荒川区観光大使の三遊亭好楽師匠に何気ないお話をうかがってきた
いまさらだが、まずは軽く三遊亭好楽師匠のご紹介。
師匠は1946年豊島区生まれ。その後長く荒川区に住んでいたが、今はご自身の演芸場『しのぶ亭』を作るために見つけた台東区は池之端に居を構える。落語家が席亭になることは非常に珍しいことだが、師匠にとってはお客様やお弟子さんとの関わりの場として『しのぶ亭』を作ることは夢だったと言う。しかし台東区に居を移した今も、無料の落語会である『荒川ふれあい寄席』を支援したり、荒川区の観光大使をつとめたりするなど、荒川区のPRや文化振興に貢献されている。
さて、師匠は銭湯がお好きで、私も荒川区内の銭湯で何度かご一緒させていただき、何度か湯につかりながらお話をさせていただいたことがある。しかし、たまたまお湯の時間が一緒になって他愛もないことを話して楽しむのではなく、しっかりとお時間をいただいて師匠のお話をうかがうのは今回が初めて。『しのぶ亭』の呼び鈴を鳴らすと、お弟子さんかマネージャーさんが出てくるかと思いきや、起きたばかりだと言う師匠が直接出迎えてくれた。
そして早速『しのぶ亭』に通していただき、本日お時間をいただいたことに対する御礼を述べる間もなく、師匠のトークが始まった。寝起きでもあると言うのに、さすが噺家。

師匠
いやぁ、昨日は孫の結婚式で、昼から飲んで夜9時に帰って来てさっき起きたから、15時間寝てましたよ。それだからテレビで酒ばっかり飲んでるっていうイメージで、まぁ実際お酒は好きだけど、皆さんお中元のお歳暮でも正月でもなんでもお酒送ってくるんですよ。
質問
初期の『笑点』の頃はいじられキャラでしたよね?
師匠
今でもいじられキャラは同じじゃない?昔はペーペーでいじられてたけど、今は一番上になっちゃったでしょ。一番上だけど、ウトウトしていじられる。今の『笑点』はたい平を中心に宮治や一之輔みたいな賢い子でせめてるわけよ。そういうのに逆らっちゃうとさ、年寄りらしくないから、老いては後輩に従えで。
質問
『笑点』以外のお仕事もたくさんこなしていらっしゃるかと思いますが、全国のお仕事、地元のお仕事、そして師匠としてお弟子さんの稽古など、お仕事のバランスはどのような感じですか?
師匠
えーと、やはり『笑点』が中心ですね。後楽園ホールやスタジオで2本撮りでしょ。あと全国も行くでしょ。次の土曜日にも十勝行くんですよ、日帰りで。そして日曜日が長崎日帰り。北海道や九州行く時も日帰り。今はもう基本日帰りなんですね。昔はね、60年前、当時はほとんど全国夜行寝台列車。それはもう北に行くと東北を渡るから3日掛かりなんですよ。土曜日の夜9時くらいに出て、朝着いて、午後1時と6時の2回公演を日曜日にやって、それで宴会やって帰ってくると月曜日の朝。今はそんなの考えられない。もう行って泊まるっていうことが当たり前だったから、なんで日帰りなんだって最初は思いましたよ。温泉地行って温泉も入らないで、美味しいもの食べないで、酒も飲まないで帰ってくるでしょ。楽屋にある弁当食べて帰ってくる。でもね、だんだんその方がゆっくりできることが分かって楽になりました。
質問
なるほど。ところで今、円楽一門でもご活躍されていますが、円楽一門でのお仕事と好楽一門でのお仕事のバランスはどのような感じですか?
師匠
実はあまり自分でも分かっていないんですよ。うちの母ちゃん(奥様)がマネージャーやってて、亡くなってからは娘がやってて、私のスケジュールは全部入れてくるから私は動いているだけ。若い時は仕事が好きだったから、明日はどこそこ、明後日どこ、最低1ヶ月の予定は全て覚えていました。今は一つも覚えてないです。「俺は明日どこ行くの?」って毎日聞くの。
質問
私がやりとりさせていただいているマネージャーさんが娘さんなんですね。今日もお弟子さんかマネージャーさんかが出迎えてくださり、「師匠はもうすぐ参ります」だとか、「それはオフレコで」とか、マネージャーさんが同席されると考えていたので、今2人でざっくばらんなお話をさせていただいているの、正直驚いています。
師匠
そんなのないよ。後で「お父さんあんなにしゃべっちゃダメよって」って言われることはありますね。でも、いいじゃねえかよ。噺家なんか隠し事あったらしょうがないだろ。

質問
正直ですね。ところで1日ゆっくりできる日はなにをされていますか?
師匠
私ね、寝るのが趣味なんですよ。さっき話した、昨日の孫の結婚式が10時から始まって、挙式とか色々あって終わったのが4時半で。それでそこから打ち上げやって、うち帰ってきたの9時だったんですけど、もう酔っ払ってますよね。そこから寝て。1時間前に起きた。15時間寝た。
でもね、寝てもトイレに起きたりして、眠れないからCDかけたりして、天井見てるうちにね、30年前にやっていた落語思い出したり、小噺を思い付いたり、スラスラと落語が出てくるんですよ。そういうのも毎日楽しみなの。すごく湧いてくる泉がね、それが天井なんですよ。
質問
昔はお忙しかったでしょうから、今になってできることですね。
師匠
それはありますね。昔は本当に忙しくて寝る暇もなかった。レギュラーもいっぱい持ってましたしね。全国、山形のレギュラー、富山のレギュラー、静岡のレギュラー、いろんなレギュラー持ってたんですよ。忙しいからいやになったんだけど、いっぺんになくなって、ほっとしたら『笑点』になっちゃった。自分ができるできない、やるやらないを正直に言えるようになったのはようやく最近ですね。60過ぎたらそういう整理しないとね。だってもうお弟子さんに任せた方がいいこともあるじゃない。そういうふうにやっていかないとリズムが狂っちゃうんで。噺家ってやっぱり師匠、弟子、孫弟子って続くんだから、その子たちのことも考えていかなくちゃ。
だからどんどんうちの娘(マネージャー)に言うんですよ。仕事をどんどん弟子に移してけって。そうすると弟子も箔がつくし、仕事も増えるし、収入も増えるし、顔も広くなるし、全国で覚えられる。
質問
寝る以外に、趣味はありますか?競馬、ゲートボール、株とか、インターネットで調べると色々と出てきますが。
師匠
ゲートボールと株は、番組を持ってたから噂みたいに出回っちゃったのね。競馬は好きですよ。急に空いたりするとすごく嬉しくて。なにしようかな。大井競馬行こうかな、とかさ。だけど現場は行くとちょっと雑踏だから。後楽園とかで場外馬券でゆっくりビールかなんか飲みながらやってやるのが楽しい。あとはお酒とカラオケ。三橋美智也、春日八郎、美空ひばり、裕次郎、舟木一夫とか歌う。あと前川清とか川中美幸が友達なんで一緒に歌いに行きますね。それと、歌舞伎はね、まあ必ず見に行きますよ。それは勉強のためにね。
質問
伺おうと思っていたのが、落語などの伝統芸能は、皆さん生涯現役であまり引退されないですね。やはりそこまでやって死ぬまで働くエネルギーがあるからこそ一流になれるんですかね?
師匠
いや、あのね、みんな自惚れながらやってるんですよ。俺まだまだ引退できない。これだけできるんだって。それを周りがやめなさいよとは言えないでしょ。奥さんくらいしか。だけど自分は諦めないっていう姿勢が多いんですよ。噺家も歌舞伎役者も。もちろん、お相撲さんとかは体を使うから、限界は絶対訪れるわけですよ。それがないからってのもありますかね。
質問
あるいは、自分も師匠にここまで育ててもらったんだから、自分もしっかりとお弟子さんの面倒を最後まで見なければ、みたいな。
師匠
そういうのもあるんですかね。歌舞伎にしても、落語にしても。私の死んだカミさんが、「お父さん、お弟子さんいっぱい来たけど、弟子と思っちゃダメよ。自分の子どもだと思って育てなさい」って。そう言われて、なるほどな、うちのカミさんの言う通りだと。だから芯から一対一で付き合うんですよ。
質問
なるほど。お弟子さんとの関係で、他に大切にしていることはありますか?
師匠
一番肝心なことは落語じゃないんですよ。落語家は。勉強すれば誰でもうまくしゃべれる落語家になれるんですよ。もっと心の問題ですね。本当にすけべな人はすけべな芸が出るんですよ。ケチなやつはケチな芸が出るんです。人間って正直なんですよ。やっぱり心の問題で、あ、あの人の話は爽やかでいいなとか、優しい心が伝わる子だなとか、そういう芸人じゃなきゃ私は許さないですよ。

質問
最後になるんですが、これからの夢とか、引退したらされたいことがあれば教えてください。
師匠
やっぱり芸人ですからね。やっぱり自分の好きな落語ですからね。せっかくこの寄席をカミさんが作ってくれたので、カミさんの思い出も詰まってるし、まあ八十もうすぐなるでしょ。八十過ぎたらもう悠々とここで話の会を毎月や二月に一回でもやって、五人でもお客さんがいて、終わったら皆で飲んで。
ちなみにですけど、『笑点』、あれは死ぬ前にやめます。それはかっこういいよね。木久扇さんはかっこう良かったよね。しがみつくとか、周りに流されるじゃなくて、自分でわかるのはかっこいいもん。もちろん、やめろって言われたらやめるのは当たり前だよ。
質問
そのやめるっていうのはいつぐらいの話ですか?
師匠
もう五、六年前から言ってるし考えてるんだけど。もうそろそろやめようかなと。でも「師匠がいないと困る」と言って来たり、「辞めさせない」って言うんだもん、、、。
質問
本日はお時間をいただきましてありがとうございました。
後記
さすが噺家。45分のインタビューを事務所に戻って書き起こしたらA4びっちり15枚。
そして、師匠にうかがった質問「なぜ皆さん死ぬまで現役なのか?」もインタビューを終えて答えあり。師匠をはじめとする一流の方々は本当にやっていらっしゃることがお好きなんですね。
三遊亭好楽師匠 席亭
しのぶ亭
台東区池之端