっているだけでビジネスは出来ると思うんです。高校一年生で簿記会計を学んでいるということの重要性を教師自体がきっちり認識できてこなかったんじゃないかなという気がしています。」

会計に加え、情報、マーケティング、など様々な系列で授業を展開。社会ですぐに役立つ情報を提供してきました。

世の中にお金で苦しんでいる人が沢山いるのが凄く悔しい、という先生。
だからこそ、お金に支配されずお金をコントロールする考えを持てるかどうかはとても大事なことなんじゃないかと考えているのだそうです。

「年収を気にする人はいるけど支出を気にする人は少ないですよね。例えば先取り貯蓄であったり、不動産や株への投資の知識であったり。お金を道具としてどう扱うかを知っていたら楽なんです。授業での知識や投資経験があれば生き方がもっと自由になるんです。そんなことを教えるのは普通高校より商業高校のほうが相性が良いと思っています。」

 





コロナ禍による制限。
でも、だから出来ないっていうのは嘘。


コロナ禍で様々な教育活動にも制限がかかる中、世の中は大きく変わろうとしている。
そのことを生徒たちにも感じてもらいたいと昨年先生が生徒を連れて行ったのは千葉県の鋸南(きょなん)。

「大人たちも色々動き出してるんだよ、面白いことが起きてるんだよ、ってのを知ってもらいたくてコワーキングスペースを運営している人に会いに行きました。」

コワーキングスペースでは新しいライフスタイルを作り出している人やアーティストがいて子どもたちもそんな大人たちの様子から学びがあったようです。

「人間が作り出すものって全てがアーティスティック。だからアートってもっと自由でいいんじゃないか、なんて話で盛り上がりました。それを聞いていた生徒たちも『あぁ、世の中には先生よりおかしな人がいるんですね。』って入り込んできてくれて。今まで正社員やフリーターの2択しかないって思っていたけど、そうじゃない生き方があるんですね、って。」

子どもたちと一緒になって真剣に学んだという先生自身も2拠点活動を真剣に考えるほどに影響を受けたそうです。
実践の場、人との出会いを作り出す中で一緒になって考え、学ぶのが先生のスタイル。

「オンラインでも生徒たちとめちゃめちゃ打ち合わせしていますし、コロナだから生徒を鍛えられないっていうのは嘘だなって最近は思っています。」

子どもたちと一緒に大人の話を聞きにいくと役得なこともあるんだそうです。

「高校生が話を聞きにくるとなると大人のほうも少しスイッチが入るんですよね。話しているうちに本質的なところを語り始める瞬間があるんですよね。それを横で聞いている僕はめっちゃ楽しいんですよね(笑)。」

最初は先生に引っ張られて大人達に会いにきた子どもたちも聞いているうちに「凄く面白い。自分が変わっていくのが分かる。」と話してくれるのだとか。

「だから、もうちょい学校の学びの仕組みって変えたほうがいいんですよね。小中学校まではいいと思うんです。だけど高校はもっと遊んだほうがいい。商店街のこの店舗をどう変えるか、とか。読み書きもできるし、電卓もあるし、じゃあその次は何を学ぶのかっていうことだと思ってます。」

模擬会社レガロ工房の舞台となってきたコンピュータールーム

 

高校生がどうやったら育つのか、これでいいんだろうかっていつも考えてます。


子どもたちが何かを感じ、自ら話し始める瞬間。
そんな機会を作ることを模索してきました。

2019年のあらかわ都電バルにも手伝いに来てくれました。

「あれを仕組みで作るのは難しくて、何度も場数を経験してみないと分からないんですよ。変わる瞬間は子どもによって違っていて、深く沈んでいく子もいれば、さっさと自分を切り替える子もいます。やっぱり、やらされると面白くないじゃないですか。持って行き方が大事なんですよね。いつもいつもこれでいいんだろうかって考えてます。」

これでいいんだろうかと模索を続けてきた

レガロ工房の子たちは連日遅くまで学校に残って制作作業などをしていることが多く、週末も活動を行っていました。
どうして学校活動のためにそんな風に動けるんでしょうねと聞いてみました。

「大事なことは、僕からは生徒を誘わないんです。僕がやることは生徒みんなにチラシを配って、興味を持った生徒が自分で来るんです。プロジェクトの説明を聞いて「なんだこれ」っていなくなる子もいます。そんな中で自分の意思で残った子がレガロに残ります。」

レガロ工房の主人公は自らの意思で残った生徒達

子どもたちが何かをやらされることはなく、「変わる」んだと先生は言います。
毎年8月に行われる都内の商業高校の発表会。そこでもこんなことがありました。

「発表の準備を手伝っていたんですが、僕は生徒が帰りますって言うまで練習に付き合うんです。その時は夜の9時まで手伝っていたんですが、帰るときにその生徒が『先生、こんな遅い時間まで付き合わせてしまってすいませんでした。』って言ったんです。その瞬間、完全に生徒が主体になっているんですね。それを聞いて僕はとても嬉しくて。」

教室に貼ってある沢山の表彰状

翌日の発表は練習も含めて過去最高の出来栄えで感動した、と語る先生は本当に嬉しそうでした。

後編に続く

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