2015年10月、ジョイフル三ノ輪に古くからあったおでん種屋さんの跡地に、商店街らしからぬ洒落たガラス張りのスペースが出来ました。 今までの商店街にはないスペースを「ここはなんだろう?」という風情で道行く買い物客が覗いていきます。
出来たのはゲストハウス。赤いダルマをモチーフにしたロゴがかわいいその宿の名前は「Sato-san’s Rest」。古材を活用した扉をガラガラと開けると、白塗りのアーチが特徴的な1階の土間が広がっており、2階には3つの宿泊客向けの部屋があります。
オープンしたての真新しい宿を運営する渡辺さんご夫婦にお話を伺いにいきました。
– ゲストハウスをオープンした経緯を教えてください。
(夏実さん)私は千葉の出身で、私たちはもともと保育の専門学校で出会いまいた。その後保育士を数年やったんですが、私が当時海外に憧れていたので、ワーキングホリデーで海外に行きました。海外にいる中で日本って素敵な国だな、ってのは日々思っていたんです。
ワーキングホリデーはオーストラリアとニュージーランドで、世界旅行をしたときは中東とヨーロッパ、南米、オセアニア、という順で回って帰ってきた感じです。そこでゲストハウスに泊まっていろんな国の人達と知り合ったんですけど、地元の人達とも触れ合える機会があってすごく楽しかったんです。今度は私たちが日本に帰ってきて、そういう旅のお手伝いをできたらいいな、と思って。
– なぜここでゲストハウスを?
(渡辺さん)最初は僕がゲストハウス開きたい、って言ってて。その後実家の手伝いをしなければいけなくて去年の5月に日本に帰ってきて、妻がその間に物件を探してたんです。
(夏実さん)最初彼はラオスでやりたい、って言い出したんですよ。凄く気に入ってて。でも私は日本食が大好きで、特に牛丼とうなぎが大好きで毎日でも食べたい人なので、日本でやりたい!って言い続けてて、それで、、、
– 旦那さんが折れたんですね?(笑)
(夏実さん)そうですね(笑)。
(渡辺さん)日本も好きなんで全然良いんですけど、ホテルとかそういう個室をベースとしたものではなくて、やっぱりゲストハウスを作りたかったんです。自然と「ハロー」って会話のきっかけができて、人と人の出会いを生み出せる場所を作れたらいいなと。そういう雰囲気作りをしていくのが私たちの役割かなと思っています。
(夏実さん)私がやっぱり日本で開きたい、と思ったのはニュージーランドにいた一昨年の7月ですが、その時泊まっていた宿が提供していた「Exchange House Keeper」という制度を使って本気で勉強を始めました。掃除とか雑用をする代わりにタダで泊めてもらえるというものです。最初は山の中に小さな小屋とキャンプ場と、オーガニックの料理を出して、、なんて考えてたんですけどね。
2014年の6月に帰国して、日本にあるゲストハウスを知らなかったのでまず泊まってみたいなと思って探していたら、入谷にあるTocoというゲストハウスが見つかりました。そこで1ヶ月ほどヘルパーとして働かせていただく間に、この辺りを全然知らなかったので自転車を借りてぐるぐる回っていたんです。その時に突然ジョイフルの中に迷いこんで「なんだここは~」って。まるで映画のセットの中に迷い込んでしまったような雰囲気で驚きました。
ここは素晴らしい雰囲気だなーと思っていたら、数日後に不動産屋からここの大屋さんを紹介してもらって、良い建築士さんも紹介してもらって、という感じで一気に歯車が回りだしたんです。 古い建物を改築してゲストハウスをオープンする、という形のものはどうやら荒川区では第1号だったようです。
– オープンまで大変だったようですね?
(夏実さん)ニュージーランドでゲストハウスの夢を持ったのが7月だったので、その2年後の7月にオープンしたいと最初は思っていました。笹を買ってきて色々願い事を書いたりもしていたんですけど、そう上手くいかず、、ですね(笑)。
許認可を得るのも時間がかかりましたし、最初は改装中の建築表示も簡易宿所と書くしかなかったので、地元の方のご理解をいただくためにも何回か説明会をさせていただきました。でも、そういうプロセスがあったおかげか応援していただける方も増えましたし、地元の方とコミュニケーションもそれなりに出来たので、逆に良かったのかな、って今では思ってます。
(渡辺さん)最初は『何ができるんだ?』という不安な反応もありました。出来上がってきたものを見たら、『あ、こういうものが出来るのね』と思っていただいたり褒めていただいたりもして嬉しかったですね。
– ゲストハウスの特徴を教えてもらえますか?
(夏実さん)台湾で発行されている旅行ガイドブックにジョイフル三ノ輪のことが掲載されているらしく、ここの商店街には台湾の方なんかもよく来るんです。
商店街の中にあるので、日本の普段使いの下町の生活を垣間見ることができて、その中でご飯を食べたり観光向けではない日本の文化を肌で体験できる、そういうことをお手伝いをしていければ、と思ってます。
海外からの旅行者の方に日本の文化に触れてもらいたいというのが大本のコンセプトですが、その海外から来た方が日本で日本人と交流ができる、というのが楽しいと思ってますし、日本人の方も海外から来た人とお話ができたり友達が出来るのは貴重な体験になると思うので、ぜひ日本人の方にも泊まっていただきたいし、私たちもそこはお手伝いしていきたいです。
– 1階のスペースが広いですね
(夏実さん)まだどう使っていくかを考えているところです。可能性がありすぎて、、。共有スペースばかり広くってもう一部屋ぐらい増やせたんじゃないの?とかゲストハウスを良く知る知り合いに言われてます(笑)。でも私はゴミゴミしたのが嫌だったので、2階は寝室として使ってもらって、下はみんなでくつろぎましょう、ということで切り分けました。
お昼の時間にお掃除が終わってからチェックインの時間まで空いている時間もあるので、ちょっとしたワークショップをやりたいとか、外からガラス張りで中が見えるので、壁をギャラリーの掲示板にように使っていただくとか、どういう風にしていくべきかを考えてます。
(渡辺さん)駄菓子を置いておくのもいいなぁとか。海外のお客さんに日本の駄菓子を知ってもらうのも面白いかなと。駄菓子と缶ジュースとか缶詰、カップラーメンなんかも。
– 苦労した点を教えてください
(夏実さん)ここにお店をオープンすると決めたとき、誰もが「え、ここをやるの?」って聞かれるような感じでした(笑)。もともとあった神崎屋さんのおでんの竈とか冷蔵庫とかも全部自分たちでハンマーで壊したり天井を抜いたり、、自分の人生でそんな本気でハンマーを振るうことなんか無いじゃないですか(笑)
そうやってるうちに屋根裏から凄く素敵な梁が出てきて「これは絶対ここに残しておきたいです」って建築士さんに言って、補強を入れて残せるようにしてもらいました。
壊しているときに柱に書かれた昔の落書きとかおもちゃのシールとかが出てきて、何となく柱から寂しい雰囲気を感じてしまったんです。沢山お客さんに来てもらうことで、また楽しい時間がここに流れるといいな、って思ってます。
– 空間デザインのこだわりのポイントは?
(渡辺さん)真っ白で洋っぽいんですけど、和を取り入れてるところですね。扉も古材屋さんから一点モノでもらったものです。内装は全部自分たちでやったんです。知り合いも沢山手伝ってくれました。石膏ボードの継ぎ目をパテ埋めして、、
(夏実さん)椅子や襖は、近くのそろばん塾さんから譲り受けたもので、とても気に入ってます。全体として建築士の方にすごくこだわっていただいて、最初に持ってきていただいた完成予想図と全く同じなんです。特にアーチの部分と和の建具についてはこだわった部分ですね。昭和の雰囲気は残しつつ新しい何かが始まる、という雰囲気のゲストハウスにしたかったんです。
– 入口は縁側みたいな雰囲気ですよね
(夏実さん)そうなんです!室内縁側に座っていただいて、お茶を飲んでいただいたり、、夏はスイカを食べて、、とか。風鈴とかも付けちゃおうかな(笑)
– 荒川区の方に向けたメッセージはありますか?
(夏実さん)親戚の方が来られたんですけど泊めるところがないから一泊お願い、って言われたことがあるんです。私たちは全然想像していなかったニーズでした。
海外からお友達が来たり親戚が遊びに来たり、というときに、お家に泊めてあげられなくて困ってる。浅草辺りのホテルも全部予約で埋まっているし、、なんてことがあるのかなと思ってます。ここであれば、自分たちの家から近いし、寝るだけだし、、というような時にぜひご相談いただけたらな、と思います。
(渡辺さん)この共有スペースをワークショップなどにぜひ使っていただきたいです。全面ガラス張りなので何かやってると外の方から注目を浴びてしまうと思うんですけど、それを逆に宣伝に活かしていただきたいですね。
(夏実さん)良く外から覗いていかれる方はいらっしゃるんですが、1階は共有スペースですし、ぜひお気軽にお声がけいただきたいです。よろしくお願いします。
<店舗情報>
店名:SATO SAN’S Rest
住所:東京都荒川区南千住1-21-2
電話番号:03-5604-9957
ホームページ:http://satosansrest.wix.com/satosansrest