おもちゃ図書館、を知っていますか?
子どもたちが無料でおもちゃで遊んだり、気に入ったおもちゃがあれば家に持って帰ったりできる場所で、スウェーデンを起源としてイギリスで大きく発展。今では世界中で運営されている施設です。
日本では1981年におもちゃコンサルタントの小林るつ子氏が主婦ボランティアとともに三鷹で立ち上げたものが最初のおもちゃ図書館と言われており、現在では400ヶ所余りのおもちゃ図書館が運営されています。荒川区には6カ所あります。
それら全国に散らばるおもちゃ図書館の連絡局でありサポート組織として組織された「おもちゃ図書館全国連絡会」が、実は荒川区にあることは荒川区民でも知っている人は少ないかもしれません。
その場所は東日暮里2丁目。1983年に発足し、2019年4月に認定NPO法人として認定を受けました。
2020年11月時点で373のおもちゃ図書館が会員として加盟しており、おもちゃ図書館を始めたい、と名乗りをあげたかたに立ち上げるための資料やおもちゃを届けたり、その後も様々な形で継続的に運営できるためのサポートや、おもちゃを提供する企業スポンサーの募集などを行っています。
当初は六本木にモデルルームを保有していましたが、その後、駒形や新宿を経て、荒川区に移ってきました。
いまの理事長の鈴木訪子さんは理事長としては2代目になります。
「小林るつ子さんが三鷹に立ち上げた最初のおもちゃ図書館はボランティアセンターの畳の部屋でしたが、全国からいろんな方が見学に来ました。小林さんはおもちゃコンサルタントだったので色々なメーカーからおもちゃを提供していただけるつながりもあり、やりたいという人がいるとその人のもとにおもちゃがドンと届くという状況でした。受け取ったほうも届いたからにはやらなきゃ、という感じだったんですね(笑)。そんな感じで、全国にどんどんとおもちゃ図書館が増えました。80年代のことです。」
大きな契機となったのが1981年の国際障害者年。
これを機に全国の行政でも障害者の問題を取り上げるようになり、荒川区にも障害者福祉課ができました。
「それまでは障害があれば大きな山奥にあるコロニーと言われる施設などに預けるという時代もありました。その後、北欧でノーマライゼーションという言葉が誕生し、障害があっても地域の中で普通の生活ができて当たり前ではないかという考え方に変わっていったんです。」
国際障害者年に合わせておもちゃ図書館の活動もメディアに取り上げられ、全国各地の社会福祉協議会の支えもあって大きく広がっていきます。
また、バンダイの創始者である山科直治さんが私財を投げ打っておもちゃ図書館を応援する財団を創設。
そういった支援者の輪が全国の活動を支えました。
「荒川区にはもともと『荒川のぞみの会』という障害を持つ子どもの親の会があったのですが、35年前におもちゃ図書館の活動を開始したんです。昭和61年に社会福祉協議会の運営になりました。もともと親の会だったときは週2回の活動でしたが、その後は毎日開館できるようになりました。」
もともとは主婦のボランティア活動として運営されるおもちゃ図書館が主流でしたが、最近は地元不動産屋や特養施設で実施する例が出るなど、様々な担い手が出ています。ですが、いずれも無料で子どもにおもちゃで遊んでもらい、気に入ってもらえればそれを貸し出す、というのが基本的な活動内容となっています。
「世界的には、障害をもつ子どもの心身の発達を促す教育として専門家が”プレイセラピー”をおこなうスタイルと、ボランティアがたくさんのおもちゃを子どもたちに提供し、訓練や教育を目的ではなく、好きなおもちゃで自由に”遊ぶ”ことそのものを目的としているものです。全国連絡会のスタイルは後者です。」
障害のある子どもがなかなかおもちゃで遊べない、と悩む親が子どもたちにどうやったら楽しくゆっくり遊んでもらえるだろうか、というところからスタートしたおもちゃ図書館ですが、住み慣れた地域で暮らし続けられるように、障害のある子もない子もともに遊び交流する場として変わってきたところも多くなってきたそうです。
「障害のある子どもの兄弟心理も重要なテーマなんです。親は必死になって障害のある子どもを育てますので、その分、いつもトレーニング施設に連れていかれたりして、兄弟姉妹は置いてけぼりになりやすいです。おもちゃ図書館に来れば、ボランティアさんが障害のある子どもの面倒を見て、その間に親が兄弟姉妹の面倒を見てあげられるなど役割分担ができる。そういう機能も提供してきました。」
実は、この活動は障害をもつ子どもの親たち自らがその担い手となることによって、親側の意識変化も生み出してきたと言います。
「障害をもつ子どもの親はボランティアやサービスを受ける側で「すいません」と言う立場であることが多いです。おもちゃ図書館では我が子と、我が子と同じような子どもたちの居場所を自分自ら作り、サービスを提供する側に回ることができました。我が子が遊べる場所を作るだけでなく、自分たち自身も周りに気兼ねすることなく、ゆっくりと寛ぐことができる。自らの場作りでもあったんです。」
鈴木さんは、この活動をしながら気づいたことがあるのだそうです。
「人は人と話をすることで自分の気持ちが落ち着くだけじゃなく、新しいものを作り出す意欲も生まれるものなんですね。ホッとすることで、何かやりたくなる。一人で悶々といると不安ばかり増していきますが、人と話していると、その中でも出来ることをやろうと思えるものなんですよね。」
おもちゃ図書館で集まった親たちがまた新しいものを作っていく。
連絡会の活動を通じてそういう場面を何度も目撃してきたのだという鈴木さんの言葉はとても力強いものでした。
実は、例年はビッグサイトで開催される「東京おもちゃショー」に全国連絡会も出展しており、そこで全国のおもちゃ会社から寄贈される展示品のおもちゃが大きな活動資産となっていました。
しかし2020年はコロナウイルス でショーは中止。そこでそれらの企業におもちゃ寄贈の依頼を送ったところ、多くの企業から大量のおもちゃが届き、連絡会の事務所に溢れかえっていました。
「毎日せっせとそれらを全国のおもちゃ図書館に発送しています。本当にありがたいことです。」
全国連絡会は日本のおもちゃ図書館の活動を支えてきただけでなく、世界大会にも参加しており、さまざまな世界の潮流を日本に紹介する役割を担ってきました。
「私たちはここで全国のおもちゃ図書館と繋がりながら色々な情報を得ていますので、おもちゃ図書館を始めたい、手伝いたい、という方がいれば是非相談していただければと思います。」
子どもたちへの思いが詰まった事務所はとても明るい雰囲気でしたよ。
興味をもった方はぜひ訪ねてみてください。
<企業情報>
- 名称:おもちゃ図書館全国連絡会
- 住所:東京都荒川区東日暮里2丁目25−111
- 電話:03-6807-8813
- HP:http://www.toylib-jpn.org/