三葉堂寫眞機店。
みつばどうしゃしんきてん、と読む。
戦前から続く、古いカメラ屋さんだ。
そんな出だしが似合いそうなこのお店。
実は、2016年にオープンしたばかりの、若い3人のカメラ好き・メカ好き男子が集まって出来た、カメラ業界としてはかなり出来たてホヤホヤのお店である。
日暮里繊維街の表通りから一本裏に入った辺りの一角に地味に濃いめの焦げ茶色の看板を出すこのお店は、その店名が与えるイメージと同様に、まるでここで何十年も営んできたかのように、しっくりと街の光景の中に収まってしまっている。
お店は11時に開く。
シャッターがあくとガラス張りなので、その気になれば中はよく見える。
今では量販店以外でカメラ屋を見ることも少なくなったが、このお店ではカメラ機、それもかなりレトロなカメラ機がずらりと陳列されている。
昭和世代の人間はその光景が当たり前だとふと錯覚してしまいそうだが、こちらのお店には一つの特徴がある。
それは、並んでいるカメラは全て、「フィルムカメラ」である、ということ。
カメラ市場があっという間にデジタルカメラに侵食されてもう10年以上が経つ。
デジタルカメラすら高級機を除けば絶滅寸前となり、スマホで気軽に写真を撮ることが当たり前になった。
今ではフィルムカメラの使い方すら忘れされかけている。そんな時代に、フィルムカメラのお店。
店主の稲田さん、広報担当の松田さん、修理師の佐藤さんの3人に、お店の話しを聞いてきました。
ツイッターでつながった3人が意気投合してお店をオープン
「もともとは私と松田が写真仲間で、よく色々な場所を一緒に撮りに行っていたのが始まりです。最初はツイッターでつながったのがきっかけでした。」(稲田さん)
佐藤さんも含め、最初の接点は3人ともツイッターつながりだったとのこと。
「ツイッター上でしか最初は会ったことが無かったので、カメラをたくさん持っていて修理もやっている謎の人、という感じでした(笑)」(松田さん)
初めて実際に出会ったのは共通の友人を介してのある撮影イベント。お互いに「あ、繋がってる方ですね、始めまして」から始まったそうです。
稲田さんと松田さんがお店を持ちたいね、という話しで盛り上がったころ、同じくツイッターでつながっていた修理士の佐藤さんも独立を考えていると聞き、3人でお店を開くことになったのだとか。
店長の稲田さんはもとはワインの卸売りの営業マン。その後26歳で写真学校に通い、卒業と同時に三葉堂寫眞機店を開店しました。幼少の頃からカメラが身近にあったと言います。
「画家でもあった叔父がカメラとか機械が好きな人だったんですが、考古学などもやっていたのでかなりその頃では珍しかった本格的なプロ向けビデオカメラなども持っていました。その影響で自分も小さいころからおもちゃカメラで写真を撮っていて、小学生の頃の作文にもカメラマンになるという夢を書いてました」(稲田さん)
朴訥とした佇まいながら、お店の奥にある修理場の一角で黙々とカメラの修理を手がけるのが修理師の佐藤さん。
修理士として10年以上の経験を持つベテランであり、もとはプロのカメラマンでもありました。
「自分がプロカメラマンをやっていた時代はまだフィルムカメラの時代だったんですが、そのときの師匠が、機材を扱うのなら自分で修理できないとダメだよ、という方でした。なので、自分でカメラを修理するようにしていたら段々そっちのほうが面白くなってきて修理師になっていた、という感じです。小さいころからカメラは持っていましたが、カメラだ、という認識はあまり無かったですね。自分にとってはおもちゃのような感覚でした。」(佐藤さん)
実は、趣味である車についてもサーキットでレーサーとして出場するほどの腕前を持たれている佐藤さん。
メカニックなものがとにかく好きだそうです。何日もかかる修理も黙々とこなしていく佐藤さん、三葉堂のバックボーンを支える頼れるメカニック、という感じです。
広報担当の松田さんは店のムードメーカー。
「僕はわりとカメラが好きになったのは最近で、高校生になったぐらいからです。大学に入ってから彼(稲田さん)と知り合って大きな影響を受けました。もともと僕はデジタルカメラを使ってたんですけど、あるときおばあちゃんの家に行ったらフィルムカメラが置いてあったんです。それをおばあちゃんにもらったんですが、使ってみたら意外に楽しくて。その頃ちょうどフィルムカメラで写真を撮っていた彼(稲田さん)と知り合ったんで、一緒に写真を撮りにいってる間に逆にデジカメがホコリをかぶるようになりまして。。」
広報担当としてSNSの発信やイベントの開催などを担当している松田さん。
おばあちゃんの家でフィルムカメラに出会ったのは運命だったのかもしれませんね。
3人寄って三葉堂(みつばどう)。
「フィルムカメラを始めたいと思っている若い人が増えているにもかかわらず、買えるお店が分からない、相談する場所がないということをよく耳にしていました。それなら自分たちのお店でフィルムカメラを始めてくれる人を増やしていこうと思ったのが最初の思いです。」(松田さん)
壁やカウンターは自分達で手作りしたもの。
お店でカメラを買ったお客さんが、初めて撮った写真を見せにまた遊びにきれくれた時にお店をやって良かったと感じたと言います。
三葉堂寫眞機店、という、大正・昭和な雰囲気を感じるレトロな店名は、店長の稲田さんが考案されたとのこと。
「まだ若輩者の我々ですが、それぞれが培ってきた力を合わせて、フィルムカメラという一つの文化の保存と啓蒙に貢献していきたい思いと名付けました。店名を考えるときにはカメラ関係のキーワードなど、三人でかなり考えましたがどれもしっくり来ず、新宿のマクドナルドで唸っていたときに最終的に彼が出してきた案で決まりました。」(松田)
ゴロも良く、いったん覚えると忘れにくい名前ですよね。
お店の中には、ミステリー作家の柊サナカさんによる小説「谷中レトロカメラ店の謎日和」が設置されていました。まさかこちらのお店がモチーフだとか?
「実は全くの偶然なんです(笑)。小説は、谷中に代々続く古いカメラ屋があるというプロットの小説なんですけど、完全なフィクションです。小説の中では、3代目の若い主人公が、特に年代物のカメラの修理などを一人をやっている中で様々な謎が発生する、という設定なんですが、僕らはたまたま日暮里でお店をオープンしたんです。そしたら柊さんがそれを知ってちょこちょこ遊びに来て下さるようにもなりました。」
お店には柊さんが三葉堂のために書き下ろしてくれたという谷中レトロカメラ店の三葉堂編まで。
お話の中に、ちゃんとお店の人が登場するんです。三葉堂に行く機会があったらぜひ見てみてくださいね。
デジタル時代に、敢えてフィルムカメラを推す
デジカメでも高画質な写真が撮影できるようになった今、それでも尚フィルムカメラに残された良さとは何なんでしょう。
「おのおの少し違うかなと思うんですけど、私は化学変化という自然現象を利用しているということが好きです。光を浴びてそれがフィルム上に焼き付いて、物質として変化して残されていくわけですよね。そういう自然の原理の凄さに面白さを感じたりもします。あと、単純に電池をつかわなくても動くっていう。電池っていう概念がない時代からあるんですよね。うちで販売しているフィルムカメラも半分ぐらいは電池が不要なカメラです。ギアとバネをつかったシャッターだけで動いたりしています。今の時代と逆行しているかもしれないですが、電池がなくても何でも出来るんだっていう、そういうアナログなところにすごく惹かれたりします。」(稲田さん)
スマホにしても何にしても、全てのモバイル機器が電池に依存している今のエレクトロニクス時代。電池が切れると何もできない、、、そんな煩わしさを感じたこと、ありますよね?
フィルムがあってシャッターを切って、という基本的なカメラの機構だけであれば電池が要らず、充電の束縛から解放されていたという事実。これは再発見でした。
「僕はプリントした写真を上げるっていうのが好きで、自分がもらうのも好きだし、人にあげるのも好きなんですね。これがデジカメだと撮影してもプリントしないという選択肢がありますが、フィルムカメラだとプリントするということと一式です。撮った写真をすぐに確認することが出来ないことや、現像にも時間がかかりますが、逆に手間暇かけて何かを作る楽しさを教えてくれます。アルバムにまとめたものを見返したりするのも好きですね。そういうところがいいなとも思います。デジカメで撮った写真が一瞬でハードディスクごと消えたこともあって。。」(松田さん)
「私は写真というよりカメラが好きなんですよね。機械としてのカメラに魅力を感じます。カメラは精密機器というイメージもありますけど、昔のカメラなんかは本当に簡素な機構で、シャッタースピードの調整とかもギアがなくてバネだけだったりして、それを直すのが面白いですね。バネも新品に変えることができればいいのですが、もう新品が無いので他の中古品から取って直すようなこともあります。」(佐藤さん)
シンプルでアナログな仕組みでありながら、味わいある写真を紡ぎ出す。
そんなフィルムカメラの奥深い世界にみなさん惹かれたんですね。
フィルムカメラの修理や、プロ用プリント器材の貸し出しも
「お店ではフィルムカメラの修理・販売・買取、写真ギャラリー、プリンターレンタルなどを行っています。デジカメの修理などはうちでは受けていませんが、カメラのメカニカルな修理のみを基本的には承っています。本当に精密な精度が要求されるシャッター速度の調整やレンズの研磨などは専門の業者に取り次ぐことはできます。」
ギャラリーは金土日の三日間だと3万円。木〜火の6日間の場合は5万円。基本的には写真のギャラリーとしての利用で貸し出しています。
フィルムカメラのお客さんが大半ですが、デジカメ写真だからダメ、ということは無いとのこと。
「プリンターのレンタルは、パソコンとプロ用のプリンター・スキャナーを時間貸しするサービスで、15分1000円で貸しています。紙などはお客さんに持ち込んでいただき、器材とインクを提供するサービスとなります。」
このサービスは、写真学校に通っていた時代に自分で調整した写真をA3などでプリントする場所が無くて困ったことから店長の稲田さんが思いついたサービス。
通常家庭で購入・維持するのが困難な大型・高品質・高価なプロ用プリンターを時間貸しで借りれることから、専門学校生などが課題のプリントアウトなどに使うケースが多いそうです。
フィルムカメラの買い取り、お気軽にお問い合わせください
不要になった家庭のフィルムカメラ。タンスに眠っていませんか?
三葉堂では積極的にカメラの買い取り/引き取りを行っています。
「カメラの買い取りは、その場でカメラの状態なども見た上での価格判断になります。カメラの状態を良く保つには、できるだけ通気性のよいところにおいていただき、たまにシャッターを切ったりしてカメラを動かしたりするのも、中の空気が循環することにつながるので良いです。湿気とカビがカメラにとって最大の敵なので、しっかりと革のケースなどにくるんでタンスにしまい込む、といったようなことが一番良くないです。」
たまに空シャッター(フィルム無しの状態でシャッターを切ること)も、カメラ内部の空気を循環させることになるので良いそうですよ。
お店では定期的にフィルムカメラを使ってみたい人へのワークショップやカメラのクリーニングに関するイベントを開催したりしているので、興味のある方はぜひお店を訪問してみるか、ホームページも覗いてみてください。
「写真が好きなんです!」という気持ちのあふれる三人が気さくに対応してくれるはずです。
<店舗情報>
- 店名:三葉堂寫眞機店(みつばどうしゃしんきてん)
- 住所:荒川区東日暮里5-32-6
- 電話:03-6884-4943
- HP:https://www.mitsubado.com/
- Twitter & Instagram:@mitsubadocamera
- 営業時間:11:00〜19:00
- 定休日:水曜、木曜
- 主なサービス:フィルムカメラの販売、買取、修理、ギャラリーレンタル、プリンター等器材のレンタル
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