「絶対いいわよ!え、それやろうよ。ショウゴ、それ、凄くいいと思うよ。」
「ユミ!おー、トシコ!がんばってる?」
「マツコ!いまいいこと言ってたね〜」
客が入ってきてはハイタッチやハグが繰り返される。
日暮里駅前のネオン街。その中に、そのお店はある。
お店の名前は「salud!」。
この店はサルサを踊る店であり、ラテン料理の店であり、あらかわ満点メニューの参加店でもあり、もう一つの系列店をミャンマーに出店している。
店名のsalud!は健康という意味。実際には「乾杯!」という感じで使われるスペイン語だ。
オーナーは足立区の出身だが、日暮里に店を出した理由は「東京の玄関だから」。
ミャンマーに店がある理由は、50才を過ぎて初めて知り合った弟と訪れた旅行先だったから。
とてもわかりやすい。いや、全く分からない。
取材でお店に来たのは会社帰りの夜8時。
場末感溢れるビルの入り口に貼られているサルサレッスンの案内ポスター。
その店に行くためには如何にも水商売の匂いのするその入り口を入り、一体どんな店なんだろうという不安を抱えながら3階まで上がるしかない。
狭いエレベーターに乗り込み、上に昇る。まだ見たことのない店に対する一抹の不安。
エレベーターの扉が開き、店に入る。店内では既にサルサレッスンが始まっていた。
先生の指示にしたがってステップを踏む人たち。みなとても楽しそうだ。
店内には自由な空気と奔放なエネルギーが渦巻いている。
見よう見まねで基本的なステップを教えてもらい、手拍子に乗りながら一緒に踏んでみる。
30分もすると次第に体も慣れてくる。知らない人たちと一緒にステップを合わせ、体を動かすのが楽しい。
間違いだらけだが誰も咎めたりはしない。
店のオーナーのJunkoさんは、もともとアマ&ジュンというペア名で社交ダンスをしていたという。
しかし、「これからはサルサの時代だ」とサルサに転向して半年もしないうちにキューバ大使館主催コンテストで優勝した経歴を持つ。話しを聞いた。
– ダンスは人に対する思いやりを生むんです
サルサっていうダンスをして、音楽とかライブとか人とコミュニケーションを取ってみたら、こんなに楽しいものがあるんだって。
普通飲み屋さんとかにいくとサラリーマンしかいなくて奥さんも子どももいなくて、なんかそういうおじさんばっかりで飲んでるとかあるじゃない?
そこにラテンな音楽があって、ちょっとした隙間でも踊れるようなところ?そんなところがあれば、そこから生き方とか考え方とか、人に対する思いやりとか、そういうのが生まれてくるんじゃないかなって思ってね。それでサルサクラブを始めたんです。ダンスってそうなんですよ。思いやりがなかったらペアダンスもなにも出来ないじゃない?」
– 日暮里をダンスの玄関に
「私はもともと西新井に住んでたんですけど、大宮とか北千住とか、ターミナル的な場所にお店を出したいなって狙ってたんですよ。それで不動産屋に相談したら『日暮里は荒川区の玄関口ですよ』って言われて。え、玄関!凄い!って思ったの。そうなのか、ここは玄関か!ってね。要はね、ここを日本のラテン音楽、ダンスの玄関にしたいって。
ダンスがうまい人っていうのは、社交ダンスでも何でもいるんですけど、技術に寄っていってしまうですよ。出来ない人に冷たくなっちゃったりね。でも私は全てをフラットにして玄関にしたくてね。
でもね、最初は私が「日暮里salud!」って書いたら、ダサいって言われたの。
そんなこと言われて、なんか悔しいじゃん?ダサいってなんだよって。だからわざと漢字で「日暮里」って書いたの。赤坂、六本木?そんなんじゃなくて、日暮里だよ!、って(笑)。」
– ルエダに衝撃を受ける
「ルエダっていうのはスペイン語で「車輪」とかそういった意味で、サルサを輪になって踊るんです。パートナーを代えながらね。フォークダンスみたいな感じ。それを14年ぐらい前にロサンゼルスで初めて見て、え、これなんだろう、凄い、って思って。
その時は大会に出るようなものだったから最高レベルのものだったんですけど、でも当日は私はペアダンスをやっていたからその想いは7年ぐらい封印されてたんだよね。
だけど私にも、ここにいるけど(店にかかるポスターを指差しながら)Amaって言うんだけどね、彼にもルエダは将来やっていこうよって言ってたのよ。
なんでかっていうとね、ルエダって社会の縮図みたいなものなのよ。なぜかって言うとペアが代わっていくでしょ?だから相手が年取ってようが子どもだろうがダンス上手いとか下手とか、性格が優しいとかキツイとか、関係ないのよ。わかる?パートナーが代わってきたら、次もいい男が続くの?そんなことないじゃない?でもお互いが思いやって回るの。
社会も、恋人同士がいて結婚して家庭ができて子どもがいて、その家庭一つ一つがうまくいって社会ができて、そういうものじゃない?ルエダもそれみたいでホントに縮図だなって思ったの。
それであたし日暮里でこの場所を作って、マイアミルエダっていうのをちゃんと習いに行ったのよ。カシーノルエダっていうキューバの踊り方もあるんだけど、私にはちょっとラインが私が好きなラインと違ってたのね。」
– 「日暮里ルエダ」でマイアミの国際大会で3位に入賞
「でもマイアミルエダをやってみたら、やっぱりちょっとマイアミルエダも(私が思うものと)違うな、ってなって。私って結局、縛られるのが嫌なんですよ(笑)。
それでもっと自由に、って思って勝手に日暮里ルエダってのをやリ始めたんです。
始めたころはいろいろ悔しい思いもしたんだけど、石の上にも三年と言うけど、マイアミでコングレス(大会)が毎年一回あるのでそこに5年間は日暮里ルエダで出ようって決めたの。最初は3-4人でもいいから。そしたら、マイアミで3年目に準優勝したの。日暮里ルエダとして。
日本から出ていくもので、フロムジャパンとかフロムトーキョーって言われるものはあるけど、われわれはフロムニッポリって言ってもらえるのよ。
将来はね、ルエダってのを東京の体育祭とかで先生とか父兄とか、みんな輪になって踊れたら、こんな素晴らしいことないでしょ?そういうふうにしたかったんです。だってPTAの会長と子どもとか、一つの輪になって、ルエダって大会いくと分かるんですけど100人ルエダとかあるんですよ。」
– 誰でも楽しく踊れるお店、を目指して今も試行錯誤中。
お店をオープンして14年。
フラットに誰でも楽しく踊れる店にしようとしたお店なのに、気づいたら踊れる人向けのお店になっていたとJunkoさんは言う。
「それもほんと2,3年前に気づいたのよ。これじゃあかんって。
何年もやってると自然に自分も巻き込まれていっちゃうの。結局、踊れるひととか、だから技術のある人達?人間って初心に戻ることが必要なのよ、ショウゴ!
だから、それじゃあいけないと思って、いま、試行錯誤の最中なの。一からやり直そうって。
イベントやろうよ、すごく面白いと思う。
日暮里を踊れる町にしたら面白いよ。
私ね、昔どうしたとかああしたとか、そういうのが大っ嫌いなの。私の中では昔はどうでもいいのよ。いま何をやりたいか、これから何をやりたいか。そういう人たちで何かをやっていったら荒川区は盛り上がると思うのよ。」
Junkoさんの話しはその想いのままに迸り、奔流となり、海のように広がっていく。
あぁ、今日の話し、このエネルギー感、、記事にするのが難しいな、、と頭の中に危険信号が点滅しだしたころ、Junkoさんはこう言った。
「、、、えーと、私になんか聞きたいことあるんだっけ?なんか適当に書いといてよ。別に書かれて困ることないから何書いてもらってもいいのよ(笑)。」
いやいや、そんなわけにはいかないですからJunkoさん、、、(笑)。
入り口は入りづらいが、そこに漲るエネルギー。自然と湧き起こる一体感。
とにかく行ってみよう、「日暮里salud!」へ。
<店舗情報>
- 店名:日暮里salud!(サルー)
- 住所:東京都荒川区東日暮里6-60-9 日暮里駅前ビル3F
- 営業時間:月~木(Mon~Thu)19:00~23:30、金土日(Fri~Sun)19:00~24:00
- TEL:03-3807-2150
- URL:http://www.club-salud.com
※荒川102の取材情報は地図からも探せます。ぜひご活用ください。>>> 「荒川102取材マップ」