飲み終えた缶やペットボトルの行き着く先はココ
私たちは物を捨てずに生活することはできません。日々の生活のなかで何気なく捨てているものが、その後どこに行くのか知っていますか? 私たちが「ごみ」として捨てたもののなかには、埋めるために埋め立て地に運ばれるものと、再利用されるために処理場に運ばれる「資源」があります。
今回は、びん、缶、ペットボトル、トレイといった資源が集まる、あらかわリサイクルセンターにお邪魔しました。お話を伺ったのは、リサイクルセンターの立ち上げから関わっているという施設長、本木 豊光さん。東京都が抱える危機的なごみ・資源問題と、その解決に向けた取り組みについて教えていただきました。
あと50年で限界に……東京のごみ処理問題
「東京23区のごみは、荒川の河口にある東京湾の埋立処分場に埋め立てられますが、このままではあと50年でいっぱいになると言われています」
お話を伺ってまず驚いたことは、遠くない将来、東京都のごみ処理能力が限界を迎えるという事実です。これまでたくさんの埋立処分場が作られましたが、現在使用されているものが東京湾に作ることができる最後の処分場。新たな建設計画が無いため、今の処分場をいかに長く使えるようにするかが、課題になっています。
2000年(平成12年)に東京都清掃局から東京23区に清掃事業が移管されたため、23区は協力してごみを減量することになり、荒川区もごみの処理を区で行うこととなりました。しかし、荒川区には可燃ごみを焼却処理する清掃工場が無いため、近隣の区の清掃工場に搬送しています。リサイクル可能な資源について、荒川区のなかで処理するための検討が行われました。
捨てる「ごみ」ではなく、次につなげる「資源」
資源をリサイクルする再生事業者に送る前に、砕いたり圧縮したりといった中間処理が必要になります。当初は民間の施設でこの中間処理を行っていましたが、長期的に安定運用を行うために区がこれらを集約し、1カ所で行うことに。そして、2016年10月にあらかわリサイクルセンターの操業がスタートしました。
資源として回収されるものの種類は、リサイクル施設の性能によるため自治体ごとに異なります。荒川区では、びん、缶、ペットボトル、トレイ、古紙、古布の6種類を資源として回収。あらかわリサイクルセンターでは、このうち、びん、缶、ペットボトル、トレイの4種類の中間処理を担っています。
それでは、実際に中間処理の流れを見ていきましょう。ごみ・資源の問題の解決に向けて、あなたが今日からできることも聞いてきました!
透明、茶色、緑色……びんの色にも意味があった
まずは、びんのリサイクルから見ていきましょう。リサイクルセンターに運ばれたびんは、くり返し使えるリターナブルびんと、割ってリサイクルするカレットびんに分別されます。
こちらがリターナブルびん。洗ってもう一度びんとして使われます。
こちらは、カレットびん。細かく砕かれ、びんのほか、さまざまなガラス製品にリサイクルされます。実はこのカレットびん、リサイクルされた回数によって違う色のびんになるって知っていましたか?
透明のびんはいちばん新しく、もう一度、透明なびんにリサイクルされます。くり返しリサイクルされると劣化し、次は茶色のびんに。さらにリサイクルをくり返すことによって、緑色のびん、その他の色のびんとなり、最終的には道路や建築材などに活用されるのです。
そのため、リサイクルセンターに運ばれたカレットびんは、まず人の目によって色ごとに分別されます。
この工程ではなんと、1日に5トンのびんを作業員4名で処理しているとのこと。次から次へと流れてくるびんを、手作業で色分けしていました。荒川区のびんは、すべてここに集められ、処理にはこのように人が関わっています。ニオイが減らせるよう、捨てる前にすすぎましょう! なお、ラベルやプラスチックのふたは次の工程で取ることができるため、そのままでいいそうです。
こちらが、リサイクルセンターで砕かれたカレット。先ほどの分別の後、機械で砕きます。
こちらはリサイクルセンターから再生事業者に運ばれ、さらに細かく砕かれたカレット。ラベルなどもはがされ、きれいな状態になっていますね!
缶はアルミとスチールに分けて圧縮
続いて、缶のリサイクル工程を見ていきましょう。このような機械を使って磁石でアルミ缶とスチール缶を分別し、それぞれ圧縮します。処理される量は1日2トンほどで、こちらは3人で担当しているとのこと。
缶ビールやチューハイといったアルコールは、発酵するとニオイを出してしまいます。びん同様、水ですすいで捨てることを心がけたいですね。家庭のごみ箱からニオイが出ることも防げます。
なお、捨てられた缶の中に間違った素材が含まれていないか人の目で分別する作業もあるそうです。缶と一緒に捨てられているものは、電池やライターなどが多いのだとか。これらは燃やせないごみで出すなど、正しい分別を心がけましょう。
圧縮することで、アルミ缶の塊は8キログラムほど、スチール缶の塊は15キログラムほどになります。このような塊にすることで、再生事業者へ運ぶトラックにたくさん積めるようになり、運搬コストの削減につながるのです。
食材のトレイは溶かして固める
次に見ていくのは、スーパーなどで食材を買うときに出るトレイ。従来は「白色トレイ」と指定されていましたが、荒川区では2018年7月から、色、柄の入ったトレイも回収可能になりました。汚れが落ちないトレイや、発泡スチロール製以外のトレイは、これまで通り、燃やせるごみとして出しましょう。
参考:荒川区ホームページ 発泡スチロール製食品用トレイの出し方
この工程では、作業員がある程度砕いてから機械で破砕します。
その後、熱で溶かされ、3キログラム程度の塊となり再生事業者に運ばれます。この塊はトレイ約600枚分に相当するそうです。
ペットボトルはキャップとラベルを外して! そのワケは?
最後は、ペットボトル。1日に運ばれるペットボトルは2トンほどで、圧縮して結束バンドで成形します。ペットボトルを捨てるとき、キャップとラベルを外してほしいと言われますね。その理由は、この工程にあるようです。
「キャップをつけたままにすると、圧縮するときに破裂する恐れがあり、作業員に危険がおよびます。ラベルをはがすお願いは、ペットボトルの中が汚れているかどうか、わかりやすくするためです」
キャップを開けるときに一部がペットボトル側に残りますよね。キャップはプラスチックですが、次の工場でプラスチックとペット樹脂を分けることができるため、このままで問題ないそうです。
この工程の見学では、荒川区民としてうれしい現場のご意見が伺えました。
「荒川区民の方が提出されるペットボトルはきれいに洗浄されていて、見ればすぐにわかります。こういったきれいなペット樹脂は、またペットボトルに戻るため、品質が高い資源といえます」
びんや缶、トレイなど、他の資源でもリサイクル効率を上げられるか。それは私たちの行動にかかっています。
子どもたちが楽しく学べる、工房・教室
「資源問題の解決のためには、中間処理の機能だけでは不十分と考えました。あらかわリサイクルセンターの設立にあたり、各地の処理施設などの訪問、意見交換で得た情報を元に、区民の皆さんに体験、学習してもらえる仕組みを設計の段階から盛り込みました」
そう語る本木さんに、中間処理工程の次にご紹介いただいたのは、無料で定期開催しているというリサイクルを実感できる工房と教室について。再生したガラスによって、ペーパーウェイト、アクセサリーとして使える「とんぼ玉」、オリジナルデザインのグラスを作る体験が可能です。
アルミ缶を使った折り鶴や、廃食油を使ったキャンドルを作る教室も。ごみとして捨てるだけでなく、自らの手で生み出すという体験が、次の時代を担う子どもたちに気づきを与えてくれるはずです。
先ほどご紹介した、中間処理を行う施設も見学可能。グループ見学もできるので、問い合わせてみましょう。
地方に遅れをとる、東京都のごみ処理問題
本木さんから伺ったお話のなかで、気になることがありました。
「東京湾の埋立処分場という広大な土地に恵まれていたため、東京都は地方と比較してごみ処理の取り組みが遅れています。処分場がない地域は、山を切り開いて埋めたり、土壌や水質汚染に配慮したりといった努力のほか、消費者に対してごみ分別の徹底、減量を依頼するなど啓蒙活動に取り組んでいるのです」
私たちが毎日捨てているごみが、東京都の許容量を越えようとしています。ごみはごみ箱に捨てたら無くなるわけではありません。使い終わったものをごみにしてしまうのか、再利用できる資源にするのか。その選択肢は、いつも私たちの生活のなかにあるのです。
あらかわリサイクルセンターは、南千住や三ノ輪からバスですぐ。子どもだけでなく、大人も社会科見学が楽しめる施設です。東京の未来のためにできることについて、まず知ることが大切であると気持ちを新たにしました。
<あらかわリサイクルセンター>
電話:03−3805−9172
住所:東京都荒川区南千住3−28−69
HP:https://www.city.arakawa.tokyo.jp/shisetsu/kuyakusho/risaikurusennta.html