Everyday Friday! ハートを繋ぐデザインカンパニー「ROOM810」町屋

町屋の目抜き通り尾竹橋通り沿い。ココスナカムラのあたり。
青と白を基調とした夏色なビルの屋上にどーんと構える大きな怪獣?恐竜?
といえば見たことのある方もたくさんいるはず。

月明かりの下、町屋の夜を睥睨する怪獣!

テレビでも取り上げられたことのあるそのビルは、町屋を拠点に全国各地で飲食店などの内装からホームページのデザインに至るまで様々なデザインを手がけるデザイン集団「株式会社ROOM810」が、その遊び心を茶目っ気たっぷりに体現したオフィスです。

オフィス

でも、このオフィス。外観の奇抜さだけが売りではないんです。仕事をするための考え尽くされた仕組みがあちこちに仕掛けられたオフィスなんです。その秘密は記事後半で。

さて、荒川102と若干似た感じのネーミングの「ROOM810」。
これ、なんて読むのかわかりますか?
はちいちぜろ?じゃないですよ。
正解は、「810」と書いて「ハート」。つまり、「ルームハート」と読みます。

ROOM810 =「ルームハート」

実は、ROOM810さんには数年ごしのインタビューの実現となりました。
Facebookを開設されたばかりのころに「なんだか面白そうな会社が荒川区にできてる!これは取材せねば!」と思ったのですが、当時はなかなか連絡がとれず。

社長の丸山さんに「数年ごしにインタビューが叶いました」とその当時のことをお伝えすると、「当時は忙しくて回ってなかったんだと思います。。ごめんなさい〜〜!!!」と。

社長の丸山さん

その屈託のない笑顔がズルい!
おっさんがおっさんの顔を見て言うのもなんですが、可愛い(?)。
この会社の必殺兵器を見た気がしました。

 

– 町屋生まれの町屋育ち。なんだかんだずっと荒川区


町屋生まれの町屋育ちの丸山さん。

「僕の母も叔母も、全員町屋育ちなんです。一回だけ出たことがあるのが南千住に2年ほどいたぐらい。」

青年海外協力隊で海外にいた2年を除けば、ずっと荒川区から出ていないそうですが、一度、荒川区から出ようと試みたことがあるそうです。

「一人暮らし始めるときに一応恵比寿とかも探してみたんです。物件も見にいったんですけど、結局町屋になってしまうっていう(笑)。よく言うんですけどね、町屋の人は町屋から出ないって。便利だし。。」

そんなわけで、街を歩けば知り合いばかりいるんだとか。
2019年に町屋の城北信用金庫の裏にできたダイナー「TOKYO L.O.C.A.L BASE」をやり始めてからは更に知り合いが増えたと言います。

TOKYO L.O.C.A.L. BASE

「〇〇の息子がやり始めたらしい、なんて噂が立ってたみたいで(笑)。お店で地元のおばさんに「漸く会えたわね!」「あー、どうもどうも」なんてやりとりしてます。」

小学校の時の同級生との繋がりが復活したりすることもしょっちゅうだとか。

「町屋は、住みやすくて人情深くて、良くも悪くも少し田舎の匂いもする街だな思います。」

 

– 家業に反発。職人が評価される世の中にしたい、と独立へ


丸山さんの実家は同じく町屋で建設業を営んでいます。
職人の中で育ってきた丸山さんが就職するころは就職氷河期。
ちょうど建設業界では姉歯事件のような業界構造に絡む問題がいろいろと噴出していたころで、業界の不合理や矛盾を感じて当時はかなり反発していたんだそうです。

「最初はこれって変じゃない?と思っていても、人って段々慣れてきちゃうんですよね。当時は僕もそういうことに反発して、「こんなクソ業界はダメだ!」などと随分ひどいことも父に言っていました。」

反発しながら業界を変えたいと自分なりに試行錯誤しながら4-5年を過ごした丸山さん。
自分なりに一通りやりきったところで、電車に乗っていたときふと目に入った交通広告に心をグッと摑まれ青年海外協力隊としてジャマイカに赴任します。

「ジャマイカには2年いたんですけど、帰ってくると少しボーッとしてるというか、アホになって帰ってくるんですよね。。」

ジャマイカにて

もともと業界の慣習に反発して海外に行った丸山さんですが、帰国後しばらくは日本の社会に改めて溶け込むのに時間を使いつつ、また職人に戻っていたそうです。

「反発して海外に行ったはずなのにおかしいですよね(笑)。しばらくしてから漸く反発していた頃のことを思い出しました。あ、業界を変えるって言ってたんだった、って(笑)。」

実際にはその頃には業界も変わり、以前よりは環境は良くなっていたそうですが「自分で業界を変えるような動きを相変わらずやってない」と気づいた丸山さん。

「職人はふてくされてるし、見た目も悪い、柄も悪い、言葉遣いも悪い。これでは社会から評価されない。職人さんが評価される社会にしたいなあ。」と決意します。

業界の中で働いていても、職人の地位は上がらないと考えた丸山さん。
仕事の上流へ入ることで問題を解決したいと、まずは職人が手を動かす指示の元、作業の上流である設計の勉強をします。さらに仕事の流れ、お金の流れを把握するために、東京ガスへ出向して5年ほど営業の経験も積むうちに、徐々に自分がやるべきことのイメージが湧いてきました。

職人が手を動かすのも、設計が図面を描くのも、結局はデザインが元になっている。こんな空間にしたい、という空間デザインに価値があるから、お店やオフィスに人が集まる。自分はそんな空間をデザインしたり、プロデュースする仕事がしたい。

こうして、自らデザイン会社を立ち上げようと決心し、宣言から2年ほどで会社を辞め、独立することになります。

「兄がいたので、実家の会社は兄が継いでくれるだろうと信じて。。(笑)」

現在のオフィスへと続く階段には様々なメッセージが

 

– デザインをやる人がいないデザイン会社、からのスタート!


デザインをしたいと思いつつ、デザインだけではお客様の売上に直接的に貢献することは難しいと思った丸山さん。セールスプロモーションや広告の世界にも興味を持っていたと言います。

まだインターネットはそれほど盛んではなく、広告といえばテレビやラジオや新聞という時代だったこと、また、自身がテレビを持たないほどのラジオっ子だったという丸山さんは、デザインだけでなく、ラジオとデザインをやる会社、として会社を立ち上げることとなります。しかし、当初の実態は少しイメージとは異なっていたのだとか。

「当社の鈴木と一緒に立ち上げたんですが、彼女がラジオ担当。僕は、デザインはできないので結局工事をしていたんです。なので、実は最初の一年はラジオと工事の会社だったんです。でも、やりたいのはデザイン。だから、いつも「デザイン会社です」って営業してました。デザインやる人がいないんですけど(笑)。」

旧オフィスにて

デザインができるよう、空間デザインができる友達を探してきた丸山さん。
入社してもらいましたが、仕事がないので、「仕事を作ろう!」と、一緒に仕事を考えるところから始まります。

「そうこうしているうちに、グラフィックができる人も必要だよね、ということになりグラフィックデザイナーも入れる。だけど、仕事はない。だから工事をやる。4年ぐらい「僕がみんなの給料を工事で稼ぐぞ〜〜」って頑張ってました(笑)。」

社員の給料を稼ぐべく工事の仕事を増やす戦略に出た丸山さんですが、当然、工事をやるために工事をやる人を増やすこととなります。

「デザイン会社なのに、結局工事のチームが大きくなっちゃって(笑)。」

デザインの仕事が来ないので、自社のホームページのデザインを頑張って少しでもデザインの仕事をもらうように仕掛けたり、一度納品したデザインの仕事の実績は目一杯アピールする。
そうやって少しでもデザインができることをアピールしようと必死だったと言います。

印刷物から、ホームページ、空間デザインまで様々なデザインを手がけるROOM810。

「今でこそ完全にデザイン会社と言えますけど、そんな感じで、最初の3年ぐらいはデザインをやってる「フリ」をしているデザイン会社でした。」

 

– 確実な需要がある中、思い切って工事の事業をやめ、デザインに特化することを決意


工事の仕事がどんどん増えていき、忙しくなる中、丸山さんはある決断をします。

「2020年オリンピックに向けて工事の仕事がたくさんあるということは業界では皆分かっていましたが、これ以上工事をやっていたらまずいなと、止めることを決めました。」

仕事はたくさんある。しかし、それをやっていてはデザイン事業のほうは思ったように進められない。

「稼げてしまうので、どうしてもデザインの仕事を増やす努力を怠ってしまうんですよ。」

designed by ROOM810

工事の仕事を辞めた当初、売上は一気に半分まで下がったと言います。

「2年ぐらいはジリ貧の状況だったんですが捨てると決めたんで、工事はやらず、お客さんに言われても断っていました。本当にデザインだけをやっています、という状態になれたのは漸く2年前ぐらいですかね。稼げることがわかっている仕事をやめるのはとても勇気がいりました。」

工事で稼ぐ他社状況を横目に羨ましく思いつつも、工事を止めるという方針をぶらすことはなく踏ん張った丸山さん。
今では工事の仕事は完全になくなり、思い描いていたデザイン会社として事業を離陸させることに成功します。

designed by ROOM810

 





– 『Everyday Friday」を体現するよう考え尽くされたオフィス


ROOM810といえば、そのオシャレなオフィスがテレビでも取り上げられたり各種イベントでも使われたりするなど、知っている方も多いと思います。

「『デザインで世の中を楽しくする』というのが当社のテーマで、そのために各種部門があります。インテリアだけでは世の中を楽しくはできないので、やっぱりグラフィックも必要。伝えていけるメディアも必要。イベントもできなければいけない。そういった考えから組織が作られています。」

仕事を通じて会社が目指すテーマを実現していくには働いている人自身が仕事を楽しくやっていなければいけない。
その思いをROOM810では「Everyday Friday」という言葉で表現しています。

階段踊り場に大きく描かれた「Everyday Friday」

「じゃあ、働く空間ってどんな空間なの?やっぱり楽しくなければいけないよね?遊びがなければいけないよね?そういう考えからこういう作りのオフィスにしています。」

 

– 休憩から通路幅まで、実験しながら作っていった、自然とコミュニケーションが生まれるオフィス


一見、ただオシャレに見えるオフィスですが、実は緻密な設計に基づいて作られています。

「アメリカで行われた人間のコミュニケーションと行動の関係をデータ化した研究があるのですが、その中で、人間のコミュニケーションが活発するのは、空間から空間に移動するときに起こる、ということが明らかになっています。

例えば会議室にずっと居るよりも、会議室から喫煙所に移動するときが一番コミュニケーションが活発になるそうです。
そういったことを知り、ROOM810では仕事をする中で自然と空間を移動させることを仕組み化しています。

「例えば、うちでは一時間に一回チャイムが鳴るんです。みんな休憩してください〜。タバコ吸いにいく人はその時に吸ってね〜、じゃないと吸わない人と比較してアンフェアになるでしょう?って。」

この仕掛けにより、社員は自ずと回遊するようになっています。

「トイレいく人、お茶を飲む人。実際みんな動くんですよ。10分でも15分でもいいんですけど、とにかく動けば、勝手にコミュニケーションが生まれるわけです。上司や社長が『もっとコミュニケーションを取りなさい』なんて言う必要はないんですよ。」

3Fにはカウンターバーも。アルコールもありますが、いつでも自由に飲んでいいんだそうです。

通路幅もきっちり研究されています。

「人間と人間の間には『絶対距離』というのが存在しているんです。この距離感だったら喋りやすいけど、この距離感だと嫌だ、とか。これはデータ化されてるんですね。」

ROOM810のオフィスの通路は、呼ばれて振り返ったときに自然と喋りやすい距離感になるように設計されています。

「だから通路としては少し通りにくいんですけど、敢えてそうしてあるんですね。無駄に会議室にいく必要がないんです。」

3Fは多目的スペース

オフィス設計はコミュニケーションデザインそのものであり、めちゃくちゃ面白いんだと語る丸山さん。

「もう一回オフィスを作ることがあっても絶対またあの幅にします。ちょっと触れたりすることも大事なんですね。少し当たって『あ、ごめんね!』なんて言うことも大事なんです。僕たちデザインの仕事はコミュニケーションが全てなので。コミュニケーションx技術が仕事で、技術があってもコミュニケーションが低いと全然能力が発揮できないんで。」

社員の家族も参加する交流イベントもオフィスで実施

オフィスの設計から会社としてのチーム力向上に繋げているなんて、素敵ですね。
考え抜かれたオフィスに、ゆるいように見えて、人の感情に細やかな配慮をする丸山さんの人への視線を感じます。

 

– 社員の細かい気遣いがあちこちに


インタビューの最後に、社長がオフィスの3階を案内してくれました。

その時社長が「これを特に見て欲しいんです」と見せてくれたのが、トイレ。

トイレそのものもオシャレなので、オシャレですねぇ、なんて感心している私に社長が示してくれたのは、トイレットパーパーホルダー。
見ると、ペーパーの先端が綺麗に三角に折られていました。

「これ、僕がやって、って頼んだわけじゃなくて、誰かが勝手にこうやってやってくれてるんです。これすごく嬉しくて。でしょ?」

トイレの紙の端が折られているオフィスのトイレって、皆さんの周りにもほとんどないのではないでしょうか?
これこそまさに「おもてなし」ですね。それも、同じ社員が、社員同士のために示す気遣い。
社長の嬉しそうな顔、社員を誇りに思う顔がとても印象的でした。

 

– ROOM810、という社名


さて、冒頭でも触れたようにROOM810、という社名、どこから取った社名なのか、少し気になりますよね。
会社名を決めるとき、どの会社名もピンとこなかったんという丸山さん。

「実はよくイベントやってたんですが、自分の名前を書くのが嫌だったんでよく『ROOM810 presents』って書いてたんですよ。それ、当時僕が住んでた部屋の番号だったんです!(笑)。」

「その後、公私共に仲良くしているラジオDJのトムセン陽子さんに『これ、ハートって読めるじゃん。しんじろうくんっぽいじゃん』と言われて『たしかに』と。それで、当時実はすごく恥ずかしかったんですけど、『ROOM810=ルームハート』と読むことにしました(笑)。」

たまたま住んでいた部屋の番号から、「ハート」という社名に繋がったというエピソードは意外でした。
しかし、「名は体を表す」という言葉があるように、丸山さんが目指す会社の形に、このネーミングはぴったりの言葉な気がします。
これも運命なのでしょうか。

デザインの枠を超えて様々に地域支援や被災地支援活動にも取り組んでいるROOM810。
会社のホームページには、そんな、チーム810とも言えるような温かい社風を感じられる様々な社員紹介、社長紹介がたくさん載っています。

遊び心満載のROOM810のホームページは必見(画像をクリックすると飛べます)

デザインとはコミュニケーション。
自らのオフィスの設計でも体現されている、人と人の関わりを生み出すための緻密なコミュニケーション設計力。

これを武器に、そして、社長の笑顔を潤滑油に、ROOM810がこれからもたくさんの人、街をつなげ、世の中に「Everyday Friday」を広めていって欲しいですね!


<会社概要>


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