スクランブルというと、浜田省吾の「風を感じて」を思い出すのは私だけだろうか(^^;
2019年12月11日にオープンした「西日暮里スクランブル」
西日暮里界隈をご存知の方は「ケンタッキーフライドチキン」のあった場所といえばすぐ分かるかも。
1階にはジェラート、革製品、本屋、八百屋、カレー屋、グッズショップ、2階はクラフトビールの立ち飲み屋といろんなお店がぎゅっと詰まった場所です。
そんな「西日暮里スクランブル」をプロデュースしている株式会社HAGI STUDIOの代表 宮崎さんにお話を伺いました。
■はじめに、宮崎さんのプロフィールから教えていただきたいのですが。建築士さんなんですよね? 建築士をしながら、最初にHAGISOをプロデュースという形でよろしいですか?
はい、そうですね。
もともと、HAGISO自体は1955年に出来ていた風呂無しの木造アパートで。
2000年ごろまでずっと空き家になっていたんですけれども、その空き家に目をつけた学生たちが住み始めて。
その一人が僕なんです。
その学生たちは藝大の連中が多かったんですけれども、僕は学生時代から就職してもずっと住んでいて。
それが震災(2011年3月11日の東日本大震災)を機に、大家さんが耐震性に責任をもてないということで、壊して駐車場にする予定だったんです。
人も孤独死しているけど、建物も記憶からなくなっちゃうと孤独死しちゃうようなもんだから、せめてお葬式でもやって看取ってやろうということになって。2012年にハギエンナーレというアートイベントとして、20人くらいの建築家やアーティストの卵の若い人たちで、建物自体を作品化するというイベントを行いました。実際やってみると3週間で1500人くらいの人が来てくれて、それを大家さんが見て「もったいないかもね」という気持ちになられて。その時、僕も出資して運営もするので、一緒に残しませんかという話になったのがきっかけなんです。
それまでは設計事務所に勤めていたのですが、震災を機に独立した形ですね。
個人の建築士のキャリアとHAGISOの運営というのが同時に進行している感じなんです。
元々建築士をずっとやってきて、飲食をやり始めたというよりは、最初からそういう形でやっているという。
設計の仕事はただ待っていてやってくるようなものではないので、独立してもすぐ仕事がたくさんあるわけでもなく、自分で仕事を作らなきゃいけない中で、自分が住んでいたアパートを再利用するのであれば、自分でそういうことをやりたいということでやったんです。
でも、飲食の経営も初めてだったし、人も雇用しなければならなかったので結構大変でした(笑)
それが2013年3月くらいで、今もうすぐ丸7年になるところです。
そうやっているうちに街の中にある空き家みたいな、遊休不動産がちらほらあることが分かってきて、そんな場所をどういう風に使ったら面白いかなと妄想しているうちに、不動産を持て余しているオーナーさんが「じゃあ、ここで何か面白いことやろうよ」みたいなお声がけをいただくようになって。
今は「hanare」という宿泊施設とか、「TAYORI」というお惣菜と定食屋さんとか、この辺の徒歩圏内で8箇所の、僕らが企画して場所を作りながら運営していくという拠点が出来ています。
そんな延長で、西日暮里のここのお話もいただいたという感じですね。
■では、ここも、新しい場所を探して始めたというより、お話が来たという形ですか?
はい、そうなんです。
ここの土地に関してはJR東日本さん、建物はJR東日本都市開発さんなんですけれども、僕らがそういうことをやっているというのを知っていてくださって。ここは半分高架下という場所で、橋脚の耐震改修工事をするということで、もともとケンタッキーさんが入られていたんですけれども退去されて工事をしたんです。ただ、その後ここがいつまで賃貸できるかというのが不透明な状況で、それを使ってもらえる人を探すというプロセスの中で、どうせだったら街にとって面白いことをという目線で、JR東日本都市開発さんが探していて、僕らにご相談に来られたというのがきっかけです。
当然こんなにいい場所なんで、期間が短いとはいえ、借りる人はいなくはないという状況だったそうなんです。
同じようなチェーン店が出来て、やり取りされるコミュニケーションがマニュアル通り、都市でも田舎でも同じですよね。でもせっかくこういう人と人の接点の多い街にあって、もっと予定調和じゃない出来事を起こす場所があったらいいのかなというのはずっと思っていたんです。
僕らは今までずっと基本的に路地裏というかアクセスの悪いところを作って、わざわざ来てもらうということをやっていたんですけど、ここはたくさんの人が通るという場所で、どう振舞うべきかを考えながらやってきたんです。1つ大事なのは、もちろんビジネスとして自立するというのは大事なんですけど、それだけじゃなくてここがあることで西日暮里の街の見え方が変わるというか、ちょっとおこがましいですけど、それだけのポテンシャルを持った場所だと思っていて、そのきっかけになれたらといいというか、そこを目指すプロジェクトと考えています。
■数年後には西日暮里の再開発もあるようなのですが、それを見越したアイデアなどもありますか?
再開発のことはあまり知らなくて、でも、ここはそういう意味で長くは借りられない、暫定利用でということなんですよね。
いずれはなくなってしまう場所なんですけども、ここでコミュニティの種を植え付けて少し育てられたら、その後も活きるのかなという気はします。
街に連続していて、ここを基点にいろんな街の面白いところが再発見できるような動きにつなげたくて。
特に2階のNIGHT KIOSKはマップを大きく作って、街の人のお勧めスポットとかがちゃんと見えるようにして、インフォメーションセンター的な役割を担って、1軒目はここで飲むけど、2軒目はここで仲良くなった人同士でどこかに行っちゃうとか、そういう出来事が生まれたら一番面白いなと思うんですよね。
そこでお互い様の関係が出来ているのが、すごく大事だなと思うので、僕らもいろんなところに飲みに行かなきゃなと思っているんです。
■2階のNIGHT KIOSKのような場所が西日暮里には無かったと思っているので、すごくいい場所だなと思いました。また、スタッフの方がうまくお客さん同士を繋げてくれていますね。
最初はここの使い方が難しいかなと心配していて、チェーン店も多いので価格競争になるし、立ち飲みの抵抗感もあるかなと思っているんですけど、だんだん使いこなしてくれる人が増えると、地域の文化に繋がっていきそうだなと思っています。
■同じような質問になりますが、何年か後までしかこの場所が使えない可能性があるということですが、その後どんな風になっていけばいいかなというか、展望などはありますか?
街に消費者しかいなくなるとつまんないと思って、つまりベッドタウンみたいなものですよね。
ひたすらものを買っていく側の人しかいなくて、提供する側の人はどこかからかやってくるような街になっちゃうと、誰も当事者にならない。
それってすごくつまらないなと思っていて。今後ここの開発がどうなるか分からないですけど、自分たちで作っていくとか、発信していくとかというのが街の中にそこかしこに埋め込まれていて、自分たちも提供側に回れるという余地を如何に街に残しておくのかが大事で。
そうじゃないとずっとお客様目線で街に関わることになる、「なんか誰も面白いことやってくんないんだよね」だとか。
街を面白くすることに加担するチャンスを如何に仕込んでいけるかが大事だと思っています。
そのために、たとえばこのbook apartmenntは、お店をやるころまではハードル高いけど、一箱だったら担えるかなと参加してくださってて。最終的には80箱集まって、80人がここで店主として、当事者として関わることが生まれ始めて。それがきっかけになると、自分が地域をどう良くしていくかということに主体的に関わる可能性のある人たちがここに生まれるわけですよね。
それは消費者側の立場から急に提供者側の立場になるスイッチが入る。そこの延長線上に「じゃあ、本当にお店やろうか」とか、そこまで行かなくてもその目線をもっている人たちがすごく大事だと思うんです。
それがちゃんと息づいていて、もし再開発されてもそういう場所をこの人たちが活動を続けられる場所を設けられるとか、いいコミュニティができたらその可能性もあるだろうし、それは開発側にもメリットありますよね。
エキラボniri(駅構内にあるスペース Beck’sの隣)もそれを目論んでいるんですけれども、買い物をしたりとか商業空間になりそうなところで、よく分からない経済のやり取りじゃなさそうな何かが行われているみたいな。
もちろんそこでお金は動いているんだけれども、もっとコミュニケーションがメインになっているような活動が、見えるところにはあるというように、いろんな人に活用していただいて。そこでけで終わるんじゃなくて、そこから街を知っていくとか、主体的に振舞える人を増やしていくところに繋げていきたいと思っています。
■ここ西日暮里スクランブルに入っていただくお店やスタッフを雇うときの基準みたいなものはあったんですか?
テナントさんを選ぶときに、1つはただの商売じゃない、もっと日常の予定調和な生活だけしてれば収まっちゃうところの外での領域というか、活動に繋がっていること。ちょっと漠然としますけど、Labo753さんの場合、精神障害を持っている方々が作ったプロダクトで、知らなければ知らないで生きていけるんだけど、実は生活のすぐそこにある。その辺りのチャンネルって自分から能動的に動かないと与えられなかったりするところも、こういう場所に作ってみることでよりそのことを知ってもらう人が増えるとか。
革マルシェさんは、革製品をどんどん作っていくと、生き物を殺していかなきゃいけない。そうじゃなくて、それをどう永く使うことで殺傷を減らしていくことができるか。どこまで減らせるかは微妙ですけど、そういう未来に繋がっているよねというか。
ぐるぐるジェラートさんは、まぁ、彼らはキャラがいいというところはあるんですけれど(笑)
めちゃくちゃコミュニケーション能力がある人たちなんで。根津でシェアハウスやりながら、どんどん人を繋げていく力があるので、北海道の牧場で乳搾りだけじゃなくてジェラートを作っていくっていうことで、生産者の方と仕事ができるだろうし。
消費だけやっていると表層だけで、最後の商品を買うか買わないかのやりとりでしかない。特に都市に暮らしていると考えなくていいし。そういう用意されたものの中だけで生きるみたいなことになりがちなので、災害があったりとか、経済的な状況がガラッと変わったりしたときに全然サバイブできないというか、飼いならされちゃっているんですよね。
そこをちゃんとサバイブしていく頭を持たなきゃいけないし、そういう知識がないとそういう意識でものを買えないじゃないですか。
意識高く持とうって話じゃないんだけども、ちゃんと自分たちの目を持ち続けるためにも、普段の生活の外の視点を提供してくれるお店という観点で入居者を選んでいます。回りくどいですけど。
■では、スタッフ採用の基準は?
単に売り上げだけじゃない、まぁ、理念はそれぞれ施設ごとにあるんですけれど、そこに共感してくれた人たちが集まっているということが1つと、あと去年なんですけど会社の理念を本にしました。Webサイトにも載せてるんですけれど、フィロソフィをちゃんと作って読める形に、絵本みたいな形にイラスト付きで。
最近はそれを見て共感して来てくれる人が多くて、そういう人は大体採用しちゃう(笑)
そこに共感してくれる人たちって相性がよさそうな人が多くて。
社訓とかフィロソフィみたいなものって意外と馬鹿にしてたんですけど、ちゃんと作ってみるとすごい機能している。
採用は苦労していて、飲食って全然働きたい人いなくて。。。
それでも飲食やって、さらにコミュニケーション好きみたいな、すごくハードル高いんですけど。
そういう思いのある人が人を呼んできてくれているというところはあります。
■現在社員はどのくらいいるんですか?
急に人が増えてきてるんですけど、アルバイトも含めて70名くらいです。
■先日も鶯谷にホテルがオープンしたということですが、今後もいろいろ展開していく予定ですか?
いえ、そんなに増やしたいとは思っていなくて、拡大したいわけじゃないんですよ。
たまたま運営する場所がご縁で生まれてくると、また設計のほうでも関わっていくとだんだんここ面白いから自分たちでやりたいねとかいうのが出てきちゃうんですよ。そうするとそれするには人増やさないとねということになって結果的に増えているだけで、特に拡大思考はないんです。
でも、スタッフが少なすぎても辛いじゃないですか。役割分担できないし、一人辞めちゃうとすごく穴が大きくなったりするんで、もう少し安定させるためにはもうちょっと必要かなと考えて、ある程度でちょうどいい、このくらいでいいねというのが出てくるとは思っているんですけれど。
■これからの展開、西日暮里をもっとスクランブルして、どんな元気な街にしていっていただけるのかが楽しみです。第2弾は、各店舗のスタッフ、ストアマネージャー木下さんのインタビューです。お楽しみに。
<店舗情報>
- 店名:西日暮里スクランブル
- 住所:東京都荒川区西日暮里6丁目21-1
- 電話番号:03-6806-8991
- HP:http://scramblebdg.com/
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