「ぼく、天邪鬼なんですよ(笑)。人とオンナジことをやるのがいやで(笑)。」
そう語るのは、ピストバイク専門店のTokyo Hippies Martの店長、細野さん。生まれも育ちも荒川区は東日暮里の細野さん。もともとスリッパの卸し業を営んでいた実家の倉庫をリノベーションし、現在のお店になりました。むき出しの倉庫の天井と壁は白いペンキで塗られ、もともとダンボールの荷物の昇降に使っていたという昇降機は無骨な装いをそのままに今は自転車のフレームや小物を飾るオシャレな商品棚となっています。
なんといってもお店を特徴付けるのが、店に入ってすぐ正面に見える、細野さんの事務所。店内に飛び出した骨組みとカウンターだけでむき出しのそこは、さながら子供のころ夢みた秘密基地の司令室、といった風情で、ドアも窓もないのにしっかりと細野さんの仕事場を主張しています。
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そもそも、店名が書かれた目立たない看板が置かれた道路から長いアプローチを経て、これまたその先にお店があるとは目的があって入ってこない限りまず分かることもないであろう2階にあがる階段も含め、全てがまるで人目から隠れるように佇むこのお店は、それ全体が遊び心満載の秘密基地ともいえます。
入口は看板がなければわかりません
2階がお店
ピストバイクとは単速ギヤかつ固定ギアタイプの自転車のことです。競輪などトラックレースで使われてきたもので、ギヤの空回りがありません。つまりペダルを漕いだ分だけ走りますし、ペダルを止めれば止まります。後ろに漕げば後ろに進みます。
「え、そんな自転車怖くて乗れない〜((((;゚Д゚))))」
と思ったあなた。実際その通りでちょっと慣れが必要です。Tokyo Hippies Martは、そんなちょっと一風変わった自転車を専門に扱うお店なのです。
入り口すぐに下げられているのは世界でも有名な日本人フレームビルダーが作るYamaguchi。アメリカナショナルチームに供給されるこのフレームはマニア垂涎の一品なんだとか。お値段は◯◯万円、、、。
・正直いって不便な乗り物なんです(笑)
– ピストバイクの魅力は何ですか?
ピストバイクで使われている固定ギヤは普通のギヤとちがってフリーにならないので、漕ぎ続けていないといけないから疲れるし、正直いって不便な乗り物なんです。だけど、トゥクリップに足を入れたり、ギヤもシンプルな構造だからこそ体に伝わってくるものが全然違うんです。例えばチェーンがちょっと汚れたらすぐに分かるんです。チェーン綺麗にしただけですごくスムーズになるし、ダイレクトに感じるんですよ。慣れてくるとホントに体の一部になったような感覚になります。
トゥクリップに入れた足を少し上に上げるような感じにして徐々にゆっくり上に加えていくことで車でいうエンジンブレーキのような感覚で自転車を止めたり、「スキット」と呼ばれる無理やり止めてタイヤのリヤホイールを滑らせて角の部分を路面に当てるような止め方もあります。そういうのを覚えだすとほんとに体の一部になってきます。不便は不便なんですが(笑)。
実は僕は昔はスノーボードの選手をやっていたこともあるんですが、スノーボードやスケートボードもブレーキとかがついていなくて自分のエッジングでスピードコントロールします。ピストバイクはその感覚にすごく似ているんです。アドレナリンが出るようなスポーツが好きなんですよね(笑)。
もっとも今は自転車はブレーキを付けなければ捕まってしまいますのでピストバイクもブレーキは付いています。
・震災がきっかけで日暮里でお店を開くことを決心。
– お店を持ちたいという気持ちはいつごろから?
昔は日暮里はちっちゃい雑貨屋さんがいっぱいあったんですよ。だから小さい頃から何かお店をやりたいなぁ、ってのはずっとあったんです。今はもう一軒もなくなっちゃいましたけど、小学校の頃なんかはよく近所のお店に行ってました。自分がどういう店をするか、っていうのは最近まで分からなかったですが(笑)。
– ピストバイクのお店ってあまり無いですよね?
ここのお店をやる前に実は渋谷で先輩とピストバイクのお店を経営してたんです。ですけど段々とピストバイクブームが去ってお店を続けるのが難しくなり始めたころに、東北の震災が起きました。その時ちょうど家族が渋谷に遊びに来ていたんですが、1時間ぐらい全く家族と連絡が取れず、心配で何も手がつかない状況に陥ったんです。
当時は渋谷でかっこいい路面店をやりたいという気持ちだったんですけど、そういう状況に陥ったときにふと、また同じような危機が発生したときに家族の側にいれなかったら自分は絶対に後悔するなと思いました。もともといつかは日暮里でストリートカルチャーを紹介するようなお店を作って、小さな子たちにそういうものに触れてもらって、何か新しい文化が日暮里発で生まれてくる。そんなことをやりたいな、って思ってたんです。だから日暮里でお店を開こう、と、その時決めました。
最初はどこかに場所を借りてお店を開こう、って思ってたんですけど、母親がポロッと「あそこを綺麗にしてやっちゃえばいいじゃない」と、もう10年近く使われていなかった自宅の倉庫のことを言ったんです。それで、DIYが得意な父親に手伝ってもらって改装を進めました。
このお店は棚も全て父親が作ってくれたんです。僕が雑な設計図を書いて。だから未だにお店の内装工事は進行中で終わってないんですよ(笑)。
店内に飾られている絵は全て細野さんが自分で描いたもの。スノーボードを辞めてから本格的に描き始めたという絵は完全な独学。
・ルーツはスノーボード
– なぜスノーボードをやめたのですか?
僕はバックカントリースノーボードといって整備されていない自然の新雪の滑る世界が好きなんです。でも僕がやっていたころは今ほどバックカントリーが認知されていなかったので、スノーボーダーとして有名になるには大会を回るしかなかったんです。だけどそうしてると嫌でも試合に出なければいけなかったり、自分が好きなスノーボードと段々ずれてきちゃったんです。
店内にはスノーボードもいくつか置いてあります。
それで段々嫌になってしまって、最後はスポンサー契約を全部切ってアメリカに行って好きなだけ滑ってやめにしました。それだけでなく、最後の2年ほどは、体が怪我でボロボロになっていて思うように滑れなくなっていたというのもありました。スノーボードは飛ぶ高さや距離も凄いのでそうなりがちですが。
その後10年ほど全くスノーボードをしていませんでしたが、このお店を始める前のシーズンに久しぶりにスノーボードに行ったら、やっぱり最高だな〜って改めて思ったんです(笑)。今はスポンサーもないので、最高に楽しいです(笑)。お店が毎週月曜日休みなんですが、そのたびに山に入ってます。
– これからはどんなお店に?
今後も変わらずピストバイク専門店としてやっていこうと思っているんですが、今は日本の競輪フレームや高級な自転車しか無いので、少し値段を抑えた若い子たちに向けた商品も増やしていければと思ってます。カルチャーは若い人がいないと育っていかないものなので、そういう人たちもちょっと来やすいお店にしたいなと思ってます。
アメリカでDVDが発売されるとともに世界中にピストバイクの大ブームを巻き起こしたMASH。
MASH SF DVD INTRO 2007 from MASH TRANSIT PRODUCTIONS on Vimeo.
それに専門的にやるつもりはないですがスケートボードももう少し置いたり、このお店で育ったプロスノーボーダーが出るとか、ピストバイクの全国的に有名なライダーが育ってくれたりしたらいいなぁ、って思ってます。自分も昔はスポンサーにお世話になったので、今度は僕が若い子たちに何かやってあげられたら良いなって思ってます。
お店主催で渋谷辺りまでグループライドをやったりスノーボードツアーしたりとか、全体的に言えることなんですけど、売って終わりにしたくないんです。売って、その後も一緒に楽しみ方を教えてあげられるようなお店にしたいんです。ただモノを売るだけだったらインターネットショップでいいんだと思うんです。僕は実はさみしがりやで、やっぱりお客さんが来てくれると嬉しいんですよ。
自分もよくスノーボードのお店に入り浸っていたんですけど、スノーボードの話しだけじゃなくて恋愛の相談したりとか、自分がそういうお店で育ってきたせいか、ああいう人が集まれるようなお店にしていきたいなぁっていうのはありますね。
お店に来るお客さんに少しでもハッピーになってもらえたら、と言う細野さん。これを読んだ読者の方も、ぜひ、「ピストバイクってなんなんだろう?」というぐらいの気楽な気持ちで、細野さんの秘密基地を覗いてみてください。きっと喜んで教えてくれますよ。
<店舗情報>
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