土を楽しむ。町屋の陶芸教室へようこそ ~ 陶房かたち

「びいどろと半々ぐらいにしてみたらどうかな?」
「あぁ、いいかもね」
「ね、そうだよね」

陶房かたち 陶芸教室1

ここは町屋の路地にある「陶房かたち」の陶芸教室。
2000年のオープン以来、ずっと通い続けている生徒さんもいる教室の中に流れているのは、ほどよい静けさの中に土をいじる楽しさが充ちているような、そんな空気。

「私はいつからいるのかしら、2002年?」
「そんなになるのかしらねぇ、時間だけはどんどん経ってしまってねぇ笑」

思い思いに自分が作りたいものを作っている生徒さんと先生であるなかじまさんの会話は、先生と生徒というよりは一つのテーブルを囲んで陶器作りを楽しむ仲間という感覚。一緒に楽しもうよ、と土に呼ばれている気になります。

「これ、かわいいですね」
「製作されたものを見ると、その方の意外な面とか見れるんですよ」

陶房かたち 陶芸教室2

私自身も以前子どもと一緒に参加したことのある陶芸教室は、1回2000円(毎月初回の教室は3500円。4回目からは1500円。)と粘土代1000円(1kg当たり)。来れるときのみの参加という形なので、気軽に参加することができます。

基本的な土の使い方は先生が教えてくれますが、作るものは生徒の自由。
大人も子供も、のびのびと作りたいものを作ることができます。

陶房かたち 陶芸教室3
もくもくとろくろに集中

「これは2種類の粘土を混ぜてるんですか?」
「そうなんですよ。この土の微妙な違いが効果的に出させるような釉薬を今考えてるんですよ」

生徒さんの作りたい作品の完成イメージを捉えながら、先生も生徒さんと一緒になって段取りを考えていきます。

「やってみないことにはわからないからねぇ」
「しかも、同じようにやっても同じようにはならないかもしれない、っていう。そこがまた面白いのよね。」

陶房かたち 陶芸教室4

 

小さいころから「何かを選ぶ」ことを意識。運命のように陶芸の道へ。


陶芸家のなかじまさんは、陶房かたちの隣りにある古民家で育ちました。
実家の家業は材木屋。小さい頃からお弁当をもって大工さんの仕事ぶりを見たりして育ったせいか、今でも建築物を見たり、家を直したりするのが好きだと言います。

陶房かたち 陶芸教室11
教室はこの建物の2階にあります。

実は小さいころから右耳が聞こえなかったなかじまさんのことを思い、お母さんは「何か夢中になれるものを見つけなさい」と言い続けていたそうです。
その為、常に「何かを選ぶ」ことを意識していたなかじまさん。初めて陶芸に触れたとき、直感的に「奥が深そう」と思い、そこから陶芸の道へ進むことになります。

学生時代には一度町屋を飛び出しますが、自然とこの地へ戻ることになり、教室をオープンしたのが2000年。

その後、海外青年協力隊に応募してフィリピンに渡航されたため、一時期教室はクローズとなりましたが、帰国してまた再開し、現在に至ります。
陶房の名前である「かたち」は、容器の「容」という漢字から生まれた名前だそうです。

「ロゴも、容という漢字をモチーフに作りました。容には器という意味もありますし、器の中身、という意味もあります。それから、外から見た器の形、という意味もあります。容器の内側も外側もどちらも大事、という意味を込めてこの名前にしたんです。」

陶房かたち 陶芸教室5

陶芸に触れた当初はそれを仕事にする予定はなかったものの、働きながら陶芸の学校に通っていたなかじまさん。その後、その会社が大規模な陶芸教室を開くことになり、講師募集に応募して千駄ヶ谷にあったその工房で働くことになります。講師として7年働いた後、町屋に戻ってきました。

 





自分で壁をぶち抜くところから始まった陶房作り


陶房かたちのある建物は古民家の隣りにある、元はアパートとして使われていた建物。
陶芸教室を辞めて戻ってきたなかじまさんは、当時物置きとして使われていた建物の部屋と部屋を分断していた壁を自分で取り壊すところから陶房作りを始めたと言います。

「ここにハンマーをバーンって入れて、自分で壁を抜いたんですよ。土埃が凄くて(笑)。もうね、当時はやろうと思ったらなんでもすぐやろう!という感じで。体も丈夫で力持ちだったから夜中の3時ぐらいから壁のペンキ塗りをしようとか、絵を壁に書いたりとか(笑)」

陶房かたち 陶芸教室6
この後ろの壁をバーンと抜いて、、

元々町屋で生まれ育ったなかじまさんですが、当時は「この土地から出たかった」そうです。
千駄ヶ谷の大手の教室での講師を経て町屋に戻ってきて教室を開いてみると、生徒さんのドタキャンなども殆ど無く、改めて生まれ育った土地が「いいところだなぁ」と思うようになったと言います。

「出ていくときは近所の方が『行ってらっしゃい~』なんて送ってくださったんですけど、戻ってきたときどうしようかと思っていたら『お帰り~』なんて気軽に言ってくださって。地元にずっといたら見れなかったことが、一度外に出てみることで、こうしたいなぁ、というものも見えてくるようになったりして。」

陶房かたち 陶芸教室12

 

土を通じたたくさんの出会いから得た多くの学び


陶芸家として既にキャリアの長いなかじまさんですが、今また、学校に通っている生徒でもあります。

「私いま学生なんですよ。型作りを勉強してるんです。日ごろあまり仕事で怒られたりすることがないせいか、レポートを書いたり、ダメ出しされたりするのが意外に楽しくてやってます(笑)。意識して、定期的に新しいことはインプットしようと思ってます。」

陶房かたち 陶芸教室7

今も尚、新しいことにチャレンジし続けるなかじまさんですが、改めて、焼き物の魅力について尋ねてみました。

「やってもやっても、やった感が無いんです。もちろん達成感はあります。自分が狙った通りの色が出たり、納期にしっかり間に合わせられた、とか。でも、たまに良くできたなと思っても、すぐにすごく遠くに行ってしまうんです。学校に通ってみると、大学で陶芸をやってきた方と、産地で職人として陶芸に取り組んできた方と、それぞれ全く違った切り口で陶芸に取り組んでいる方と出会えたり、そういう幅の広さを感じています。自分の立ち位置が分からなくなることもありますが、ただ、追究していくものがあるって幸せだなって思います。」

陶房かたち 陶芸教室8

感覚で生きてる、というなかじまさん。そんななかじまさんを、土は受け入れてくれるんだそうです。

「金属もやったことがあって、鍛金をやるかどうかは最後まで迷いました。でも、あれは感覚でやってしまうとポキっと折れて、もう一回、ということが出来ないんです。土はそこでやり直しが効きます。感覚に委ねていく部分とキチッとまとめていかなければいけない部分。そのバランスを取りながら製作していく過程では、瞑想しているような感覚にもなります。」

陶房かたち 陶芸教室10

耳に不自由があることから運命のように陶芸に出会ったなかじまさんですが、「土」を通して、沢山の人、場所に出会い、また、ひび割れや歪みなど失敗が多いという土の性質からは、忍耐力や相手(土)の立場になって考えることを学んだそうです。

「どんなに手間暇かけた作品でも、最後の最後に「窯(炎)」という人の手が及ばない工程が入るので「自分で結果が決められることなんてほんの少し」と思うようになりました。人間が、全部をわかるなんてことはない、という謙虚な気持ちと、それでも諦めないぞ~、という、気長で能天気な明るさのようなものを、土からもらった気がしています。」

 

最後に、陶芸をやってみたいなと考えている方に教室からのメッセージです。

「陶房かたちの教室は、こちらからこういうものを作ってください、ということはありません。こういうのをやりたいっていうものを自分で見つけていっていただく場所です。土をいじっている中で、最初は困ったとしてもきっと自分が作りたいものが自然と出てくるものです。陶芸を通じて、自分でも知らない自分を発見していただけるといいなと思います。」

陶房かたち 陶芸教室2
自分の知らない自分に会えるかも。

お母さんの心配から始まり、道を選択することを意識して生きていく中で直感的に何かを感じた陶芸の世界。その中で、壁にぶつかることもあり、一方で、陶芸を通じて得たものや、広がってきた外の世界がある。
そんな土の道を歩んでいるなかじまさんは、とても楽しそうでした。

最近トンネルを抜けた感覚があり、「これからどうなっていくのか自分でも楽しみなんです、何となく、、ですが(笑)」というなかじまさんと、一緒に陶芸を楽しみにいきませんか?
気軽に教室の扉を開いてみてください。すぅっと、受け入れてくれますよ。経験者だから言いますが、1時間後には、あなたも普通に土と遊んでいるはず。

陶房かたち 陶芸教室9

 


<教室情報>

  • 教室名:陶房かたち
  • 住所:東京都荒川区町屋3-14-1
  • 開催日:月・水・土の午前中
  • お問い合わせ:03-3892-5090
  • HP:http://www.katachi-web.com/

作陶ユニット「なひや姉妹」としても活動されているなかじまさんが製作された食器は、こちらのお店でも取り扱っています → Shower Party Cafe(吉祥寺)


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