豊かな森のような施設を目指して ゆいの森あらかわ館長インタビュー

インタビューに答える「ゆいの森あらかわ」館長の小林弘幸さん
インタビューに答える「ゆいの森あらかわ」館長の小林弘幸さん

都電荒川線「荒川二丁目」駅から徒歩1分の場所に、2017年3月26日にオープンした複合施設「ゆいの森あらかわ」。先日8月23日には来場者100万人を達成するなど、学び、交流、憩いの場所としてすでにたくさんの区民が利用しています。そんな「ゆいの森あらかわ」館長の小林弘幸(ひろゆき)さんに、施設のオープンからこれまで、そしてこれからについてお話を伺ってきました。

3つの機能が融合した施設の成り立ち


「ゆいの森あらかわ」は3つの機能を持つ複合施設
「ゆいの森あらかわ」は3つの機能を持つ複合施設

「ゆいの森あらかわ」は、「中央図書館」、「吉村昭文学記念館」、「子どものひろば」の3つの機能を持つ複合施設です。設立に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。

「いくつかの背景があります。まず、平成18年に『これからの図書館調査懇談会』が立ち上がり、図書館サービスの充実に向け、老朽化した図書館への対応、幅広いサービス対応ができる中央図書館の必要性が明らかになったこと。次に、荒川区出身の吉村昭氏に文学館設立の打診をしたところ、文学館単体ではなく、図書館などと併設した施設にしてほしいと求められたこと。同年に子育て支援部が新設され、荒川区の子育て支援事業をより充実していくため子育て拠点の整備が必要となったこと。以上の背景を受けて平成21年『複合施設の設置及び運営に関する懇談会』が設けられ、翌年に『 遊べて』『学べて』『体験できる』という3つの機能を持つ複合施設『ゆいの森あらかわ』の設立が決まりました。」

「ゆいの森」という施設名には、「人と人、本と人、文化と人が結びつき、楽しみ・学び・安らげる、豊かな森のような施設」という思いが込められています。通常、複合施設は事業内容により壁で隔てられ、単独で機能しているところが多いもの。3つの事業が融合して展開しているところが、ゆいの森あらかわの特徴といえます。





自由に行き来できる滞在型の施設として


現在の1日の来場者数は、平均して約2千人。夏休みの間は多いときで3千500人が来場することも。夏休み期間の8月は、昨年に比べ約1割増えており、区民の方への認知が順調に進んでいるようです。取材した当日は土曜日の午前中でしたが、小さなお子さん連れからご年配の方まで、すでに多くの方が利用されており、区民の生活の一部として機能しているように感じました。

吉村昭文学記念館エントランス
吉村昭文学記念館エントランス

次に各機能の魅力についてお話いただきました。

「吉村昭文学記念館」は、荒川区出身で『戦艦武蔵』や『三陸海岸大津波』などで知られる作家、吉村昭氏の作品や足跡に触れられる施設。展示パネルや資料、同氏が実際に使っていた書斎の再現コーナーなどを用意し、毎月1回、学芸員による展示解説も開催しています。

「中央図書館」は約60万冊規模の蔵書や約900席の座席を備えるほか、国内外の俳句資料を備えた現代俳句センター、ビジネス支援コーナーや調べもの支援カウンター。さらに事前にインターネット予約が可能な5F学習コーナーや、打ち合わせにも使える2Fコミュニティブリッジ・5Fコミュニティラウンジなど、さまざまな利用シーンに対応しています。

3Fフロアの様子
3Fフロアの様子

2017年3月から1年半の間に館内で行われた事業は約600回。「子どもひろば」では、科学実験やワークショップを用意。特に夏休み期間中の子ども向けのワークショップでは、定員がすぐに埋まってしまうことも多いとか。

1F遊びラウンジの様子
1F遊びラウンジの様子

専門スタッフのいる託児室や室内遊具を備えた遊びラウンジもあるので、子育て世代も安心して利用できます。

「遊びラウンジでは、子ども同士はもちろん、お母さん同士の交流が生まれることもあるようです。子育てに悩むお母さんたちの心のよりどころになる機会があればうれしく思います。」

絵本に囲まれたゆいの森ホール
絵本に囲まれたゆいの森ホール

実際に来場者はどのような過ごしかたをしているのでしょうか。

「ゆいの森あらかわは『滞在型』の施設です。実際に一度来館されると長い時間過ごされる方が多いように思いますね。例えば若い方は試験や資格の勉強、お母さんたちは、小さいお子さんの遊び場として。ご年配の方は読書、調べものなど、思い思いに過ごされているようです。わたしたちスタッフとしても、この施設での新しい過ごし方を来るたびに見つけてもらう楽しみもあると思っています。

壁一面の木の本棚に囲まれたゆいの森ホールでは、イベントを開催するほか、空いているときは絵本が楽しめます。天気が良い日は、緑に囲まれながら読書が楽しめる香のてらす、風のてらす、ゆいの森ガーデンてらすなどで過ごすことも可能です。飲食可能なエリアもありますし、本の持ち込み可能なカフェも併設されています。従来の図書館は、静かに本を読むイメージがあったと思いますが、ここでは子どもたちに絵本を読み聞かせるお母さんの声や、相談しながら一緒に勉強をする子どもたちなど、明るい声が行き交う場所になっています。」

各機能は、施設の中心を貫く吹き抜けを中心に、層が重なるように1階から5階まで配置されています。この開放的で連続的な構造は、この施設のコンセプトに由来しているようです。

「例えば、2階には10代向けの書籍を扱う『ティーンコーナー』があるのですが、その隣に自然に足を踏み入れることができるような導線で『吉村昭文学記念館』があります。若い世代にも文学に興味をもってもらうような配置になっているんです。」

また、館内は免震構造を採用し発電機や備蓄倉庫なども用意。災害時には帰宅困難者の受け入れや、乳児とその保護者を中心とした避難所としての機能を備えていることなども広く周知していきたいそうです。

「快適で安全な地域の場所づくり、知的好奇心を提供できるわくわく感や人と人の交流を創造していきたいと思っています。」

非常時に対応できる備蓄倉庫
非常時に対応できる備蓄倉庫

これからの「ゆいの森あらかわ」


今年の5月27日には荒川区長により、誰もが読書に親しみ、学びながら心豊かに暮らすことのできるまちづくりを進めることを目的に「読書を愛するまち・あらかわ」宣言がなされました。今後も「ゆいの森あらかわ」をはじめ荒川区図書館では、さまざまな事業の実施を予定しています。

「読書を愛するまち・あらかわ宣言文」(PDF)

11月には、ゆいの森あらかわの名誉館長で、吉村昭氏の夫人の芥川賞作家津村節子氏の出身地である「福井県ふるさと文学館」と「吉村昭記念文学館」が「おしどり文学館協定」を締結した1周年記念企画を控えています。

これから、ゆいの森で実現していきたいこと、やっていきたいことを伺いました。

「これまで荒川区役所で人材育成、保育、防災まちづくりなどに携わってきましたが、その経験も活かしながら、ゆいの森から発信するアウトリーチ(公共の文化施設などが、出張で行う活動)を今後も進めていきたいと思っています。就任してすぐ、区内の近隣小学校に出張し、1年生に読み聞かせを行いました。館内で子どもたちから声をかけてもらえることもあり、うれしく思っています。

スタッフに伝えているのは、『ゆいの森全体志向』。事業で分断せずに横の連携を大切にしていこうということです。接遇に関しては『おもてなし』の気持ちを持つように心がけ、より利用者のみなさんに快適に過ごしていただけるように努力しています。

今後は、複合施設の良さを活かした催しを企画していきたいですね。オープンから増え続ける利用者に対応できるよう、席や机の配置を改善し、より快適な環境をつくっていきます。」

人と人がつながることができる賑やかさと、じっくり知的好奇心に浸ることができる静寂さ。あらゆる世代に向けて多様な使い方を提案する施設のあり方は、ふところの深い「森」をあらわしているようです。

「ゆいの森あらかわ」館長の小林弘幸さん
「ゆいの森あらかわ」館長の小林弘幸さん

<ゆいの森あらかわ>
・開館時間:9時30分~20時30分
・休館日:毎月第3木曜日、年末年始及び蔵書点検期間
・URL:https://www.yuinomori.city.arakawa.tokyo.jp

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