荒川の職人さん:4人目「堀川鋳金所 松本育祥さん(後編)」

この記事は約2分で読めます。

荒川の職人さん:4人目「堀川鋳金所 松本育祥さん(前篇)」を見る >

体験教室で完成したぐい呑みを手にとってみる。先ほどまでヤスリ掛けで握りしめていたせいか、手のひらにしっくり馴染む気がする。

育祥さん作のぐい呑みを見せてくれた。「生型製法だと同じように作っても砂の目とかで一つ一つ『景色』が違うんですよ」。流れるような模様が入った部分、つるっとした部分、ざらつく部分。なるほど、ひとつのぐい呑みを回しても趣が違うし、また他の作品と照らしあわせても一つとして同じものがない。この個性を堀川鋳金所では「景色」と呼んで大切にしている。

「洗っているうちにたわしや何かで擦って傷がつくんですよ、純錫は柔らかいから。でもそれもまた『景色』なんです」

堀川子之吉氏の代に始まり、創業から100年を超えた。昔はこの一帯に多くの鋳物屋が軒を連ね、力を合わせてひとつの鋳造品を作ったこともあったというが、今この街に残っているのは堀川鋳金所を含め2軒だけ。国会議事堂の門標や迎賓館の装飾、大手メーカーの玄関に掲げられた銘板など、今もなお日本を代表する大きな仕事を数多く手掛けている。

堀川家の娘・寿美子さんと結婚した隆一さんが3代目を継ぎ、育祥さんが4代目を数える。今は共に作業場に立ちながら、3代目の背中を追う。二人は親子であり、師弟でもある。

この夏は新作として、五角形のビアタンブラーがお目見えした。薄すぎるとすぐ歪んでしまうし、厚すぎると重い。ましてや高さのある器は難易度が上がるとのことで、試行錯誤を繰り返して完成した自信作だ。氷を入れると10秒もしないうちにタンブラーがキンキンに冷える。ジョッキのように多量には注げないが、これぐらいが冷たく味わえる適量とも言える。

「家に試作品を持ち帰ったら、妻がこのタンブラーを気に入ったらしくついつい飲み過ぎちゃって」育祥さんが照れ笑いをこぼした。家族の応援が日々の励みになっている。

もとはグラフィックデザインの勉強をしていたという育祥さん。家業を継ぐ意識はさほどなかったそうだ。「ものを作りたくなったんですよね。形あるもののほうが面白いな、と思って」。幼い頃は遊び場だった工房がいつの間にか仕事場になっていた。

「プラスチックのものもあっていいんですよ、便利だし。でもこういうもの(工芸品)は安くないし思い入れが違うから大切に使うでしょう。そういうものも知ってほしいですよね。一度持つと良さが分かると思う」。新作の発表や体験教室など、伝統工芸でありながら現代との接点を求め続けるのは、代々伝わる家業への誇りと愛情ゆえなのだと感じた。

育祥さんの言葉どおり、私はあの取材以降すっかりぐい呑みが気に入ってしまった。100円で買ったコップも使うが、一日の疲れを癒やす一杯にはついついぐい呑みを使ってしまう。

<体験教室>

鋳物砂に適度な水気を与えて押し固め鋳型を作る、生型(なまがた)技法を体験していただきます。作業中、砂やヤスリを使うため服が汚れてしまいますので、汚れても良い動きやすい服装でお越しください。

箸置き体験 5000円(税抜)/ぐい呑み体験 6000円(税抜)
所要時間 2~3時間


<取材協力>

※荒川102の取材情報は地図からも探せます。ぜひご活用ください。>>> 「荒川102取材マップ」


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です