10月らしい爽やかな秋晴れの空のもと、東日暮里の路地裏の一画に、子どもと大人の熱気が集結していました。
受付の向こうには大きな駐車場。その屋根の下に大工道具や木材が並べられ、大工さんが説明をしています。
そこで行われていたのは、「asobi基地」さんが企画した「ツリーハウス作り」の体験イベント。
これから、駐車場に生えている大きな木を舞台に、日本建築の大工さんが子どもたちと一緒に本格的なツリーハウスを作ろうというのです。
– 本物への期待に子どもたちも真剣
イベントを主催するのはasobi基地の創業メンバーの1人であり顧問のよしおかさん。
20年以上東京都の幼児教育や思春期カウンセラーなどの仕事に携わった経験をベースに、今は学校の家庭教育学級の講師や大学等の教育関連講師、また思春期のアスリートのメンタルサポートなどの様々な仕事に携わりつつ、自宅を開放してコミュニティ作りをテーマに活動されています。
(吉岡さん)「asobi基地とは、大人も子どもも一緒に学び合う場です。未来を担う子どもの視点になって大人も何かを考えたり実行することが、みんなにとって楽しく住みやすい社会につながっていくんではないか、という考えで、多様な大人の方と一緒にそういう社会を作っていこうとしている任意団体です。
「普段はいろいろな形態でイベントをしていて、公園やカフェなんかでやる場合もあります。特にいつ何をやらなければいけないというものはないのですが、保育士や小学校の先生、お医者さん、あるいはパパママ達の方など、キャストの方が大勢いらっしゃって、それぞれの方がasobi基地のスピリッツを取り入れた様々なイベントなどをやっているので、大体毎週のように何らかのイベントがあります(asobi基地イベント情報)。」
棟梁として現場を指揮するのは、林敬庸(たかつね)さん。
この日のために、わざわざ岡山県の西粟倉村(にしあわくらそん)から資材を運んで荒川区まで来られました。
西粟倉村は鳥取県との県境付近にある人口1500人の村。村のほとんどが山という中で育った林さん。地元でも伝統技術を活かしたさまざまなイベントや活動をされている林さんが荒川区でツリーハウスを作ることになったのは、舞台となった駐車場をたまたま別の仕事で借りたのがきっかけだったとのこと。
本物の大工さんによる手抜きのない準備、気持ちのこもった説明、使い込まれた道具の数々から放たれる本物の空気。それらは、林さんを囲んで説明を聞く子どもたちにも伝わるのでしょう。みな集中して話を聞いています。
でも、そのワクワクは朝の爽やかな空気の中をビンビンに伝わってきました。
– 作業開始
やがて説明が終わると、駐車場のあちこちに散らばったグループ。
ツリーハウス本体、看板作り、はしご作りと、それぞれの作業をはじめました。
ギコギコとノコギリの鳴る音、トントン響く金槌。子どもも大人も一緒になって一つの大きなものが形を作っていきます。
金槌や釘を子供に持たせて大丈夫かな?というこちらの心配もなんのその、子どもたちも、大人の指示をよく聞いて、自発的に動いています。
asobi基地にはグランドルールと言われる4つのルールがあります。
- ここはオトナもコドモもすべての人が平等です。
- ダメ!等の否定する言葉は、うまく言い換えて伝えよう。
- コドモと同じ目線になって、世界を見てみよう。
- それぞれの価値観を尊重し、フェアに対応しよう。
(吉岡さん)「どんなイベントにも4つのルールがあって、これさえ満たしていれば何をやってもいいということになっています。後はそれぞれが自分たちでなるべく主体性を持って進めてもらえれば、ということで自由度高く運営しています。」
なるほど、イベントの間、危なそうだな、、と思ってもオトナからダメ!というような声は一切聞かれません。それでも怪我やケンカもなく、みな作業に打ちこんでいます。
みるみるうちにツリーハウスの足場が出来、その上に板が敷かれていきます。
(吉岡さん)「実はずっと前からツリーハウスを作りたい!とは思っていたんです。ただ、実際には木の上にちょっとした板を2-3枚を渡して2-3人で遊べたらいいな、という程度だったんですが、林さん達が来られたときに相談したら「出来ますよ」ということだったので、それだったら是非お願いします!ということでお願いしました。」
実際に林さんが設計したのは、よしおかさんのイメージを遥かに超える、20人ぐらい乗っても大丈夫な本格的なもの。
(林さん)「ツリーハウス作りは一度地元の村でやったことがあります。資材の準備など大変な面もありますが、やっぱり実施するんであれば、それなりのものをしっかり作りたいので、ついこう(大掛かりに)なってしまうんですよね(笑)。材料もほぼ家を作るのと同じ材料ですし。でも自分も楽しんでやってるんで。」
今回のイベントプログラム詳細を設計したのは、様々なアートプロジェクトに携わり、コミュニティデザイナーでもある菊池宏子さん。
要所要所で林さんの説明を補完して全体像をコドモにも理解してもらったり、子どもたちを飽きさせない仕掛けやワークを即興で考えて入れていきます。
もともとアメリカに在住していた菊池さんは、日本に帰国したときに伝統技術が廃れていく様子を実感して衝撃を受けたといいます。
(菊池さん)「東京にいると、子どもたちが大工さんという職業も知らないしノコギリを扱ったこともないような子が沢山いて、伝統技術やそれに伴う文化というものが消えていっているという実感があって寂しく感じました。日本の伝統技術や職人技の素晴らしさを次世代にどうやって伝えるかをテーマに活動しています。」
– 午後、急ピッチで進む作業。
ランチ休憩を挟み、作業再開となりました。
パッと見、ツリーハウスが出来上がるにはまだまだ時間がかかりそうな。。。
菊池さん「あと一時間半、、で終わりますよね。。。?」
林さん「がんばる!もくもくとがんばる!」
オトナもコドモも、どっと笑いがおき、さっとそれぞれ思い思いの作業に入っていきます。
誰かが細かく担当分けをしている感じでも無いのにとても不思議な光景です。
「すごーい、きれいじゃーん」と励ますオトナの声。
「くぎ、うってあげようか?」釘打ちに悪戦苦闘していたコドモに声がけをする他のコドモも。
本物のツリーハウスを作り上げるということが普段の単なるお遊びとは違うことを子どもたちも感じているのでしょうか。
コドモの間で素直に作業を分担したりしている姿がとても印象的でした。
– ツリーハウスが完成!
夕方16時ごろ。ついに、その時がやってきました。
「完成だよ!」
おぉぉぉ!大人も子どもも一緒になって自然と巻き起こる拍手。
「ここからが上棟式というものをやりますからね」
耳慣れない言葉に興味津々の子どもたち。
「大工さんが家を立てて棟上げ、つまり家を立てたときに、餅投げというものをします。」
えー、投げていいのー。子どもの歓声があがります。
「普段は食べ物だから投げてはいけないんですよ。今日は特別な日だから特別に投げてもいいです。ただ、本当はお餅なんだけど、今日はお菓子。数は1人2つずつね。お父さんお母さんも2つ。家族が多い方がおトクですね!」
知らないイベント。
いつもと違って「特別」な雰囲気。
子どもたちもこれから何が起こるんだろうと目をキラキラさせています。
そこに漂っているのは、本物の体験をさせたいと真剣な大人。
それに対する、子どもから大人への自然な尊敬と期待。
イベント後のアンケートでは、子どもも大人も「一生に残る思い出になった」という人が何人もいたようです。
– 子どもが子どもらしい時間をすごせる場所に。
今後、よしおかさんは、asobi基地の東京の「基地」の一つとしてツリーハウスを軸とした様々なイベントを企画中。できるだけオープンにして様々な人達に活用してほしいと言います。
(吉岡さん)「基本的に私がいてオープンできるときは誰でも入れるようにしようと思っています。また、高齢者の方などでお時間があるときに来ていただいて子どもたちを見てもらえるようであれば、お茶でも飲んでいただきながら見てもらいながら、というようなことも考えています。
単発のイベントで終わらせず、ツリーハウスという基地をめぐり、様々な子どもや大人のあたたかな関係性をつなげていきたいですね。」
誰かしらが見守る空間の中で安心して遊べる場所。
子どもの想像力をかきたて、子どもが子どもらしい時間をすごせる場所。
そんな中で蓄積される自分の思いが込もった豊かな思い出は、生涯、たくましく生き抜く力となると吉岡さんは言います。
お父さんお母さん。ぜひ、コドモもオトナも一緒になって遊べる基地「アトリエasobi基地」のツリーハウスに遊びに行ってみてください。
<asobi基地連絡情報>
- 住所:荒川区東日暮里3-30-9 アトリエasobi基地
- 正式団体名:asobi基地 http://asobikichi.jp/
- 電話:090-4223-7257(吉岡)
- メールアドレス:asobikichi2012@gmail.com
※荒川102の取材情報は地図からも探せます。ぜひご活用ください。>>> 「荒川102取材マップ」
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