6月下旬のある日曜日。
明け方からの大雨が昼前には嘘のように晴れ間が広がり、夏の光線でじめっと湿気が立ち込める中、南千住の白髭西R&Dセンターに、10名弱の子どもと大人が集まりました。
集まったのは、東日暮里にある路地裏ガレージ「東京ガレージ」のメンバー。
これから、東京ガレージのシンボルとなる「のれん」を自分たちで製作します。
舞台となったのは、創業80年、荒川区指定無形文化財にも指定されている片山染工所。
1枚1枚、手作業で染めるのれん作りを続けてきました。
東京ガレージは、長年幼児教育や思春期カウンセリングに携わってきたよしおかゆうみさんが、子どもたちの心に、将来挫けそうになったときにエネルギーになるような「原風景」を残したい、という思いから立ち上げた活動。
魅力的な生き様を持った大人との出会いや、ホンモノの技術・文化との触れ合いを通じて、失敗や体験を味わい、自分が主体となる生きた体験をする。そんな場づくりを続けています。
そのシンボルとなっているのが路地裏のツリーハウス。
大工さんと子どもたちが、一緒になって作り上げたものです。
作り上げていくプロセス自体がホンモノの体験であり、その後も、子どもたちが自主的に管理運営する「基地」としてたくさんの子どもたちの遊び場になっています。
(参考)本物の大工さんと一緒に作った本格ツリーハウス!東日暮里に出来た新しいみんなの基地においで。
2019年、東京ガレージは新プロジェクト「よるのがっこう」の開始を発表。
夜型の子どもたち、学校が物足りないと感じている子どもたちなどを対象に、「10代がホンモノと出会い未来の文化を生み出す場」として荒川区の伝統工芸の若手職人とタッグを組んで、モノづくり体験の学校を始めるという構想は、荒川区ビジネスプランコンテストにおいて「城北信用金庫賞」、大阪CSOアワード2019にて 「先取り部門 グランプリ」をそれぞれ受賞しました。
コロナウイルスの影響で学校自体はしばらく中止となりましたが、開校に向けた準備は着々と進行中。
今日作るのれんは、東京ガレージやよるのがっこうのシンボルとして、今後の活動の際に軒先に掲げられます。
指導するのは親方の片山昭さん、三代目の片山琢満さん。
伝統工芸の職人さん、ということで緊張するかと思いきや、脱力感満載の軽妙な掛け合いで場の空気を和ませてくれます。
のれんは、前日にデザインと、準備工程であるのり付けを完了。
工房の天井で乾燥させています。
のれんは大きいので、こういう屋内の乾燥スペースが必要なんですね。
冬場はすぐに乾いてしまうらしいですが、夏場は湿気が高く、なかなか乾かないのだとか。
「もういいんじゃない?」「いやまだだよ」「そんなことないって」「そう?じゃ、やってみるか」
親方と三代目が言い合う様子がおかしく、みな笑いがこぼれます。
のれんを天井から下ろし、のりがしっかり乾いているか、割れ目などがないか、明かりなどもあててしっかりチェックします。
のりが薄いと染料が隙間から染みてしまうため、薄い部分は手作業でのりを埋めていきます。
のれん染めは、一期一会。チャンスは一回きり。
一度染まってしまうと抜けないので、失敗は許されないのです。
のりを確認し終わると、染め作業に入りますが、まずは染料作り。染料とのりをミキサーで混ぜて作ります。
塗りやすさと適度な粘りを両立させる必要があり、その配合はその日の天候などによっても変わってきます。
今日ののれんは大きいので染料も大量に必要。ひたすらミキサーを回し続けます。
いよいよ染めていきます。
トップバッターは子どもたち。親方の指導を受けながら、はけを握り、染料をつけ、思い切って布に染料を広げていきます。
最初こそ緊張が伝わってきましたが、コツをつかむと大胆に。見るからに塗りも上手になっていくのがわかります。
大人に交代。大きなのれんを、手分けしてどんどん塗っていきます。
ただの白い布でも綺麗に見えましたが、色を塗ると深い紺が醸し出す艶が全く違います。
軒先にこののれんがかかったとき、これをみんなで作った思い出が浮かぶなんて最高だなあ。
塗り終わったあと、片山さんたちが綺麗に仕上げてくれました。
やっぱり、職人が塗ると、全くムラがありません。みな、見惚れてしまいました。
自分たちでも塗ったからこそ、そこにホンモノの技術があることを、大人も子どもも、感じられる。これが東京ガレージなんですね。
その後、よしおかさんから、月の色も入った、完成間近の様子が送られてきました。
東日暮里の路地裏に、こののれんがかかる日ももう直ぐ。
お披露目の日が楽しみです。
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