トントントントン。
「まったくの初心者でも5-6ヶ月で本格的な靴を作れる」と聞いて訪れたその一室にいたのは、一心に革を磨く人、パソコンに向かって設計をしている人、ミシンに向かう人。トントンと響くのは金槌の音。
扉のすぐ外の明治通りの喧騒が嘘のように、靴作りに集中する人たちの独特の静かさとやわらかい緊張感で空間は包まれていました。
訪れたのは、新三河島駅近くのビルにある「THE SHOEMAKER’S CLASS」。区内の手作り靴職人であるミサワノリユキさんが運営する、靴作り教室です。
– お店について教えてください。
お店は2011年の6月にスタートしましたので4年半ぐらいになります。
教室は小さくやっていたのですが、段々生徒が増えてきたので今年の5月から教室を分けてこちらに移動してきました。
– いつから靴作りを始められたのですか?
大学3年生のときに靴作りをしていこうと決めました。その後学校を経て8年ほど修行をし、31の時に独立しました。
もともと物心ついたころから工作や絵が好きな子どもでした。
– ミサワさんの思われる靴の魅力とは何でしょう。
しっかりした製法で、最高級の革を使い、最高の技術で作っていれば、一生履いていただけるような靴と思っていて、愛着も湧きます。通常、モノは段々と劣化しますが、おそらく革製品だけが「より良くなる」という特徴があります。
靴の場合はそれがよりわかりやすく、履き心地が向上したり自分の足に合ったものになるので、それが靴の魅力であり革の魅力かとおもいます。
あとは単純に靴の形自体、造形というのが、工芸品として見れるという魅力を自分が感じています。
飾ってもかっこいいし、そういう対象かなと思っています。
– 工房の特徴を教えてください
一般的に靴は百貨店に並んでいるどんな高いものでも、大量生産で工程の半分以上の部分を機械で生産していますが、うちの靴は全ての工程が手作りです。お客さんの足を測って木型作りから全て手作りで作っているというところが大きな特徴です。
– 普通は分業なんですね?
大きく分けると、まずデザイン・企画をする靴メーカーさんがあります。そして、実際に製作する役割の木型メーカー、靴本体を製作するメーカー、最後に販売店、というように分かれているのが一般的です。
弊社では、それらを全て自分でやろう、ということをやっています。当然非常に難しいことなのですが、やりがいのある面白い部分でもあります。
– なぜ教室を始めたんでしょう?
靴作りを教えてください、という人がどんどん増えてきたんです。
ただ、弟子を取って靴を教える、という余裕は当然なく、時間を割いて1から丁寧に教えるのは不可能ですし、20年も30年もかかってしまうと思います。ですが、月謝をいただければ時間を取ってしっかりと指導できる、と思ったので始めました。
現在生徒さんは40名ぐらいいて、千葉や横浜から来られる方もいますし、遠くは仙台から新幹線で来られる方もいます。
– ご自身でも靴作りをしながら人に教えるのは大変ではないですか?
そうですね。ただ、私も20代中盤の修行していた当時から学校で講師はやらせていただいていて、それがとても楽しくて自分に向いているなという感覚はあったので、将来独立してもやってみたいというのはありました。
それに、感覚的にやってきた部分を自分なりに理論付けていかないと相手に伝えられないので、実は教えるということを通じて靴に対する自分自身の理解がより深まって、得られることがあるんです。
– 教室の特徴を教えてください
通常4月スタートで毎日授業の内容が決まっていて全員が同じことをやるという学校が大半なんですが、うちはいつ入ってもひとりひとりの進捗に合わせて見ていくので、そこが大きな特徴です。
ある程度こちらで一足作るための標準回数を設定していて、それに沿うようにはしてるんですが、人によってはもっと早くとかゆっくりとか、そういった要望もあるので、そういった要望にも対応しています。基本的には男性も女性も履ける、伝統的なクラシックシューズを教えています。
大体仕事をしながら学びに来るような方でも、週1回のペースで来て4-5ヶ月ぐらいで完成できます。
– 読者の方に一言どうぞ
靴を自分で作れる、っていう発想は私も若いころは無かったんですが、もちろん大変ではあるんですが、それが実は誰でも作れるんですよ、ということを知ってもらいたいです。
若い方には、世の中には靴職人のような珍しい仕事がたくさんあって、それを仕事にしている人がいる、ということは伝えたいです。
就職とか進路で悩んでいる子もいると思うのですが、世界が広がれば自分の好きなことはきっと見つけられると思います。
インタビューの間にも常に生徒さんの進捗状況を気にされていて、困っていそうな生徒さんを見つけたらすぐに状況を聞いて、真剣にアドバイスをされている姿が印象的だった三澤さん。訥々とインタビューに答えていただく三澤さんの一言一言には飾り気がまったく無く、余計なことを考えずに地道に目の前のことに取り組んでいる、という印象でした。
「自分にも革靴が作れる」なんて想像もしませんでしたが、区内にそんな場所があるなんて驚きでした。
自分ならではの一足を自らの手で作ることに挑戦してみたい方、ぜひ連絡してみては?
<店舗情報>
- 店名:THE SHOEMAKER’S CLASS(ホームページ)
- 開講日時:基本的に月曜〜日曜の10時〜16時(詳細は教室までお問合せください)
- 住所:東京都荒川区荒川5-4-2 新日本TOKYOビル4F(新三河島駅より徒歩2分)
- 電話:03-6807-8839
- メール:class@misawa-and-workshop.com