生まれも育ちも生粋の荒川っ子 – 落語家 三代目 桂やまと(前編)

「友人に荒川区出身の落語家がいるので紹介させてください。」

荒川102で以前取材させていただいたフォーク・デュオ「アツキヨ」のボーカル、佐々木厚さんからそんな連絡が入ったのは2月。

その落語家は、三代目 桂やまと。
江戸時代から代々西尾久に住む、生粋の荒川っ子です。
2014年に真打となり、89年ぶりに桂やまとを襲名。

落語家 三代目 桂やまと

落語については全くの無知の私。
3月に巣鴨で行われた独演会に、中学生の息子と共に訪れた。

桂やまと独演会は毎月開催。前売り2000円、当日2300円。23才以下ならU-23割引で1000円で楽しむことができる、約2時間のアットホームな高座(2018年10月、12月は日暮里サニーホールで開催。詳細はイベントカレンダーにて)。

この日の演目は古典落語の「長屋の花見」と「不動坊」。そして初演となる「正直餅」(初演・土門トキオ作)の三席。

この日の独演会の場所は巣鴨のスタジオフォー。

会場に入ったのは開演の15分ほど前。
30ほどの座席は、一人客や二人客で、ぽつりぽつりと埋まっていく。みなさん気軽ないでたちで、ちょっとばかりの笑いの時間を楽しみに来た。そんな感じ。
リピーターのファンの方も多いようで、お客どうし、スタッフとの間でも親しげに会話が交わされている。

開演時間。ほぼ満席になった会場に出囃子が流れると、桂やまとが登場。座布団に座るなりすっと世間話が始まる。

PTAの会長も務めるやまとさん、ひとしきり学校の世間話などで場を賑わせていたと思ったら、いつの間にか最初の演目「長屋の花見」が始まっていた。

「長屋の花見」は、長屋に住む若い連中と大家さんのドタバタ喜劇。
現代から春のお江戸の長屋の一角へと突然タイムマシンで連れていかれる感覚に若干の戸惑いを覚える。

しかし、少し経つと、今そこで長屋の住人が話しているのを、脇でこっそり覗かせてもらっているような感覚に変わってくる不思議。
軽妙なやまとさんの話も徐々にテンポが上がり、どんどんとその情景の中に観客は一体化していく。
会場のみなと一緒になってドッと笑う瞬間、同じ笑いを共有しているという、なんともいえない連帯感がスタジオ内に広がるのを感じる。

一緒に来た息子には少し話の内容が難しいかと思いきや、大人たちと一緒になって大笑い。若くても落語は楽しめるようだ。
約2時間の笑いの時間はあっという間に終了。客達は変に後を引くこともなく、さっと座席を立ち、会場を後にする。

演じられた高座のあるその会場で、桂やまとさんに、なぜ落語家を志したのか、荒川区への思いなど、話を聞いた。

 

予備校から逃げたい一心から開けた落語の道


生で落語を初めて聞いたのは浪人2年目の時です。
予備校には行かせてもらえたんですが、一年目の浪人がきゃぴきゃぴしている環境で、二浪って本当に居場所がなくて窓際族で(笑)。

実は私の祖父が、いつも新聞社から浅草演芸ホールの招待券をもらっていてそれを楽しみにしていたんですが、その頃は祖父が寝たきりになってしまって、招待券は毎月もらうけど行く人がいない、と。それで、予備校に行きたくない一心で、逃げるように、その招待券を持って私が演芸ホールに行った、というのが全ての始まりです。

独演会の会場前には色鮮やかな「桂やまと」の幟が。

その時、初めて行った寄席で、お客さんがウェーブして笑っていたんです。良い回だったんですね。「これはすごく面白いものがある!」と思いました。
それからは招待券ではなくて自分でチケットを買って、他の寄席なども見に行くようになりました。
結果、寄席に行くという楽しみが出来ることで勉強もするようになって中央大学に受かり、すぐに落語研究会の門を叩きました。

実は落語研究会は潰れかけていたんですけど、その時は一年生の同期が10人ぐらい入って盛り返したんですよ。その同期達がとても良かったので、そのうち「自分の生業になればいいな」という淡い気持ちが芽生え、その気持ちが段々と膨らんでいきました。絶対に落語家になると決めて親を3年間説得しました。

私は人生には勢いって必要だと思うんです。未来についてずっと考えあぐねて迷っていたのが、「これしかない!」という気持ちを自分の中で感じたときに、凄い勢いが出ましたね。
どうやら親もそれを感じたようで、だから最終的に落語の道に入ることを許してくれたんだと思います。「あ、こいつ、今までにない本気だわ」って(笑)。

 

階級のはっきりした落語の世界


修行はめちゃくちゃでした(笑)。
一般社会は一般社会、落語界は落語界だと、この世界ではそこをはっきりと切り分けていて、一般社会での通念を持ってきたりはしません。

落語家にははっきりした階級があり、まず最初は「見習い」と呼ばれます。
見習いというのは師匠の身の回りの世話をする段階で、この期間が半年から1年ぐらいあります。
楽屋に入る前の段階ですが、この間に辞めていく者は辞めていきます。厳しいので。

やまと通信を発行。

その次は「前座」になります。
前座も師匠の世話をするのですが、ここからは寄席で働くようになります。
昼席と夜席のどちらかに入るんですが、この寄席で下働きをします。4年間から5年間ほど続きますが、この期間はほぼ楽屋仕事しかありません。

それが終わると「二ツ目(ふたつめ)」です。
二ツ目になると羽織を着ることが許され、下働きの仕事は一切なくなります。また、師匠の元にも毎日通わなくてよくなります。
その代わり、自分で捕まえた仕事しか収入源がなくなります。
ここからが本当の勝負、ということになります。収入がゼロの人もいれば、月に数十万円稼ぐ人もいます。
二ツ目として10年ほど過ごし、つまり入門から15年ほど経つと、所属している協会が認めれば落語家の最高位の「真打(しんうち)」となります。

 

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