「ここに居ていい」と実感できる場所を与え、子どもに活力を
家庭環境を理由に、居場所がないと感じる子どもたちが居ます。彼らに元気に育ってほしいという思いから、「食事支援」「学習支援」「スポーツ支援」を通じて子どもたちの活動の場づくりを模索する非営利団体「バイタル・プロジェクト」を取材しました。そこで見えてきたものは、子どもたちだけでなく、まわりの大人たち、私たちに広がる居場所づくりでした。
この日、取材場所に指定いただいたのは、バイタル・プロジェクトが活動拠点とする都電荒川線・三ノ輪橋駅前の居酒屋、吉まぐれ屋(きまぐれや)。バイタル・プロジェクトの向 祐哉さん、秋田 博さん、檜澤 大海さん、そして吉まぐれ屋の代表である林 和広さんにお話を伺いました。
「おいしいは、うれしい」毎週月曜に子どもが集まる、笑顔の食卓
「活き活きした」などの意味をもつ英単語「バイタル」には、子どもたちが元気に育ってほしいという想いが込められています。バイタル・プロジェクトは「あらかわ子ども応援ネットワーク」に属し、荒川区からの委託を受けて毎週月曜日に吉まぐれ屋で「子どもの居場所づくり事業」を実施。食事代は子ども100円、大人300円と、大人も気軽に参加できます。
「『おいしいは、うれしい』を合言葉に、みんなで食事をする場を作っています。最初は食事の感想もなかなか言えなかった子どもたちが、今では次のメニューをリクエストするほど、なじんでくれました。育ちざかりなので、やはりカレーライスや肉料理は人気がありますね。栄養バランスを考慮して、もちろんサラダなども用意します。ひじき入りごぼうサラダは食べごたえを感じてくれたようで、好評でした。プロによる料理で、食育にもつながれば」と語るのは、副理事長の檜澤さん。
子どもの居場所づくり事業の活動は、食事だけに留まりません。まず16時〜18時は学習の時間として、机に向かう時間を作ります。宿題などを終わらせて、18時から19時の1時間は食事の時間。メンバーである大人が率先してお替わりをするなど、大人と子どもが一緒になって、わいわい過ごすと言います。その後、20時まではコミュニケーションの時間です。メンバーを父親代わりのように慕う子どもも居ます。
「我々以外にも、メンバーはさまざまな職業の人たちで構成されています。子どもたちにそれぞれの職業を伝えることはしませんが、大人との触れ合いのなかで、将来希望する職業につくためには学習が必要であること、その職業に向けて今自分がどの地点にいるのかが伝わっているように思います。子どもたちは食事だけでなく、学習にも積極的に取り組んでいます」
草野球チームの運営で出会った、さまざまな家庭環境の子どもたち
子どもの居場所づくり事業をはじめとしたバイタル・プロジェクトの活動には、どのような子どもたちが参加しているのでしょうか。
「不登校の子どもや、シングルの親御さんのもとに生活する子ども、DVや経済的な問題など何らかの理由で生活に困っている子どもが居ます。子どもだけでなく、その親御さんも大歓迎です。子どもが場になじんだ頃には、大人同士の会話も増え、いろいろな話をします。ぜひ気軽に立ち寄ってほしいですね。問題を抱え、誰にも相談できず、孤立してしまうことは避けるべきです。こういう場所があることを知ってもらい、横のつながり、地域との接点を持ってもらいたいと思っています」
こうした取り組みにつながったのは、バイタル・プロジェクトのメンバーの多様性と、吉まぐれ屋の存在でした。
理事長の向さんは、野球あるある芸で2.8万人にチャンネル登録される人気YouTuber。「野球YouTuber 向」として活躍しながら、大人と子どもが同じボールを追いかける草野球チーム「ムコウズ」を主宰しています。当初、大田区で行っていた活動のなかで、さまざまな家庭環境の子どもたちと出会い、地域の人たちと共に子どもの居場所づくりを積極的に行なっていました。その後、荒川区に転居。同じような活動の場所を、地元に作りたいと考えていたそうです。
時を同じくして、弁護士事務所勤務のほか、さまざまな肩書を持つ檜澤さんは三ノ輪駅前にオープンした吉まぐれ屋を手伝っていました。もともと向さんのYouTube動画のファンだった檜澤さんは、向さんが偶然お店の近くを歩いていたところに声をかけ、交流がスタート。
吉まぐれ屋にお米を納入している秋田さんも、子どもの教育支援に関心をもっていました。そして、お店を人が集まる場所にしたい、地域に何かを還元したいと考えていた林さん。吉まぐれ屋という場所で、志を同じくするメンバーが出会い、バイタル・プロジェクトが立ち上がりました。
「悩みを抱える子どもは、まだたくさん居るはず」皆さんに協力を仰ぎたいこと
バイタル・プロジェクトは、2018年9月にNPO法人の認証を受ける予定。さらに、現在は野球教室を中心に活動しているスポーツ事業について、より深めていきたいと言います。メンバーへのスポーツ栄養学の教育や、学校の部活動などに携わる外部指導員の養成などを行っていきたいそうです。
一方で、活動に参加する子どもの数がなかなか増えないことに課題感を感じる面も。
「参加している子どもたちは、氷山の一角。子ども、大人を問わず、困っている人たちが我々の活動自体を知らない可能性がまだまだあります。認知を広めていきたいですし、困っている人にはぜひ気軽に問い合わせてほしいですね。相談ができない状況の人が身近にいたら、ぜひこの活動について伝えていただけるとうれしいです。我々も活動を広げるために、メンバーの増員、教育をしていきます」
都電の駅から徒歩30秒「子どもも大人も、待っています」
バイタル・プロジェクトの活動拠点である吉まぐれ屋は、都電荒川線・三ノ輪橋駅から徒歩30秒の場所に位置し、地元に密着したお店です。
「荒川区は土地柄や規模から、人と人との距離感が近い街。地域の人からも注目されやすいため、より良い活動ができるよう、いい意味の緊張感があります」
毎回の活動が終わり、子どもたちの帰宅後は、運営内容について反省会を実施。メンバーの間で意見が食い違う場合などもありますが、きちんとディスカッションを行い、次回に活かしているそうです。
「家庭環境についての問題は、我々の住む場所のすぐ隣で起こっています。活動を通じて感じたこと。それは、子どもの居場所づくりとは大人の居場所づくりでもあるということです」
<バイタル・プロジェクト>
電話番号:070-6514-8077(秋田 博さん携帯電話)
メールアドレス:vital.project.0415@gmail.com
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