ずらりと並ぶ圧巻の水槽群!三河島水再生センターに行ってきた

荒川区役所近くの荒川自然公園。
広大な敷地に白鳥が泳ぐ池や交通公園、運動場などが広がる区民の憩いの場の一つですが、その公園は、私たち荒川区民だけでなく台東区・文京区・豊島区など、多くの都民の生活を日々支えている「三河島水再生センター」の上部に設置されています。

三河島水再生センター全景

自然公園を訪れた方ならきっと目にしたことがあるであろう、交通公園の横に広がる広大な池。そして、公園の散策路の地面のところどころに設置されている明かり取り窓。
それらは地上から30メートル以上の地下へと広がる水処理施設の一部なのです。

三河島水再生センター 明かり窓
自然公園の下に広がる空間

水再生センターの敷地面積は197,878平方メートル。
日本で最初近代的な水再生センターとして大正11年に稼働を開始した、東京都下水道局の施設です。
東京ドーム4個強の敷地に合計87もの沈殿池や反応槽を抱えており、現在では、1日あたり700,000立方メートルもの下水の処理能力を誇ります。

1日70万㎥、100万人都市の下水を処理可能

放流地点は、京成電鉄の隅田川橋梁付近。
水再生センターで魚が住めるレベルまで浄化された水は隅田川を流れる水よりも綺麗で透明度が高いため、日によっては、放流地点から扇状に広がる透明な水が、上流から流れる隅田川の水との境目を作っている様子が堤防から鮮明に見えます。

荒川102では以前、すでに現役を終了した旧三河島汚水処分場喞筒場施設(ポンプ施設。現在は国の指定重要文化財として保存されています。)を取材したことがありますが(荒旅vol.4 ~ elfが巡る旧三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設~)、今回は、現役でバリバリ稼働中の水再生センターを取材してきました。

ご案内いただいた三河島水再生センターの皆さま(左より千葉様、高橋様(センター長)、伊藤様)

東京都の下水処理の概要


そもそも下水道とはどういう役割を果たしているのでしょう。

「下水には4つの主な役割があります。一つには汚水処理による生活環境の改善です。」

下水があることで、トイレなどから出る汚水が町街の中に滞留したり溢れたりすることを防ぎ、町街を清潔に保つ。これはわかりやすい役割ですね。

実は、下水道には他にも主に3つの役割があります。

「2つ目は雨水を下水道に取り込んで川などに放流したりすることで、街を浸水から守る役割があります。荒川区など23区の東側は地盤が低いため、下水道がなければ雨水が地面に溢れ出してしまいます。3つ目は下水を処理してから川などに放流することで水質を改善する役割もあります。4つ目は季節を問わず概ね一定の温度を保っているという下水の特徴を活かして、ヒートポンプの熱源を利用し、大規模商業施設の冷暖房などにも活用されています。」

下水道普及率の推移に伴う隅田川の水質改善状況を示すグラフを見せていただきました。

「都内の下水道普及率は平成6年度末に100%になりました。また、隅田川上流でも下水処理施設が整備されていったのに伴い、隅田川のBOD値(※水の汚れの指標)が大きく低下し、川の臭いもかなり少なくなりました。」

隅田川の水質と下水道整備

確かに、一時期は悪臭を放っていた隅田川ですが、今ではそんなことはなくなりましたね。これも、下水道整備の努力の結果なのです。

三河島水再生センターの施設概要


敷地が広大な上に大半が自然公園に覆われているため、その全容が肉眼では確認しにくい三河島水再生センター。その仕組みはどのようになっているのでしょう。

「まず、都東京23区内には13の水再生センターがあります。これらは、それぞれの地区の中で低地の場所に設置されています。下水道管は重力の力で自然と水が流れるように、下向きに傾斜して地中に設置されています。下水管がだんだん深くなるので、途中でポンプで組み上げて再び流下させ、できるだけエネルギーを使わずに再生センターまで運ぶように全体がうまく設計されているのです。」

東京23区では869万人の人口、58000ヘクタールにも及ぶ地域を対象に10の処理区に分けて下水処理を行っています。
それら処理区を流れる下水を最終的に処理する水再生センターは13ヶ所。

三河島水再生センターは「三河島処理区」を担当しており、地図を見ると主に低地帯である川沿いにいくつかのポンプ所があり、それらを経てセンターへと下水が流れ込んでいる様子が伺えます。

三河島処理区は荒川区を含む複数の区域をカバー

三河島水再生センターの下水処理量は現在平均して1日40万立方メートル程度ですが、「100万人クラスの都市の下水処理をまかなえるほどの能力なんです。」とのこと。つまり、このセンター一つで、政令指定都市一つ分の人口から出る下水を概ね処理できる計算になるのです。

主要施設として「浅草系」「藍染系」がありますが、これはそれぞれ、外から流入してくる下水道の「幹線」の名称に由来するのだそうです。
何とも味のある、歴史を感じる名前ですね。

主要施設平面図 – 三河島水再生センター

「下水には大きく分けて2つの汚れがあります。一つは混じっている汚れ。これは沈殿させることで除去します。もう一つは、いわば溶けている汚れです。これは微生物の力を借りて沈殿させて最終処理を行います。」

三河島水再生センターの地下深くにある沈砂池に流れ込んだ下水は、大きなゴミが取り除かれ、土砂類を沈殿除去されたうえで、巨大なポンプを使って地上付近まで引き上げられます。その後、第一沈殿池、反応槽、第二沈殿池を経て、最後は塩素消毒も施されてから隅田川へと放流されます。

下水道のしくみ

この間、処理の過程で蓄積された汚泥は、送泥管により汚泥処理施設へと運ばれ、水分を取り除き焼却されます。また、センターは大量の電力を必要とするので、いざというときにも停電の影響を受けずに済むよう、非常用発電設備も備えています。

これらの巨大な施設は、24時間3交代制でポンプなどの機械の運転管理をする方、設備や建物の整備を行う方、水質を管理する方、機械の保全管理をする方など、全体で90名弱の職員によって日々運用され、私たち都民・区民の生活を支えているのです。

30m以上の地下から地上へと水を吸い上げる力強いポンプ施設


普段外部の人間は入ることのできないポンプ室へと案内していただきました。

ポンプ室は地下4階まで下りていきます。

案内いただいたのは、正門入口すぐの「第二浅草ポンプ棟」の地下にあるポンプ施設。
地下4階、およそ36メートルの深度まで、延々と階段を降りていったところに、巨大なポンプが4基、ゴォゴォと音を立てて稼働していました。

「このポンプの下に下水のプールがあり、上まで組み上げています。ポンプの動力源であるモーターは水に弱いので天井上部に設置されており、そこからポンプを動かしています。」

巨大なポンプが地下のプールから下水を吸い上げます。

モータールームは地下3階。高い天井のガランとした部屋に設置されています。どうしてこんなに高い天井が必要なのか聞いてみました。

「ポンプは定期的に保守を行い、40~50年で新しいものにリプレースします。ポンプの入れ替えのときは、地下深くに潜っているポンプをクレーンで引き上げる必要がありますので、これだけの高さの空間が必要なのです。」

モーター室。ポンプ室の上部にあります。

都内に広がる巨大な下水道インフラを人の血管に例えるならば、何100万人もの人が住む都市から排出される大量の下水を一日も休まず力強く再生工程に運んでいくポンプはいわば、血流を生み出す心臓のようなもの。

その頼りになる轟音に、安心感を覚えました。





屋内にずらりと並ぶ沈殿池。


次に案内されたのは、ポンプ棟からまっすぐ奥に入ったところにある第1一沈殿池。都電の荒川二丁目駅停留場側から自然公園へとスロープを上がっていった公園入口のちょうど真下あたりに位置します。

ずらりと水槽が並ぶ第一沈殿池

屋内に入るとずらりと並ぶ池の様子は壮観。水槽を覆う蓋を開けていただくと茶色く澱んだ沈殿池が姿を現しました。

「この中で2~3時間かけてゆっくりと下水を流し、下水の中の汚れを沈殿させます。」

まだ再生処理の初期段階のため、蓋を開ければさすがに臭気が立ち上ってきますが、それほどではありません。

「臭気はダクトで集めているので案外臭くないでしょう?」

屋内頭上には網の目のように張り巡らされたダクトがあり、そこで臭気を集めることで屋外に臭いが漏れるのを防いでいるとのことでした。

様々なプランクトンや微生物の力を借りて細かな汚れを分解する反応槽


更に奥に進むと今度はずらりと反応槽が並ぶエリアに入ります。

第一沈殿池で大きめの沈殿物を除去した後の下水に、大量の微生物を含む活性汚泥を加えることで微生物に汚れを分解させているエリアです。

様々な微生物の力を借りて水を浄化します。

ここでは微生物を活性化させるために水槽内に圧縮空気を吐き出しており、そのため、蓋を開けてみると水槽は常にモクモクと泡を吹き出しています。圧縮空気を吐き出すため送風機はポンプ棟の地下に設置されています。

「圧縮すると熱が発生するため、空気の吸入口と吐出口で、機械の表面の温度が違うんですよ。」

機械の表面を触ると温度の違いが分かります。

圧縮空気を使った活性汚泥法は「散気式標準活性汚泥法」と呼ばれ、昭和36年に取り入れられました。
それまでに使われていたのは「パドル式活性汚泥法」というもので、水車のようなものをグルグル回しながら空気を送り込んでいたのです。
そのパドル式水車の枠組みは、今も沈殿池の建物の入り口に展示されています。

三河島水再生センター パドル
パドル式活性汚泥法の利用時に使用されていた水車

魚が住めるほどの透明度を持った第二沈殿池。そして、サンゴが育つほどの水となって、川へ。


反応槽を経た水が到達するのが、自然公園からも眺めることができる第二沈殿池です。
公園から眺められることからもわかるように、この段階ではすでに屋内ではなく、オープンエアの沈殿池となっています。つまり、臭いが無いのです。

「透明度が非常に高いので、日中晴れていれば池の中まで綺麗に見ることが出来ます。以前は、放たれた魚が泳いでいたこともあったようですし、時折、水鳥などが池を泳いでいるのを見ることもあります。」

三河島水再生センター 第二沈殿池
水が透き通っているのが分かります。

最後に水質チェックをしている場所に案内していただきました。
そこにあったのは小さな水槽。中で育てられていたのは、小さなサンゴ達。

「ここでは日々、放流される水の水質チェックを行っています。この通り、最後はサンゴが育つほどの綺麗な水になって、川へと流されているんです。」

暗い下水道の中を長い旅を経てやってきた私たち市民や企業からの排水が、このセンターを出るときにはこれほどに透明な水となって、中でふわふわとサンゴが揺れているというのはなかなか不思議な光景です。

たくさんの人が暮せば、たくさんの汚水が発生します。
私たち荒川区民の住むすぐ横で、そんな汚水を大量に処理し、私たちが当たり前のように感じている豊かで清潔な都市生活を保証してくれている。

それが当たり前でないことを実感するツアーでした。

三河島水再生センター入り口は自然公園横、スーパーバリュー側にあります。

三河島水再生センターは、一般の方の見学も可能です。
希望する方は「水再生センター見学受付窓口」(03-3241-0944 / 受付は平日9時~17時)までご連絡ください。

キャンドルナイト in 三河島
〜3600個のキャンドルで照らす歴史〜


三河島水再生センター敷地内にある、国の指定重要文化財「旧三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設」では、今年もキャンドルナイトを実施します。
毎年数千人を集める大好評のキャンドルナイト(イベント情報はこちら)。
今年は11月2日(金)の午後4時~午後8時の時間帯で開催されます。
詳細は東京都下水道局ホームページ及び、公式Twitter(@tocho_gesuido)にてご確認ください。

三河島水再生センター 町屋方向
美しい姿を見せるレンガ造りの旧三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設

<施設概要>

  • 名称:三河島水再生センター
  • 住所:荒川区荒川8-25-1(都電「荒川二丁目」より徒歩3分)
  • 電話:03-3802-7991
  • 運転開始:大正11年3月
  • 敷地面積:197,878㎡
  • 処理能力:700,000㎥/日

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