土の息遣い。海山の恵み。喜びを感じる四季の食。エノテカエクウス(東尾久)(後編)

– その時、その場所で収穫できたものに、ちょっと色付けをするのが僕の役割


ジビエを使った料理を数々提供されているエノテカエクウスさん。

「僕自身がジビエが好きというわけではなかったですし、むしろ自分の料理でジビエを扱うのは避けようとしていたぐらいなんですが、たまたまお客様の趣味で猟をしている方がいて、狩猟で獲れたものを送ってくれていたんです。」

お客様が縁でジビエを使った料理を作るようになった渡邊さんですが、何事も突き詰める性格の渡邊さん。
ご縁がつながる形で様々な狩猟家や農家の知り合いが増えていき、産地による違いなどを知れば知るほど楽しくなっていったと言います。

鴨猟にて。

「楽しく作っていたら、お客さんのほうも鹿を食べたい、熊を食べてみたい、という方が増えていきました。」

一方で、今の食ブームの傾向については懸念があるそうです。

「インスタ映えとか、どこの店に行けた、とか、そういう、他人の尺度で生きるような生き方がとても増えてきているように感じています。自分にはそういうことはとても無駄なことに見えます。また、そういう方が増えることによって食材が乱食、乱獲の世の中になってきています。例えばウニですら、最近は養殖が始まっているんですね。」

HACCP認証を受けた認定エゾシカ処理施設の鹿肉を使用

実家も食の業界だったこともあり、両親に外食に連れていかれる都度、マナーについてはしっかりと叩き込まれたという渡邊さん。
技術の進歩は良いことだが、いい食材、いい文化、そういうものを残すこともしっかりと意識し、継承していかなければ日本が培ってきたマナーや文化が無くなってしまうのでは、と危機感を感じていると言います。

「自分が得をしたい、自分が他人に評価されたい。技術の行き着く先の目的が”自得”の精神だけだとしたら、日本が培ってきたマナー、文化、そういったものが無くなってしまうのではないでしょうか。」

最近は漁師さんにも「10年後にいい魚は確実に無くなるよ」と言われるのだとか。
美味しいお寿司がいくらでも低価格で食べられる世界の裏では、底引き網で根こそぎ魚を乱獲し、大手の寿司チェーンさんが大量に買い付ける。
人間の欲望を満たすために自然から根こそぎ奪い、生態系が崩壊する。

「今は四季に限らずいつでもなんでも獲れてしまう。お店が料理の見た目の良さを優先させ、その観点から、あれが欲しい、これが欲しいと、必要なものを買い付けようとする風潮があります。僕はそうではなく、その時取れるものに僕らが対応すればいい、と思っています。その時生産者さんが送ってくれるもの、取ってきてくれるもの、そこに少し色付けをする程度。自分の役割はそういうものだと考えています。」

その季節に自然から獲れたものを。

– バランスよく、自分の体に合ったものを食べることが大切


カニプリンに続いて出していただいたのは予約制で販売しているイチジクケーキ。実は、小麦を使っていないグルテンフリーケーキです。

使っている材料はアーモンド、ヘーゼルナッツのパウダーとイチジク。それに、ブランデー、バター、卵など。
イチジクの酸味とブランデーの香り、そして2つのナッツの甘さが渾然と一体化したイチジクケーキのしっとりと深い味わいは、これが小麦粉不使用のグルテンフリーケーキだとは全く思えない濃厚な食感です。

「バターや卵の割合は普通のケーキとそれほど変わらないんですが、イチジクの量がかなり多いんです。」

セミドライのイチジクを戻すのに使うブランデーを焼くときにもそのまま使用。濃厚なねっとり感が出ています。
落ち着いた甘さは、イチジクそのものの甘みとナッツの香ばしさから。砂糖は、渡邊さん自身も測ってみて驚いたほどほとんど使っていないのだとか。

さらに、ケーキのトップにさっと添えてくれた金柑のスライス。

「金柑ってジャムにするしかないと言われがちなんですが、実はこんな風にスライスして食べるだけでもとても美味しいんですよ。」

イチジクケーキのしっとりと深い味わいに爽やかな甘味を加え、抜群なハーモニーを醸してくれます。「おぉぉ」と目を丸くしている我々に、なかなかいいでしょ?と笑うシェフの目がとても自然で優しいのが印象的でした。

最近はグルテンフリーの料理やスイーツなども様々に作っている渡邊さん。ご自身も仕事の関係で若干の小麦アレルギーを発症していることもあり、グルテンフリーに特化するジェムフーディーズという会社のコンサルタントを引き受けています。

「グルテンフリーだったら何でもいいですよ、ということではなくて、バランスよく、自分の体に合ったものを食べる、ということが大事なんです。今の時代は何でも手に入るので、自分がその気になればいくらでも偏った食生活が可能です。例えば、ボディメークをしている方が毎回同じ食事をする。その偏った食事の結果、遅延アレルギーになるケースがあります。」

対象の食物を体にいれると一気にアレルギー反応が出る即時型アレルギーと異なり、遅延アレルギーは食べ物を食べた数時間後に出てくるもの。
ショック的な反応ではなく内臓系などに症状が発生し、倦怠感を感じたりします。
食事から時間が経っているためアレルギー症状であることに気づきにくく、現在は検査もアメリカでしかできません。これも偏った食生活が原因になることが多いのだそうです。





– 筍茶の優しい風味で体も気持ちもホッとあったかく


イチジクケーキを堪能していると「いま、お茶を出しますね」とお茶を用意してくれました。

出てきたのはあったかい「筍茶」。茶色い液体の中に浮いているのは確かに筍の皮です。
熱いお茶から立ってくる香りを鼻に近づけると、ほんのりと筍らしい若々しく土臭い香りが香ってくるのが感じられます。

さて、筍の味がするのだろうかと一口すすってみると、想像していたのとは全然違う、甘いような甘酸っぱいような、まろやかで不思議な味。
優しい味が胃の中にすぅーっと落ちていくのがわかります。

「うちの母親が料理上手で、山菜もおばあちゃん達と一緒に自分で取りにいって保存していたり、そういったことを小さなころから身近に見て経験していたんです。例えば筍も、去年の筍であっても工夫次第では年中使える。そういったことが昔の人たちはすごく上手なんですよね。そういう楽しみ方も僕は味わってきたんで。」

筍のニュアンスを出すのに少しだけ甜菜糖を加えたり、筍の皮の焙煎具合に少し工夫を加えたり、楽しみながら試行錯誤したのだそうです。

春になると筍掘りに行くお母さんから毎年大量の筍が送られてくるんで困るんだ、山菜でもなんでも突然大量に送ってくるんで、と言いながらも嬉しそうなシェフ。
「お母さんに愛されてますね!」というと、とんでもないと照れ臭そうです。

ふと気づいたら、私たち記者はみな自然と笑みが。
美味しい。。そう体が喜んでホッとしている。そうなっていることに気づきました。

– 生産者の方から届く食材で何が出来るか、それを考えるのが楽しいんです


これからどんなお店にしていきたいのか、聞いてみました。

「自分は、こちらから何を作りたい、これを提供したい、というのは特に無いんです。生産者の方から届く食材で何が出来るか、どんな料理にできるか。それを考えるのが好きだし、楽しいんです。」

情報過多な社会の中、料理をする側も、流れてくる情報を吸収することに一生懸命になって流されがちなんだそうです。

「だからこそ、まず自分自身のベースをしっかり持って自分なりのフィルターを磨いておく。得た情報をそのフィルターを通じて眺めた上で、自分の料理に落とし込む。それがとても大事だと思ってます。」

カウンターのお客さんに、これよく自分で全部作れたね、と言われることもよくあるという渡邊さんですが、直前までいろいろ考えることが楽しいから全然苦にならないのだそうです。お客さんと会話を楽しみながら、料理の様子も見てもらい、振る舞う。そんなお店にしていきたいのだとか。

実は渡邊さん、来年春にかけて、これまでの理想を注ぎ込んだお店の大改装を予定しているのだそうですよ。
無骨な中にも、素材に対する優しい気持ち、裏表のない食材の新しい楽しみ方、料理をする楽しさが詰まった渡邊さんの料理。
今後どんな空間でそんな料理をいただけることになるんでしょうね。楽しみです。

・エノテカエクウス開店に至る経緯などがわかる前編はこちら > 土の息遣い。海山の恵み。喜びを感じる四季の食。エノテカエクウス(東尾久)(前編)


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