ADEKAと山惣の邂逅から生まれた絶品レトルトカレー!その謎に迫ってみた

新幹線に乗ったことのある方、車内の電光文字広告に流れる「ADEKA」の広告に記憶はありませんか?
荒川区で剣道や柔道を習っている方であれば、「ADEKA杯」のことは良く知っていると思いますし、東京さくらトラム(都電荒川線)の同社のカラフルなラッピング車両も荒川区内でお目にかかれます。

剣道・柔道の大会であるADEKA杯を毎年開催。

株式会社ADEKAは東尾久に本社を構える東証一部上場企業。
化学品事業と食品事業を抱え全世界の従業員は5,000人以上と区内トップクラスであるだけでなく、多くの商品で世界トップシェアを持つ、荒川区が誇る世界的企業です(本社は隅田川沿いにそびえ立つ高層ビル!)。

2006年までは旭電化工業という社名でした。
1977年まで東尾久に工場があり、工場の前の通りが今も残る「旭電化通り」。
工場の跡地は現在の尾久の原公園と東京都立大学の荒川キャンパスとなっています。

そんなADEKAが、東尾久の洋食の名店「山惣」とコラボしたレトルトカレーを2020年8月に発売。
SNSなどで瞬く間に話題となりました。

ADEKAは「ピリリカレー」の名前でレトルトカレーを以前から販売していますが、地元飲食店と組んでのコラボレーションは今回が初めてのこと。
販売場所は山惣さんと荒川区役所しかなく、価格も欧風ビーフカレー550円、キーマカレー600円となかなかのプレミアム品。

地元で生まれた意外なコラボレーション。味だけでなく開発の経緯も気になります。
ということで、ADEKAさん・山惣さんにお話を伺ってきました。

山惣の柳川シェフとADEKA食品本部の佐藤リーダー

 

熊野前を代表する洋食屋「山惣」
店名の由来を聞いてみたら意外だった!


まず向かったのは熊野前の交差点から徒歩5分の山惣さん。
住宅街の中に突然現れるログハウス風の建物が目印です。

下町の洋食、山惣さん

昭和24年にお惣菜屋さんとして創業した山惣。当初は町屋で他のお店の軒先を借りてお惣菜を販売していました。その後、尾久に移転し、先代がもともと浅草の洋食屋で働いていたこともあって洋食屋の業態に転換します。

最初に販売したのはコロッケ。良く売れたのだそうです。

「”肉屋のコロッケより美味いものを作る” を目指していて、”肉屋を通り越してうちにコロッケを買いにきたよ”ということを良く言ってました。」

先代は、お店の場所が多少悪くても良い味の料理を作ればお客さんは来てくれる、という哲学を持っている人だったと柳川シェフ。そんな先代の野望は店名にも込められていました。

「親戚のお店の屋号から「山」をもらい、元々お惣菜屋さんだった経緯から「惣」を取って「山惣」になったんですが、実は、”山惣”って”三菱”と画数が一緒なんです。」

創業当時の山惣の写真。創業のエネルギーが伝わってきます。

創業者である先代は字画にこだわりのある方。
お店を大きくしたいという思いで天下の「三菱」と同じ画数の漢字を選んだのだそうです。

 

お客様への感謝を表すお土産を自社で作りたい
そんなADEKAの思いからスタートしたコラボレーション


一方、ADEKAにはある悩みがありました。

「ADEKAは素材メーカーということもあり、営業がお客様に挨拶に伺う時にお届けできる自社商品が無いんです。例えばマヨネーズなどもあるんですが1kgぐらいある大きなものだったり。。。」

ADEKA法務・広報部の松本さん

ADEKAには様々なレトルト食品を製造する上原食品工業というグループ会社があり、ピリリカレーというレトルトカレーを既に製造していました。
そこで、高級感があってお客様に喜んでもらえる美味しいカレーを作れないだろうか、というプロジェクトがスタートします。

開発にあたって大切にしたのが「アデカらしさ」と「なぜそのカレーなの?」という商品コンセプト。
テーマに沿ったネタの収集を地元である尾久周辺で行う中で上がってきたのが山惣の名前でした。

なぜ?というストーリーをみんなで考えたと佐藤さん

実は山惣はお客様との会食でも使われるなど、多くの社員も利用する馴染みのお店。社員の中には毎週山惣に食べに来る方もいるのだとか。
そこで、共同開発させてもらいたいとADEKAから山惣に相談。以前からコラボ商品開発に興味のあった山惣も快諾し、2019年10月に共同プロジェクトがスタートしました。

 





半年以上を費やした試行錯誤
完成したそのクオリティに山惣も驚いた


ADEKAチームはすぐに山惣のカレーを社内に持ち帰って試作を開始します。

しかし、最初の試作品に対する山惣の反応は「正直難しいんじゃないかと思いました」という厳しいもの。それもそのはず。山惣のカレーはお店で2日も煮込んで完成させているのですが、工場ではさすがにそこまでは出来ません。

2日かけて煮込む山惣のカレー

しかしそこからがADEKAの真骨頂。

山惣のアドバイスを得ながら工夫を重ね、「どんどん味が良くなってコクもたっぷりになり驚きました。いい材料を使いすぎて原価は大丈夫だろうかと少し心配になりました。」と山惣さんが言うほどの出来栄えの欧風ビーフカレーが2020年8月に完成します。

山惣とADEKAのタッグでお店の味に引けをとらないカレーが完成

さらに、1種類では寂しいということで、様々に作った試作品の中から社員の評判が良かったキーマカレーも山惣の監修のもと、名古屋コーチンを使って商品化しました。

パッケージデザインや包装紙なども社員や取引先のサポートを得ながら自社で推進。
高級感を出すために黒を採用したりカレーの写真も社員で撮影したりと、お客様へのお土産にふさわしい、社員の思いのこもった商品となりました。

高級感あるパッケージにも思いが込められています

 

レトルトカレーには珍しい独特の調理法に味の秘訣が!
初回ロットは瞬く間に完売に。


このADEKAx山惣の欧風ビーフカレー。実際に食べてみると濃厚でまろやかなコクとスパイス感のある爽やかな酸味、そしてカレー通から「結構攻めてるね!」と言われるほど後からしっかり感じる高級感のある辛さが絶妙な一品。

その美味しさの秘訣の一つが、上原食品工業独特の調理法。

独自製法を活かした、しっかりとスパイスの効いた本格派カレー。

「一般的なレトルト食品は具材をレトルトのパックに入れてカレールーを流し込み、殺菌されたレトルト食品を袋の中で煮込みながら完成させるという手法を取るんです。ですが、上原食品では最初に大鍋でカレーを炊いてから袋に詰めます。そのため、煮込んだ具材とルーの一体感が出やすく、通常のレトルトカレーと比べて美味しく仕上がるんです。」

主にノベルティ用として開発したこともあり殆ど宣伝をしていないにも関わらず、取引先への手土産用だけでなく自宅用で買っていく社員も多く、最初の生産分は3ヶ月ほどでなくなってしまうほどの評判に。

お客さまへの思いを込めたお土産用パック

また、山惣にはこのカレーを目的に来店されるお客様もいるほどの人気となり、更にお店のカレーも食べたいというお客様の声も増加。
それまで裏メニューだったランチタイムのカレーが表メニューとなりました。

 

一つの化学反応から3つの製品を作り出したADEKA
「東尾久スピリッツ」な食品に至ったその歴史とは


ところで、ADEKAといえば化学品メーカーのイメージが強い方も多いでしょう。

実はADEKAの食品事業は「RISU BRAND」(リスブランド)の食用油脂、マーガリン、ショートニングなどの業務用加工油脂・食品のトップブランドであり、誰もが知っているようなパンメーカー、飲食店、ホテルなどでその製品は幅広く使われているんです。

業務用マーガリンは2020年日経優秀製品・サービス賞 日経MJ賞を受賞

ADEKAは大正6年(1917年)に創業。当時、化学製品の材料となる水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は海外からの輸入に頼っており、これを国産化することが狙いでした。

現在大河ドラマの主役となっている渋沢栄一とも縁深い古河グループが、資源の少ない日本も食塩はは無尽蔵に取れることに着目。隅田川を使って運んだ粗塩を電気分解し苛性ソーダを精製する事業を開始します。

「この精製の過程で苛性ソーダと塩素と水素が発生します。苛性ソーダからは後にベストセラーとなる『アデカ石鹸』を作り、塩素は漂白剤として商品化しました。最後に残る水素をどうしようか、ということになったんですね。」

ADEKA食品本部、小島リーダー

実は、水素を液状の油に添加すると固形脂と呼ばれる硬い油が生成されます。
この化学現象に着目し、マーガリンを製造することにしたのがADEKAの食品事業の始まりです。

現在は水素を使ったマーガリンは作られていませんが、「トランス脂肪酸低減」や「食品ロス削減」など、“おいしさ”にプラスアルファの技術力で、常に業界をリードする存在となっています。

ADEKA本社にはその歴史を語る資料が展示されています。

化学品と食品を2本柱とする世界でも珍しい企業としてその事業は脈々と受け継がれ、海外13カ国に展開するグローバルメーカーとして、荒川区から日本と世界のさまざまな業界・食卓を支えているADEKA。

そんな世界的なメーカーと地元に愛される老舗レストランが長い歴史を経て邂逅し、共に企画した「東尾久スピリッツ」が込められた絶品レトルトカレー。

ぜひ、そんな背景も噛み締めつつ、ご賞味あれ。


<取材協力>

・レストラン山惣
HP:https://yamasou.com/

・株式会社ADEKA
HP:https://www.adeka.co.jp/


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