雷おこしや岩おこしと聞くと、あ~その「おこし」ねと気づいていただけるかと。
その「おこし」製造メーカー、荒川区にはここ「丸文製菓」1軒のみだそうで、日暮里繊維街からほど近くにあります。
3代目を受け継いだ25歳。細谷さんにお話を伺いました。
■成形する作業を見ながら~みずあめと「おこし」のタネを混ぜ合わせたものを、職人さんが型枠にきれいに均等に押し均していく
今これ150度くらいで、かなり熱いんです。
温度を確かめながらやらないと、温度や湿度で結構変わってきちゃうので
やはり職人でないと難しいんです。
当社は手作りで作っているので、それほどたくさんは作れないんですけど、ひとつひとつ職人が丹念に作っています。ここからカットしていきます。
■円盤状の薄い板がいくつも並んだ機械があり、円盤が回転している熱々の「おこし」を型枠に均等に均したものを縦横に機会に通すと、サイコロ形の「おこし」が出来上がる
これを梱包して出来上がりです。
「おこし」の元になるのはすごくシンプルで3つしかないんですよ。
ひとつはおこし種といわれるもので、「おこし」の大元になる原料です。お米、小麦や粟、玄米、うるち米などいろいろな材料からつくったおこし種があります。
おこし種はポン菓子みたいで、加熱するとプクッと膨らんでくるんですよ。それを加工したものをおこし種とよんでいます。これに水あめをいれて、味付けの生姜のパウダーを入れたりとか、抹茶を入れたりとかして出来上がりです。かなりシンプルなものです。
■水あめを混ぜる機械
初代からずっと使っている機械になります。
私で3代目で、会社としては57年目に入りました。荒川のこの場所でずっとやっていて、会社の名前が丸文製菓といいまして祖父が立ち上げた会社になります。
祖母の名前が文子といいまして、その「文」をとって丸文製菓と名づけました。
■妻思いのおじいさんですね。
そうですね。戦争が終わって帰ってきたタイミングで、和菓子屋さんに修行に入って数年後、自分の会社を立ち上げたという風に聞いてます。
■では、はじめから「おこし」を作ろうと思ってはじめられたと。
戦後間もないころはチョコレートなどが高級品で、甘いお菓子が手に入らなかったようで。
「おこし」は水あめと砂糖と穀物からできる比較的シンプルな甘いお菓子で、非常に皆様に喜ばれたそうです。なかなか食べるものも無いので、そういうものを広げたいという想いがあって立ち上げたと聞いています。
■立ち上げのときの苦労話など直接お聞きになっていたりするんですか?
実は僕が生まれる前に初代は亡くなっていまして、二代目からいろいろな話は聞いていました。
初代はもちろん苦労もしていたみたいなんですけれども、時代の流れ的に「おこし」の業界も伸びていたので事業自体は割りと安定してやってはいたみたいなんですが、どっちかというと苦労したのは二代目のほうで、今もまさにというところなんですけれども。
浅草なんかは東京でも「おこし」では有名なんですけども、浅草にもいろいろな洋菓子が入ってきたりとか、外国の方ってあまり雷おこしって食べられないし、買って帰られないんですよ。「おこし」自体の業界が衰退もしていますし、菓子屋の仲間も廃業していってるというのが現状ですね。
■雷おこしというのはいつごろからあったものなんですか?
「おこし」というと雷おこしというイメージがあるかもしれませんけど、元々「おこし」というものの中に雷おこしや岩おこし、粟おこしというのがあって、雷おこしというのは浅草だけのものなんです。なので、「荒川おこし」というものがあってもおかしくないんです。というかそれを作りたいと思っているんです。
「おこし」は、紀元前、弥生時代からありまして、穀物から作るものなので天皇が豊作祈願などに神様に供えるものとして糒(ほしい)という「おこし」の元になるもの(米などを一度蒸し、乾燥させたもの)で、奈良時代にも日本書紀だったりとか万葉集などいろいろな書物に登場していて、日本で最も古い和菓子と言われているんですよ。非常食のようなものだったみたいです。
当社の商品もそうなんですけれど、1年間ぐらいはもつんですよ。お客様に出すときには150日とか半分くらいにして出してはいるんですけれども、それだけ長持ちして安心して食べていただけるお菓子になっています。食べていただくこともそうなんですけれど、こういった歴史とかも含めて知っていただきたいと思っています。
■雷おこしとしては作ったりはしていないんですか?
雷おこしとして一部商品として出したりもしていますが、基本的には荒川おこしとして自社の商品を出しています。
■雷おこしと荒川おこしの違いは?
これが名前だけでしかないんですよ。とはいっても商品の特徴が地方によっては住んでいる方の好みだったりがあるので、菓子の最終形態が異なっているというのはあって。関西のほうの岩おこし、粟おこしというのはかなり硬いんです。雷おこしも硬いんですけれど、粒の大きいおこし種を使用したりします。関西は粒が小さいですね。
「荒川おこし」は、おこし種をブレンドしたものを使用しているというのが1つ特徴としてはあるかなと思います。玄米、小麦、粟、お米とかもあるのでサクサク感を出すためにブレンドして作っているのが「荒川おこし」ですね。
荒川区にはうちしかないので(笑)
■言ったもん勝ちですね(笑)現在のおこし種も蒸した穀物を乾燥させたものなんですね?おかきみたいなんですが油で揚げたりはしていないんですね。
はい、そうなんです。
(大きな袋に入ったおこし種2種類を見ながら)
こちらは小麦のものなんですけども、原料はまったく同じものを使っています。
色が番うのは火の当てかたを変えていて、ローストしているみたいな感じですね。
「さくらおこし」のように桜の葉とか、天然の着色料も使うんですけど、赤い色なんかは色のつき方のいい白いほうを、メイプルやアーモンドを使う時は少しローストしたほうをなどと選んで使っています。ロースト具合によって粒の大きさや硬さも変わるので、おこしの味や求める食感によって使い分けたりします。
おこし種は専門に作っている会社があるんです。
■なるほど。話はまた変わりますが、3代目を継いだのはいつごろですか?
2019年の2月ですね。
■小さいころから継ごうと思っていたんですか?
いえ、それが正直あまり継ごうと思っていなかったんですよね。
物心ついたころ2歳くらいからの記憶が結構あって。おこしを食べて、ずっと好きだったんですけど、継ぐという気持ちはそんなになくて。こころのどこかにはあったのかもしれないんですけど。仕事もまったく別の人材系の仕事についていて。
しかし、1年半くらい前に祖母が倒れて。2代目の叔父と叔母と祖母の3人でやっていたんですけれど、一人倒れたという時にこの会社に目が行くようになって、会社ってこうやってつぶれちゃうんだなとか、伝統ってこうやって失われるのかなという、すごく危機感を覚えたんです。そこから自分に何かできないかなと考え始めたのが1年半前くらいですね。
先代にも相談して、もし僕が継いだらとかという相談もしていたんですけれど、正直そのころあまり売り上げが良くなくて生活もぎりぎりで、僕が入っても自分の生活する給料とかどうすればいいのかって思ってました。
今は商材も増やしてきたんですけれど、当時はまったく無かったので、そこから半年間くらいかけていろんな準備をして1年前に「OKOSHIYA」というブランドを立ち上げたと同時にうちに入ったという感じです。
■以前の会社を辞めて、売り上げのあまり良くない家族経営の会社に入ってくるというのは大きな決断でしたね。
はい、大きな決断でしたね。
もう会社員じゃなくなるっていうところで、僕はまだまだ若造で社会経験積んでないので(笑)
会社という形はありますけど、ほぼ無いようなもので、自分で新しく作ってブランディングしていかないと生きるすべが無いので、この「OKOSHIYA」を立ち上げたということなんです。
■この商売をやろうと決めた一番の大きな理由は何ですか?
全然お馬鹿な発言なんですけれど、小さいころから「おこし」を見てきて、食べてきて、単純にうちの「おこし」が無くなるのが嫌だったというのが8割くらいです。何とかなるというポジティブな考えもあったんですけど、一方でつきつめて市場とかも見ていくと、「おこし」の会社はつぶれてはいるんですけれども、和菓子や米菓子と言われるせんべいやあられとかを含む市場自体は年々伸びていっているんですよ。なので、これはチャンスだろうと思って決断しました。
■今あるいろいろな味のおこしはブランド立ち上げから作っていったものなんですか?
一部以前からあった商品もあるんですけど、新しく商品も開発してどういうものがいいのか試行錯誤している感じですね。
地元が大好きなので、地元に何か還元していきたいというのがあるんですよ。なので、地元の食材を使ったり、荒川区に還元できるようなものを作れないかなと考えながらやってます。
おこしの名前の由来は「興す」という文字からきている縁起物なんです。昔から福を興す、街を興すとか、身を興すとか言われていて、「おこし」を通して街おこしとかが一緒にできないかなと考えています。地方の国産の希少性の高い食材を使ってみることもやっていて、たとえば長野の胡桃と、沖縄の黒糖を使ったものとか。生産者さんと一緒に作って、その街が少しでも豊かになればと思っています。
■新しい商品を生み出すアイデアはどこから出てきますか?
前提として「おこし」が非常にシンプルな製法なので何でもできるんじゃないかなと思っていて、家業のつながりで農家などとのネットワークもあるので、その人たちと飲みながら話の中で「こういうの美味しいんじゃないかな?」っていうところから一回作ってみると言う風にやってはいますね。
■「おこし」って「おこし」だけで食べるイメージなんですけれど、その「おこし」に何か乗せるとか、挟むとかいう商品もあったりするんですか?
試作品で、洋菓子のフロランタンのようなものがありまして、下の層が「おこし」になっていて、上にアーモンドとキャラメルの層を載せたものになります。あとは、チョコレートコーティングしてみたり、西日暮里スクランブルの「ぐるぐるジェラート」さんとジェラートと「おこし」のコラボしてみたりなどもしています。
形もいろいろなものがありまして、木型がいろいろあるので、細長いものや、正方形のもの、招き猫やだるまの形に物も作れます。
■「OKOSHIYA」ブランドの商品はどこで買えるんですか?
今はセレクトショップが多いですね。百貨店はあえて定常的に販売はしていないんですよ。結構声をかけていただいたりもするんですけれど。
1週間程度の催事などで販売することはあります。
現在は、当社オリジナルのECサイト(ネットショップ)からご購入頂けます。
よかったら覗いてみてください!
OKOSHIYAオフィシャルサイト
https://okoshiya.official.ec/
また、今後は地元の方が直接工場にいらして購入できる形も検討しています。
その際はまた改めて告知できればと思います。
■やはりブランディングをして価値を高めたいということでしょうか。
はい、そうですね。本来は常食で食べるものなんですが、今は常食されるものではなくなっていて、弊社の規模だと生産能力も追いつかなかったりするので、少量で、職人の丹精こめた手作りで、またいろんな生産者さんから仕入れさせてもらったものを価格割れしない形で提供させていただくというのが、僕らのできることかなと。
■外国の方の反応はどうですか?
ちょうどラグビーワールドカップのときにヒットしまして、ブラックペッパー味とかちょっとしょっぱいものもあるので、ビール片手に美味しいと食べていただける方が多くいらっしゃいました。あと、昨年バンコクに催事の出店をしまして、アジア系の方々は米の文化もあって、甘いものが好きなのでかなり反応が良かったですね。
今、外国人向けにも上質な和紙を使ったラベルや忍者ラベルのパッケージなども作っています。外国へお土産に持っていくものとしても使われますね。
■3代目として何か他にも新しい取り組みをされてるんですか?
おこしの美味しさだけでなく、そのの意味や歴史など、皆さんにより「おこし」の良さを知ってもらうため、工場内での体験ツアーやワークショップを実施しています。
JR東日本さんのご協力のもと、体験内容や企画を考え、昨年末から体験を提供しています。体験を通して、OKOSHIYAのファンになってもらえたらと思ってます。
【日暮里】日本最古の菓子「おこし」の工場見学&体験ツアー※お土産付!!https://tabica.jp/travels/11369
OKOSHIYA – ONLINESHOP
■実際、3代目を継いで1年ほどになるということですが、業績などはいかがですか?
この1年で売り上げが1.5倍くらいになりまして、取引者数は多くはないんですが大口でいただけるところもできまして、本当にありがたいことです。
ブランドを作ってネットでの販売も行っているんですが、B to C はやはり時間がかかるので、どちらかというとB to B のほうに力を入れて、冠婚葬祭ですね、結婚式場さんの引き出物ですとか、お葬式の香典返し等にも使っていただいたり、企業さんがオリジナルのお持たせを作りたいとかもありますね。
■この先5年後、10年後のヴィジョンなどはどのように考えていますか?
会社としての方向性としては、菓子自体で工場を拡大するという方向は基本的に無いんです。今ある工場の中で作れるキャパシティは売り上げとしては3億くらいまではあるので、そこまでにしたら今度はこのノウハウを元に知り合いの地方の農家さんや、会社さんだったりのブランディングのお手伝いをしたいと考えています。人材畑にいたこともあっていろいろなコンサルティングの会社を見てきたんですけれど、自分たち自身でプロダクトを作ったという経験が皆さんあまり無いので、どうしても助言でしかないんですよ。
そこを僕たちは自分たちで物を作って、それが成果としてあれば、それ自体そのまま他に持っていくことは難しいんですが、その道中で起こる葛藤とか出来事とか、こうしたほうがいいとかいうことが寄り添って支えることもできると思っています。
「OKOSHIYA」のメンバーの中にデザイナーもいるので、デザインの力なんかも使ってお手伝いできたらいいなと考えています。
■デザイナーさんもいるんですね。
僕も一部デザインしたりするんですけれど、「OKOSHIYA」ファミリーというのがありまして、僕と、デザイナーとプロデューサーの3人でブランディングチームを作っています。2人は社員ではなく、製造にも携わっていないんですが、アドバイザーという形で関わってもらっています。
■では、いずれはお菓子の「おこし」から、他の企業さんだったり仲間を「興す」「OKOSHIYA」になるということですね。
はい、そうなんです。
まずは「おこし」ありきなんですけれでども、それも含めいろんな企業さんをご支援をできるような会社になりたいと思っています。
まずこの「おこし」の歴史とか、意味合いの深い和菓子なんだというところは、この3年、5年かけて知っていただいて、その次のフェーズとしては、新たな形のものを商材として出すのか、はたまた別の地方のものをブランディングしていくのかというところに入っていく感じですね。
■この記事を最後まで読んでいただいた方々にメッセージをお願いします。
「おこし」は人の心を「興す」縁起ものなので、心のこもった和菓子として知っていただきたいし、ぜひ見かけたら手にとって使っていただきたいなと思います。
■丸文製菓、25才の3代目が荒川からいろんなものを「おこし」てくれると期待しています!
<店舗情報>
- 店名:丸文製菓
- 住所:荒川区東日暮里5丁目35−2
- 電話番号:03-3891-3731
- 営業時間:7:00~17:00(月~金)
- 定休日:土、日
- HP:https://okoshiya.official.ec/